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【BL】元ヒモの俺、攻略対象たちの親友になったら天才魔導士に選ばれました  作者: 肺魚


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21話 俺自身が使いたい魔法

 アスティの手を借りての美容魔法の開発は、ドライヤー魔法と、霧(ミスト)を当てる保湿魔法を開発したところで、少し暗礁に乗り上げていた。俺がプロのヒモとして、前世で歴代の彼女たちにやっていた技術を再現するための魔法を開発してきたわけだが、彼女でも——婚約者でもない相手にやれることは限られている。

 例えば、前世では俺はマッサージなども得意にしていたわけだが、これはこの世界の令嬢たちにやるわけにはいかない。婚約者でもない女性の体を揉みほぐすなどという蛮行をしたら、間違いなく社会的に死んでしまう。

「触れずに振動だけ与えるとか……も、駄目だよな、多分」

 俺がノートを広げて、ああでもない、こうでもないと考えている傍ら、アスティはもぐもぐと俺の家から買った、ナッツの糖衣がけを食べている。魔力の制御にはカロリーを消費するためなのだが、膨大な魔力を保持しているというのも、それはそれで大変なんだな、と俺は思う。素人考えでは、魔物狩りなどで魔力を大きく消費した時ほどカロリーが必要そうに思えるのだが、そういう時は逆に制御する必要があまりなくなって腹は減らないらしい。

「エヴァリオ」

 よく噛んで飲み込んでから、アスティが話しかけてくる。

「なーに?」

「お前自身が欲しい魔法はないのか?」

「温風を出す魔法も、霧を出す保湿魔法も、俺が欲しかった魔法だけど?」

 俺が答えると、アスティは不満げに眉間に皺を寄せる。

「誰か他のやつのための魔法ではなくて、お前自身が使ってみたい魔法はないのか、と訊いている」

「誰かのためではなくて、俺自身が使いたい魔法……?」

 俺はアスティの言葉を聞いて、鸚鵡返しに答える。そんなこと、これまで考えたこともなかった。

 俺がしてみたいこと? 魔法で?

 考えてみるが、思いつかない。

 これまでずっと、プロのヒモとして誰かの役に立つことだけを考えて生きてきた。できることが増えれば、彼女たちはそれまで以上に喜んでくれて、俺はそれらを養われる対価として差し出して生きてきた。だから今も婿入り先を探すのに、女の子が喜ぶ魔法を開発しようとしている。

 けれど、アスティは誰かのためではなく、俺自身が使いたい魔法がないのかと尋ねてきた。

「えーと……空を飛ぶ、とかは、風魔法であるみたいだけど、俺の魔力量だと厳しいんだよなぁ」

 思いついたものを言ってみる。

「確かに、それはお前には無理だと思う」

 アスティが頷く。そこはフォローとか入れてくれないのな。アスティらしいけど。

「他には?」

「他にぃ〜? なんだろう? それ、考えなくちゃ駄目なやつ?」

「そうだ。駄目だ」

「うーん……」

 アスティがそう言うのなら考えるけどさ。でも、なかなか浮かばない。

 服の染みとかシワを取る魔法とか考えたけれど、それはやっぱり誰かの役に立ちたい魔法で、俺自身が使いたい魔法かと言われるとなんだか違う気がした。

 魔法。魔法ね。

 膨大な魔力を持つアスティなら、どんな魔法でも楽々使えてしまうんだろう。現に、もうすでに強力な攻撃魔法を使いこなしていて、魔導師団と騎士団が協力して行う魔物狩りとかにも同行していると聞いた。

