23話 俺たちが作った魔法
「最近、男子学生の間で妙な遊びが流行っていると聞いたが、それの元凶が君だと言うのは本当かい?」
俺はまた、例の執務室のような王族専用の部屋で、放課後に呼び出されて王太子殿下の前に立たされていた。ゴージャスな金髪が、今日もキラキラしている。
「それは……まあ、そうです、多分」
俺が放課後にビームをぶっ放していたら、それを見た男子生徒たちが寄ってきて、「なんだ今の、カッケェ〜」みたいになって、アスティに確認したら別に他人に教えるのは『嫌ではない』と言うので、その場でノートを回し読みしてもらってみんなでビームを撃ちまくった。
そこでふと俺は思いついて、当たった直後に少しだけ目印が残るようにアスティに魔法を調整してもらって、ビームをただ撃つだけでなく撃ち合いのゲームみたいにできるようにしたのだ。前世で言う、サバゲーのような、他愛のない、そんな遊びである。
しかしそれは俺の予想を超えて、恐ろしい勢いで男子生徒たちの間で流行り、四日経った今では、新しい競技の部活にしようという動きまで出てきたと聞いた。
「こんな変な魔法の考案者は確かにエヴァリオですが、術式を構築したのは僕です。何か問題が起きたのなら、エヴァリオではなく、僕が責任を負うべきだ」
今日も呼び出しについてきてくれたアスティが、横からそう言って庇ってくれる。庇ってくれるのは嬉しいけど、変な魔法ってわざわざ言う必要あった?
「アウスティスの問題は変な術式を作ったことではなく、エヴァリオのことになると判断基準が甘くなることだ。前の君なら、こんな魔法、頼まれたって作ったりしなかったはずだ」
王太子殿下は少し厳しい目つきで、アスティを見つめる。アスティも目を逸らさずに、王太子殿下の目を見つめ返す。
しばらく見つめ合って、先に視線を外したのは王太子殿下だった。猫の喧嘩みたいだな。
「俺が考案したので、責任は俺にあります。アスティは俺の言う通りに作っただけなので!」
「その、君の言う通りにアウスティスが動いたことが問題なんだがね」
「僕がやりたくてやりました。エヴァリオのせいではありません」
王太子殿下が今度は俺を見つめて言うのに、すぐにアスティが反応する。王太子殿下は、困ったように一つ、ため息をついた。
「アウスティス。君に心を許せる友人ができたことを、僕は悪いことではないと考えている。それだけは覚えていて欲しい。けれども、君の能力は自由に振る舞わせるには強力すぎる。それも、理解して欲しい」
「僕の魔法と魔力量が危険なことは、忘れたことはありません」
「それなら良いんだけれどね。……それにしても、威力のない魔法を撃ち合う競技だなんて、いったいどんな着想だい? クラス中、君たちの考案した魔法のノートの回し読みで浮き足立っていたじゃないか。これまではどちらかと言うと、君たち二人はクラスの男子たちから少し距離を置かれていたのに」
それは俺も知りたい。学園デビュー初日にアスティにガツンと行ってしまったせいで、俺はクラスで浮いていた。
女生徒たちとはその後のエヴァンジェリン様のお茶会などで美容知識を披露することで挽回があって、普通に話しかけられるような関係に落ち着いていたが、前の席の男子とはずっとぎこちなく挨拶をする程度の付き合いだった。
それが、ビームの一件で、たちまち俺とアスティは男子たちに囲まれ、自分たちにもあの魔法を教えてくれと詰め寄られてすっかり人気者のようなポジションだ。俺だって戸惑っている。
「魔法が格好いいというのは僕にはよくわからないが、エヴァリオと同じ価値観の人間が、思ったよりも多かったようです」
アスティが言う。
だって、アスティが本気で取り組んでくれたおかげで、あの魔法めちゃくちゃ格好いいもんよ。格好いいに、理由や理屈なんてない。
「君たちが思っているよりも、ことは大きくなっている。あの魔法が、的に攻撃魔法を当てる軌道計算と訓練に適しているのではないかと魔法学の教師が言っていたし、男子生徒たちから話を聞いた家族からも、新しい競技として取り入れたいという申し出がある」
「はあ?」
ずいぶんと話が大きくなっている。まったくの想定外だ。
俺はただ、見た目が格好いいビームが撃ちたかっただけなのに、なんだか社会現象のようになっている。まだ、たったの四日だぞ?
