↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【BL】元ヒモの俺、攻略対象たちの親友になったら天才魔導士に選ばれました  作者: 肺魚


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/25

14話 私だけが知っている攻略法

(※別キャラ視点です)


 男爵家の長女である私、ユリアナ・ハーヴィーが前世でプレイしていた乙女ゲーム『永遠の約束と花冠を君に』の世界に、ヒロインとして生まれ変わっていたことに気がついたのは、学園入学の朝だった。

 本当に朝起きて、普通に制服に着替えて、鮮やかなピンク色の髪を梳かそうと鏡を覗いた瞬間、『あれ、この見た目ってヒロインじゃない?』って、突然ゲームの記憶が蘇ってきたのだ。

 混乱が治るまで十分ほどかかった。メイドがこのままだと朝食を食べる時間がなくなると呼びにきて、私は内心パニックになりながらも食堂へ向かう。前世の自分のことは、日本という国の女子大生だったということ以外あまり思い出せなかったけれど、このゲームの知識だけはなぜかはっきり思い出せた。

 薄いトーストに少ないバターを薄く伸ばして、少し贅沢にいちごのジャムを乗せて食べながら、この先のことを考える。

 攻略対象は、隠しキャラの保健医を含めて六人。王太子殿下と騎士団長の息子には婚約者がいた気もするが、お約束通りどちらもお邪魔虫のライバル令嬢だから、最後には努力家のヒロインを認めて婚約を辞退してくれるはずだ。

 運の良いことに攻略方法はバッチリ記憶に残っている。記憶が薄れる可能性を考えて、できるだけ早く詳細なメモを残したほうが良いだろうけれど、とりあえず入学式の今日するべきことはわかっていた。

 朝イチに中庭にいる王太子殿下ローヴェルクとの出会いイベントを済ませて、それからクラスメイトの宰相の息子リュシアンとは、まずクラス委員を引き受けることで接点ができる。

 騎士団長の息子のランディアスとは、一週間後の放課後に裏庭で鍛錬をしている時に話しかければ良いし、大商会を商う伯爵家の嫡男レンドルフは女の子たちに囲まれて食事をとる社交派だから、そのメンバーに入り込めば接点ができる。

 魔法学の実技授業が始まれば、治癒魔法に適性があることが判明して、隠しキャラの保健医シェルバートから授業を受けることになる。

 そうして治癒魔法を使いこなせるようになって、魔法学の成績で優を取れば、ゲームで一番難易度が高いと言われていた、孤高の天才魔導士アウスティスとのルートが開ける。

 それぞれのキャラクターには劣等感や孤独、罪悪感などのヒロインが埋めるべき隙間があって、タイミングを見計らって必要な言葉を届けることで、彼らの信頼を得られ、やがてそれは思慕へと変わっていくのだ。

 ランディアスやアウスティスのイベントの中に、時おり魔物狩りといった物騒なものも出てはきたが、ヒロインは治癒魔法の使い手なので後方支援部隊で怪我人の治療をするくらいで、危険な目に遭うことはない。

 ローヴェルクが学園に入り込んだ不審者に狙われるイベントもあったが、その時だってヒロインが咄嗟に危険を知らせて叫ぶだけで、ランディアスとアウスティスが犯人を捕まえてくれて終わったはずだ。

 大丈夫。ちゃんと覚えている。それなら、記憶通りに攻略していけば最後は素敵な攻略対象たちに愛されて、なんなら王太子妃にだってなれるはず。

「そろそろ学園に向かわなくて大丈夫なのか?」

 食卓を囲んでいた父親から話しかけられて、時計を見るともうかなり良い時間になっていた。このままだと、入学式前のローヴェルクとのイベントに間に合わないかもしれない。

 私は慌てて食べ終わると、馬車を急かして学園へと急いだ。ローヴェルクが中庭にいるのは、入学式より前の時間だけだ。

 私は全力で中庭に向かって走る。途中、中庭へと続く渡り廊下の曲がり角で、急に向かいから男子生徒が現れた。細っこくて淡い水色の髪で目元を隠した、地味な子だ。

「どいて!」

 立ち止まれないまま、私は叫ぶ。

「あー、もう! 王子様とのイベントに遅れちゃう!」

 どしん、と肩が相手にぶつかった感触があったが、私は振り返ることのないまま中庭に向けて駆け続けた。

 いた! キラキラと輝く金髪の生徒が、中庭に立っているのが見えた。私は駆け足をやめて、静かに歩み寄る。一見すると一人だが、よく観察すると、近くの柱の影や木の影には、護衛騎士が静かに佇んで見守っているのが見えた。少し緊張する。

