↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【BL】元ヒモの俺、攻略対象たちの親友になったら天才魔導士に選ばれました  作者: 肺魚


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/25

22話 お前が喜ぶのだから

 入学式から四ヶ月めに入った。早いもので、もう七月だ。季節は完全に初夏。制服も、半袖の白シャツにネクタイだけのものに切り替わっている。

 ただし、日本の夏と違って、この世界の夏はカラッとした陽気で、陽射しを浴びれば暑いが、日陰に入ったり、日が暮れてからはかなり涼しく過ごしやすい。俺の地元である南方の領地と違って、こちらでは夏でも夜には薄手の長袖を着るか、上から一枚羽織ものが必要なくらいだ。

 今月の末には、学園も夏休みに入る。王都で迎える初めての夏だ。

 ただし、その前には前世での高校と同じように、期末の試験がある。特に魔法の試験は筆記だけでなく実技もあるので、俺はアスティから授業でやる照明や冷却といった、生活魔法のコツを教えてもらっていた。苦手な外国語については、ひたすら教科書を読んで暗記するしかないと言われて絶望している。

 それはそれとして、アスティはやった。本当にあれから大して間がないのに、俺が考えた最強の……じゃない、くだらない見た目だけの派手派手エフェクト魔法を、翌週には理論だけとはいえ構築してきた。

 マジかよ、お前やっぱり最高だな!

「発動の際の言葉をまだ決めていない。これは、お前が考えるべきだ」

「発動呪文か……俺、そういうの考えるセンスないんだよね」

 ドライヤー魔法だって、呪文によく使われる古代言語の辞書から単語を拾ってツギハギした、「ちょうど良い感じの温かい、または冷たい温度の風よ吹け」みたいな感じだし、保湿のための霧魔法はそのまま「霧よ、出ろ」みたいな感じだ。

 前世で世話をしていた作家になった彼女なら、なんか格好いい感じの呪文が簡単に考えられるのかもしれないが、俺にはあいにくそういう言葉選びや言葉遊びのセンスがなかった。

「アスティって、何か新しい魔法開発して、呪文考えたことあるよね?」

「ある」

「発動の呪文考える時、どうしてる?」

「叙事詩などから一部を借りたりすることが多いな」

「じょじしって?」

「神話や英雄譚などを韻を踏んで書いたものだ」

「へえ」

 アスティはやっぱり高位貴族の子息だけあって、学が高いのだなと、改めて思う。この世界にも女神アカナーンの教えをまとめた聖書のようなものはあるけれど、それは家庭教師の前で何度か常識の一部として教えられただけのもので、そういった叙事詩? とやらは俺は読んだ覚えがない。

 前世でも、富裕層やインテリジェンスたちは会話にシェイクスピアとかを引用するとか、そういうのってあったもんな。俺は「生きるべきか死ぬべきか」くらいしか知らないが。

「俺も読んでみたほうが良いのかな。その、叙事詩ってやつ」

 俺が言うと、アスティは小さく首を傾げて見せた。

「お前が本当に読みたいのなら持ってくるが、無理に読むようなものではない。なにか、考えていたわけではないのか? かなりイメージは具体的だっただろう?」

「うーん」

 まさか、前世のアニメの魔法をそのまま言ったとは言えない。あれって何ていう魔法だったっけ。

 オタクの彼女の言うことには、あの作品ではキャラ名とかはドイツ語から持ってきているものが多かったけれど、呪文は造語だったとか言っていたよな。そうしたら、完全に語感だけで決めても良いと言うことか?