「エヴァリオ、君がアウスティスの手を借りて考案した魔法は、今回のこの魔法だけでなく、エヴァンジェリンによると美容魔法のほうもすでに女生徒たちから家族に伝わって、新しい技術として伝播している。本来なら特許を取って管理すべき魔法が、無料で流出しているんだ。少し、気をつけたほうが良い」
さらに予想していなかったことまで言われる。魔法って特許とかあったのか。
「え……それじゃあ俺、アスティに大損させてるってこと?」
俺が訊くと、アスティは余計なことを言うなというように、王太子殿下に向けてはいけないような強い視線を向けた。王太子殿下はそれを、そよ風のように受け流す。強い。
「僕は別にお金には困っていないし、そんなもののためにお前に協力したわけではない」
「でも、本来手に入るべきものを損失していたのなら、それはやっぱりまずかったんじゃ……。ごめん、俺が魔法には特許とかあるって知らなかったから、女子たちにも男子にも、勝手に広めちゃって」
「問題があるのなら、初めからそう指摘している。僕はそれを問題にはしていない。だからお前が気にすることではない」
「今回は、女性たちの間で少しずつ広がっている美容魔法に比べて騒ぎが大きい。この際、二人で商会を立ち上げるのが一番良いと思うが」
王太子殿下が口を挟んできた。俺とアスティが同時に首を傾げる。
「商会、ですか?」
「これを機に、これまで考案した魔法の特許を共同名義で取って、それを正式に販売すれば良い。君の考案で僕が作った、あの髪を巻く魔道具も含めて」
なんだか大袈裟になってきたぞ。まるでアイデア商品や何かのゲームを考案した高校生が起業するみたいな話だが、この世界ではよくあること、なのだろうか?
「もちろん、経営自体を学生の君たちが行うのは難しいだろうから、実際の経営は代理人を雇って行わせるような形が望ましいだろう。学園の中には、家業の手伝いで学生のうちから商会を立ち上げたり、経営に関わる者もいないではないがね。レンドルフなどは、実家の商会の一部を実際に経営している」
レンドルフ、実はすごいやつだったんだな。高校生なのに、商売やってるのか。
「僕とエヴァリオの共同名義というのなら、僕は反対しない」
アスティがそう言って、じっと俺を見つめてくる。俺に一任してくる感じなの? 商売を始めるという大事なことなのに?
「アスティは、本当にそれで良いの? 俺はアイデア出しただけだし、別に俺の名前なしでアスティだけの商売でも良いと思うけど」
俺の言葉を聞いて、アスティは眉間に皺を寄せる。
「お前が考案したものだ。僕だけのものではない」
そうして、睨むようにして言った。俺は、そんなアスティにさらに尋ねる。
「商売をすることになるのは問題ないの? 家とかに相談もせずに決めて平気なわけ?」
「嫌ではない」
「嫌ではないのはありがたいけど、本当に家族に相談しなくても良いのかな」
「僕は問題ない。文句は言わせない」
うーん、アスティの決意が強い。王太子殿下のほうを見ると、軽く肩をすくめて見せた。こうなったアスティが強情なのを知っているという感じだ。
「経営者が必要なら、レンドルフに頼んでみると良い。条件の合う『大人』を探してくれるはずだ。それから、正式に商会を立ち上げることになったら、僕にも一声かけて欲しい。髪を巻く魔道具では僕も共同開発をしたわけだし、なかなかの優良株だ。僕も個人資産から融資するよ」
俺の手を離れて、どんどん決まっていっている気がする。
「……帰ったら、兄に相談してみます」
俺がそう言うと、王太子殿下は鷹揚に頷いて見せた。
「そうするといい」




