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【BL】元ヒモの俺、攻略対象たちの親友になったら天才魔導士に選ばれました  作者: 肺魚


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3話 天才魔導士の髪を心配したら、友達候補になりました

 翌朝、目覚めると目の前が明るい。邪魔だった前髪がなくなって、視界がスッキリしている。

 昨日の夕方に無理を言って整髪店の人を呼んでもらって、前髪を切ったついでに髪型を全体的に整えてもらったのだ。目の上ギリギリの長さだから、キープするのにこまめに切らなくてはいけなくて手間はかかるが、髪型の印象は見た目の七十五パーセントとも言うから手を抜けない。

 ヘアオイルで無造作な感じの癖をつける。あくまでも無造作な感じ、であって、本当に無造作なわけではないのがポイントだ。彼女たちの髪の毛をいじる前に、自分でたくさん練習したから、髪の毛を整えるのは結構得意だったりする。色々な種類の編み込みも練習したっけ。

 制服も、自分でダブついていたところを縫って、体のラインに沿うように詰めた。裁縫も前世でたっぷりやってきたから、このくらいならなんとでもなる。前世でも彼女の買ってきた服の裾上げとか、よくやっていた。まだこれから鍛えて体つきは変わる可能性があるから、縫い止めた糸を外せばゆとりがある状態のままだ。

 ネクタイも適当ではなく、きちんと締める。

 眉毛も剃刀と小さなハサミで整えたし、爪もヤスリできっちり磨いた。どういうわけか、ムダ毛がほとんど見えないのが不思議だ。すね毛も水色なのかなと思って見てみたが、うっすらと透明な産毛が生えているだけだったのだ。まあ、手入れが楽で助かるけど。

 朝食の席で、次兄のルクレシオ兄さんが、ギョッとしたようにこちらを見てきた。

「エーヴ……その、ずいぶん雰囲気が変わったな?」

「おはよう兄さん」

 俺はにっこりと微笑みかけた。それにも兄はえっ? みたいな顔をする。これまで、前髪を長く伸ばして目を隠し、俯きがちで小さな声でボソボソ喋っていた弟がいきなりイメチェンしたら、まあ驚くのが普通だよな。

 でも、君の弟は文字通り生まれ変わったのです! 学園デビュー、見守っていてくれよな!

「学園に入るから、これからはもっと色々きちんとしようと思って」

用意された食事を見ながら言うと、兄は少し納得した様子で微笑んだ。

「そうか。応援するよ」

「ありがとう」

 スタンドに立てられた薄いトーストを手に取って、バターとジャムを乗せる。このマーマレードはレイジントン家の領地で作られたものだ。王都では、暖かい土地でしか成らない柑橘は贅沢品である。生果はもちろん、ジャムもジュースも貴族家に人気で、子爵家にしてはうちは裕福なほうだった。

 これは、女子へのアピールとしては、なかなか良い条件ではないだろうか。柑橘は香りもいいし、女子ウケが良いはずだ。

 出がけに、うちの商会で扱っていた柑橘のコロンを控えめにつけて、これで登校の準備は万端だ。



 馬車を降りて校舎に入り、教室へ向かう。一年生の教室は三階で、学年を上がるごとに下の階になるそうだ。

 昨日、職員室で聞いた通りに振り分けられた二組の教室に入ると、席はもうほとんど埋まっていた。自分のものと言われた席に鞄を置いて、近くの席の人たちを観察する。

「君、昨日いなかったよね?」

 前の席の男子が振り返り、話しかけてきた。

「うん、ちょっと問題が起きて、入学式の間は保健室にいたんだ」

 俺が言うと、近くの席にいた女子たちがちょっとざわめいた。

「病弱男子ってやつなのかしら?」

「髪色も淡いし、なんだか見た目からして儚げだものね」

 んん? なんだか予想していないほうに話が行っている。知らない女子にぶつかられて頭を打ったとか、犯人探しをするのもアレだし、さすがに言うべきではないと思ったんだが。