 強力な攻撃魔法って、やっぱり見た目も派手で格好いいのかな。昔、彼女に付き合って観ていた、長命のエルフの魔法使いが主人公のアニメを思い出す。

 あれに出てきた攻撃魔法、格好良かったな。こう、派手に魔法陣がいくつも展開して、そこからビームが飛んでいくみたいな。

「なんか、こう、見た目派手な魔法陣とかのエフェクトが出る、ビームとか……撃ってみたい……かも」

「ビーム? ってなんだ?」

「ええと、光線? 軌跡の見える光の線、かな?」

「攻撃魔法を使ってみたいと言うことか? あれはそれなりに魔力量が必要だし、制御も難しいが」

「いや、別に威力はなくても良いかな? 見た目だけ派手なら、それで充分というか……むしろ効果があったら怖くて使えないわ」

「威力がなくて構わない? それはいったい、何のための魔法だ?」

 アスティがキョトンとした顔をする。いつもの眉間の皺がないと、少し幼く見えた。

「何のためと言われると……特に意味はないと言うか、ただ撃つと楽しそうだなってだけなんだけど」

 自分で言っていて、これはかなりくだらない魔法だなと思った。せっかくアスティが俺の使いたい魔法を訊いてくれているのに、こんなくだらないものしか浮かばなくて、俺は少し恥ずかしい気持ちになる。

「ごめん、忘れて」

 恥ずかしくて、両手で顔を覆う。

 こんな、ただビームを撃ってみたいだなんて。良い歳をして、特撮ヒーローに憧れる小さな子供みたいなことを。

「忘れない」

 即座にアスティが言う。俺は両手の隙間からアスティの顔を覗き見た。

「作ろう。その、見た目だけの派手な魔法を」

 真剣な顔だった。



「その魔法陣というのは、どんな見た目なんだ? 何が書いてある?」

「ええ……なんか呪文のような……何重もの円を描いていて、その間に呪文みたいな文が書いてある感じで」

 アスティと真面目に、見た目だけ派手なエフェクトのビームが飛ぶ魔法を作ることになった。俺は、ノートにガリガリとイメージする魔法陣のようなものを、万年筆で描いていく。

「お前、絵が上手だな」

 アスティが少し、感心したように言うのに、俺は「そうだろ?」と少し胸を張る。

 俺は割と器用なので、絵を描くのも得意だ。よく、作家になったオタク気質の彼女、村沢結衣にせがまれて、漫画やアニメのキャラの模写を描かされていた経験が役に立っている。

 脳内に浮かんでいるのは、長命のエルフ魔法使いが、昔の仲間との旅をなぞるように今の新しい仲間たちと旅をするファンタジーアニメに出てきた、攻撃魔法だった。

「魔法陣の大きさは?」

「これくらい、かなぁ?」

 軽く両手を広げて見せる。

「でも、大きさは完全に固定というわけじゃなくて、いくつかパターンがあっても良いな」

「……妙に具体的だな」

 アスティが少し探るような眼差しで見つめてくる。過去にアニメで見たモデルが頭に浮かんでいるからだが、前世のことは俺だけの秘密なので、ここは例によって笑って誤魔化すしかない。

 他にも色々と訊かれて、それに答えていくうちに、構想はかなりまとまった。これまでのメモをノートにまとめる。仕様書のようなものが完成した。

「このノートを借りても構わないか?」

 アスティが尋ねるのに、俺は頷く。夢中になっていて気が付かなかったが、もう結構良い時間だった。二人揃って馬車乗り場まで歩く。先に家格の高いアスティの家の馬車が回されて、アスティが乗り込み、俺を窓から見下ろした。

「次の機会までに、構造を考えておく」

「急がなくて良いよ」

 俺が言うと、アスティは不愉快そうに眉を寄せた。

「僕がこんなもの程度に手こずると思っているのか?」

「いや、普通にお前忙しいでしょ?」

「お前は……」

 そこで馬車が動き始める。俺が手を振ると、アスティはそれに返すように、小さく手を振りかえした。

 俺は侯爵家の馬車が遠ざかっていくのを、黙って見送る。それから少しして、うちの子爵家の馬車が回されてきたので、俺も乗り込んだ。

 御者の人には、いつも放課後遅くまで待たせて悪いとは思っているのだが、アスティとは魔法の開発をして、アンガス先生に治癒魔法を習い、リュシアンとは料理の話をし、走り込みをしつつランディアスと筋トレもし、レンドルフには化粧を教えている。そこに、月に二回くらいの間隔でエヴァンジェリン様から女生徒を集めたお茶会でサロンに呼び出されているのだから、俺の放課後も結構忙しい。

 今度、次兄に言って、少し手当を増やしてもらうことにしよう。俺は馬車で家に向かいながら、そんなことを考えた。


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