「もう、『ビーム』で良い気がしてきた……」

 この世界にはビームという英単語がないのは、アスティが知らなかったことでわかっている。そのまま光線、という意味だけれど、短くて覚えやすくて、この世界では他に意味がないという面では、なかなか優れているように思える。

「光線、という意味だったか? どこから取ったのかわからないが、不思議な響きだな」

 アスティ、もの覚えが良いな。俺が先週うっかり口にした言葉を、ちゃんと覚えている。

「なんか響き格好いいだろ?」

 俺が言うと、それには少し首を傾げる。

「魔法や呪文に、格好いいとか悪いとかあるものか?」

「ええー、そこはロマンというかさあ」

「正直、よくわからない」

 そう言いながら、ぶつぶつと何かを呟きながら、ノートに書かれた魔法の構築にサラサラと書き込みを入れていく。慣れた作業のようだった。

「発動言語を設定した。これで完成だ」

 数分経ってから、書き終わったのか、ノートを俺のほうに向けてくれる。俺は、それをふんふんと眺めた。

「短い単語に発動のための術式すべてを乗せるのは、なかなか大変だったが」

「それを先に言ってよ」

 そうしたら、もっと長い、それこそ治癒魔法の呪文のような呪文だって考えたのに。

 俺が言うと、アスティはまた首を傾げる。

「できたのだから、問題ないだろう」

「あのね、俺は別にアスティに余計な苦労とかはしてほしくなくて……特に、こんな別に何かの役に立つ魔法でもないんだし、短い呪文を発動に使うのが大変だって知っていたら、ちゃんと他の呪文考えたよ」

「役に立たないわけではない」

「ただのロマンで、意味なんてないんだって」

「意味は確かにないのだろうが、役に立たないわけではない。お前が喜ぶのだから」

「え……? は……?」

 俺は、見る見る自分の顔に血が上がっていくのを感じた。何という殺し文句を言うのだ、こいつは。

 こんなにくだらない魔法を、アスティは俺が喜ぶからそれだけで価値があると言った。

「顔が赤い。熱でもあるのか」

「ないよ! あー、もう、アスティって言葉選びがおかしいけど、たまに心臓撃ち抜いてくるよな……」

「必要なことが伝わるように、適切に話しているはずだが」

「そういうところだって」

 不思議そうに言うのに軽く吹き出す。どこかぎこちなくて、でも端的で真っ直ぐな断定寄りの発言。いかにもアスティというセリフだ。



 伸ばした腕の先。人差し指を真っ直ぐ『的』に向けて、指先に魔力を込める。ノートに構築された術式を脳裏に思い浮かべながら、俺は呟く。

「ビーム!」

 人差し指の先、数センチ空いた空間に、光の点が生まれ、そこから円をいくつも重ねた魔法陣が展開する。円の外周に沿うように、叙事詩から取ったらしい格好のいい文字列がくるりと回って行った。

 そしてキュインという音と共に魔法陣の中心から、光の矢が放たれる。光の軌跡は尾を引いて、『的』として選んだ裏庭の木の幹に真っ直ぐ進み、当たって消えた。

「……これで良かったのか?」

 不審げにアスティが訊いてくるのに、俺は大きく何度も頷いた。

「か、格好いい〜!」

 俺が感動に打ち震えていると、アスティは心底不思議なものを見るような目で俺を見つめてくる。

「俺、本当にビーム撃った! そうだよな!?」

「確かに指先から光線を出したが……何か、効果が出たほうが良かったのではないか? 軽い麻痺程度なら、お前の魔力量でも乗せられるが」

「そういうんじゃあないんだよ、これは!」

 俺が力説すると、アスティが黙る。

 アスティにとって、魔法というのは実用性の塊だから、こういう見た目だけの魔法の価値がわからないのだろう。本物の高度で強力な攻撃魔法が使えるのだから、こんな代替品を喜ぶ気持ちが理解できないのも無理はない。

「もう一回、もう一回撃ってみていいか?」

「……好きなだけ撃て。お前の魔力量でも、百回は撃てるように構築してある」

「百回はさすがに撃たないと思うけど」

「——魔力切れにだけは気をつけろ」

 俺の言葉を信用していない口ぶりだった。

「そうしたら、また魔力譲渡してくれればいいじゃん」

「冗談でもそんなことを言うな。二度と、あんなふうに酩酊されたら困る」

 俺が軽口を叩くと、きつく睨みつけてくる。ぱっと見暗く見える瞳の色が、はっきりとした紫に変わった。

 これまでの付き合いで、感情が動いた時に赤みが増して、紫色がはっきりすると推測している。

 記憶にないけどやっぱりあの時、失礼なことを言ったかしたか、したんだな、俺。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。