 僕(・)は小さい頃こそ少し病弱だったが、今は年に一度か二度、風邪をひくかひかないか程度の健康体だ。

「他はもう、昨日のうちに、自己紹介とか終わっているのかな? レイジントン子爵家の三男、エヴァリオです。よろしくお願いします」

 ぐるりと周りを見回してから、少し声を張り上げて挨拶する。周りは「ああ、あの柑橘の」とか、「ジャム売ってる商会のところの」とか、それぞれ納得した様子で頷く。

 レイジントン家、意外と知名度あるな。

 教室の後ろのほうには、昨日中庭でニアミスした王太子殿下、ローヴェルク様も座っていた。隣の席には、長い黒髪に赤い瞳の、クール系美少女が座っている。おお、あれ、天然の縦ロールみたいだ。すごい。

 それ以外は、全体的に濃淡はあるものの茶色い髪の人たちが一番多かった。次いで、黒っぽく見える暗い藍色とか、紺色とか、淡い緑とか、グレージュとかの、前世ではカラーリングでもしなければ見なかったような髪色の人がいる。

 その中で、一人、異質なくらい目立つ色合いの男子がいた。なんと紫色の長髪を、緩く背中で三つ編みにしている。しかも、不機嫌そうな顔をしているがめちゃくちゃ美形だ。

 あ、なんか俺、あの男子のこと知っているかもしれん。確か、同学年に紫の髪色をした、魔法の天才がいるって、入学前に聞いていた気がする。

 この国には魔導師団と呼ばれる魔導士たちの王立の組織があって、そこの次期師団長だと期待されているとかいないとか。あの歳で、もう強力な攻撃魔法の数々を使いこなしており、魔物狩りにも参加しているとか。なんでも、生まれつき膨大な魔力を持っていたとか。そんな噂を、地元で聞いていた。

 髪には魔力が宿るため、魔術の媒体に良いと言う理由で、魔導士は髪を伸ばす人が多いという。彼の長髪も、きっとそのためなのだろう。

 俺は魔力量は平均より少し少ないくらいで、身を守るための咄嗟の結界や生活魔法を使う分には困らないけど、強力な攻撃魔法とかは厳しいと聞いていたから、ちょっと羨ましいなって思っていた。

 彼と仲良くなれたら、魔法習えないかな。女性に喜ばれそうな作ってみたい生活魔法とか、いくつか思いつくんだけど、開発できないだろうか?

 確か名前は——。

「アウスティス・グローガー……侯爵令息?」

 俺が呟くと、周りがどよめいた。彼がこちらを真っ直ぐ見つめる。少し眉間に皺を寄せて、警戒している様子だ。

 なんか、猫っぽいな。俺、猫とは相性あんまり良くないんだけど。

 だって、猫って俺と違って生活の役に立たないのに、可愛いだけで女性の心を癒して鷲掴みするから、なんかズルいっていうかさ。もちろん、彼女が飼いたがっていたらちゃんと面倒は見ていたけど! トイレの始末もしたし、嫌がられながら爪切ったり、餌の時間に叩き起こされたりとかしてたけど!

「何か僕に用か?」

 唸るような声音。なんだか周囲がビビっている。ええ? 表情は不機嫌そうに見えるけど、多分実際は機嫌悪くない……よな?

「その髪……手入れ大変じゃない?」

 俺はまず真っ先に気になっていることを訊いた。だって、前世でも、女性たちの真っ直ぐな長髪って、実際めちゃくちゃ手間かかっていたもん。

 洗う前にまず丁寧に濡らして、シャンプーリンスに洗い流さないトリートメント。毛先にオイルをつけてから丁寧に乾かして、寝る時にはもちろんシルクのナイトキャップ。起きたら梳かして、ヘアミルクもつけて、少しずつ挟んでヘアアイロンで丁寧に伸ばす。そうしてやっと、あのCMみたいなキラキラキューティクルのロングヘアーになるのだ。

 だから、俺は長髪を維持する苦労はそれなりに知っている。そこを上手くフォローできたら、仲良くなれて、魔法のことアレコレ言い合える仲になれるかなって。

「は?」

 アウスティスは、予想していなかったことを言われたように目を見開いて、一声言うとこちらを凝視した。

「いや、髪が媒体になるから伸ばしているのは知っているけど、それだけ長いと絡んだりするし手入れ大変でしょう? あ、ほらやっぱり毛先に少し枝毛できてるし。乾かす前に毛先にオイルつけて、寝る時はシルクのナイトキャップ使うと良いよ!」

 近づいて観察して、俺が続けると、アウスティスはますます俺の顔を凝視してくる。ちょっと珍しい髪色で俺より美形だからって、そんなふうにジロジロ見なくても良くない?

「この毛先って切ったほうが良くない? 俺、ちょっとやっても良い? 結構得意なんだ」

「ま、待て! お前……! なんでそんなこと」

「え、だって気になるし……仲良くなりたいから?」

 俺が言うと、アウスティスは口をぽかんと開けたまま、こちらを見上げて固まってしまった。くそ。美形はそんな間抜けなはずの表情でも美形だな。羨ましい。

「あ、黒っぽく見えていたけど目も紫色なんだ? 紫水晶みたいで綺麗だね」

 目を見開いているせいか、光の加減か、さっきより瞳の色が明るく、紫色がはっきり見える。

「お前……!」

「エヴァリオ! エヴァリオ・レイジントンです!」

「エヴァリオ!」

「はーい?」

「お前、いったいなんのつもりで僕に近づいてきた!?」

 うーん、警戒MAX。怒らせるつもりではなかったし、本気で怒っているようにも見えないけど、ちょっといきなり距離を詰めすぎたかもしれない。

「魔法習いたいから仲良くなりたかったんだけど……嫌だったらごめんね」

 意識的に少ししょんぼりした感じで謝る。女性は割と素直に謝ると案外許してくれるんだが、男相手にも通用するかな。

「嫌……? 嫌、なのか? 僕は……」

 なんか、宇宙猫みたいになってしまった。気がつくと、教室は静まり返っている。なんとなく、全員が俺たちから微妙に距離をとっているような?

「——お前、僕が怖くないのか?」

 最初の警戒心たっぷりな様子で、アウスティスが尋ねてくる。

「なんで? 本気で怒ってはいないよね?」

「そうではなくて……。この話は王都に住む連中はほとんど知っているが、僕は子供の頃に魔力暴走を起こして、母親を傷つけた人間だ。この身には、お前とは比べ物にならないような膨大な魔力が巡っている。僕が感情を爆発させれば、それは周囲を傷つけることになると言われている。それが、怖くはないのか?」

 周囲を見回すようにして、アウスティスが言う。その視線を追って周りを見ると、みんな強張った表情で息を呑んでこちらを見ていた。最後列の王太子と黒髪の美少女も、固唾を飲んだ様子でこちらを見つめている。

 え、俺の右目が疼く系ってこと? この右手の封印が……みたいな?

 と言うか、なんでこの人は自嘲するような、投げやりの顔をしているんだろう? こういう表情をしている時、人は大抵自分自身を切り刻んでいる。傷ついた女の子たちをたくさん見てきたから、それを俺は知っている。

「今は制御できているんでしょ? なら、別に怖くないじゃん。——ねえ、なんでそんなふうに突き放そうとするの? 俺のことが嫌いだとか、下位貴族からこういうふうに気安く話しかけられるのが嫌なら、そうはっきり言ってくれて構わない」

 ちょっといきなり距離を詰めすぎたとは思うから、そこは仕方ない。それなら素直に引き下がる。

「……嫌ではない」

「じゃあ、とりあえず友達にはなってくれるの?」

 尚も尋ねると、眉間に皺が寄った。機嫌が悪いと言うより、どうすればいいのか困っているような表情だった。

「考えておく」

 苦い表情で、でも唸るようにしてアウスティスが答える。俺は思わずガッツポーズをした。

「やった! 一考の価値はあるんだ?」

「——お前」

「エヴァリオ」

「エヴァリオ……お前は、相当に変なやつだな」

 苦虫を噛み潰したような顔でアウスティスが言う。俺は割とメンタルが図太いだけで、普通だと思うんだけど。

 そのタイミングでチャイムが鳴り、教室に先生が入ってきた。俺は、自分の席に戻る。前の席の奴が、俺のことを信じられないものを見るように見つめてきていた。

「何か?」

「いや! なんでもない!」

 俺が訊くと慌てて前を向いて教科書を開く。俺も万年筆を取り出し、教科書とノートを開いた。


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