「あっ……お邪魔ですか?」

 私が後ろ姿に声をかけると、王子様はゆっくりと振り返る。

 黄金色の髪に、鮮やかな緑色の瞳。

 ローヴェルクだ。本物だ。格好良くてドキドキする。

「いいや。ここは私だけの場所ではないからね。学園の生徒なら、誰だって自由に立ち入る権利がある」

 ゲーム通りの展開だ。私は可愛く見えるように微笑んで、制服のスカートをつまんで挨拶をする。

「光が差していて、美しい中庭が見えたものですから」

「そうだね。朝の清浄な光が、雨上がりの新緑を美しく見せている」

 私とローヴェルクがイベント通りのセリフの応酬をしていると、やはりイベント通りの邪魔が入った。

「ローヴェルク殿下、そろそろ」

 声をかけてきたのは、ローヴェルクの婚約者で、ライバル令嬢のエヴァンジェリン・ナーシアス公爵令嬢だ。縦ロールの黒髪に、赤い瞳をした、背が高くて気の強そうな見た目の少女。

「ああ。今、行くよ」

 ローヴェルクは呼びかけにそう答えると、こちらに目礼して立ち去っていった。よし、最初の出会いイベントは完璧!

 この後は校内で一人でいる時にタイミング良く話しかけて、少しずつ親しくなっていったら、やがて魔道具作りが趣味であることを教えてくれるはずだ。そうしたら、私の治癒の力を込めた魔道具を提案して、夏休み中に二人で協力しあって制作していくことになる。

 王太子ローヴェルクとの出会いを終えたあとは講堂で入学式に出て、ゲーム通りに振り分けられた一年三組で宰相の息子リュシアン・コールドウェルと同じクラスになり、ちゃんとクラス委員に立候補して接点を作った。

 彼と大きく近づくことになるのは、小テストが終わって成績が優秀だと意識されてからだけど、攻略通りに進めていく。隠し趣味の料理を打ち明けてくれるのは、親密度が上がってからだ。それを笑わず、褒めてあげることで、彼は本当の自分を受け入れられたと安心してくれる。頑張らなくては。

 一週間後には裏庭に行って、鍛錬中の騎士団長の息子ランディアス・ダルザンドとの出会いイベントも済ませた。彼は優秀な兄に劣等感を持っているが、ただ格好いいと褒めるだけでは逆に好感度が下がってしまう。最初は、あなたは努力をしている、それは尊いことだと、ただそれだけを伝えて引き下がるのが正解だ。その後も定期的に声を掛けに行って、少しずつ親しくなればいい。

 大商会の嫡男レンドルフ・ボードウィンは、社交的で女の子たちにいつも囲まれているが、本心はなかなか見せない。子供の頃に妹の額に傷を残したことに罪悪感を持っているので、早く救ってあげたいけれど、親しくなるまでは話してくれないから、まず興味を持ってもらわなければ。

 彼は学食で彼の好物の辛いものが出た時に、自分も辛いものが好きだとこちらが先に口にすることで、興味を持ってくれる。学食で同席して、辛いものが出るタイミングを待つのが結構面倒だが、こればかりは給食のように予定表などがない以上、毎日頑張るしかなかった。

 そのあとは、前髪で目元を隠している地味な見た目のせいもあって、人気者の兄に過保護に守られていることに対して令嬢たちから嫌味を言われたりしている妹をさりげなく庇ってやれば、レンドルフは妹の顔に傷を負わせた罪悪感を打ち明けてくれる。それを許してやることで、彼は救われるのだ。

 攻略対象はわかりやすく、全員派手な髪色をしている。だから、攻略を進めていない時も、たまに学内で見かけることはあった。

 放課後に魔導師団に呼ばれることも多く、クラスが違うせいであまり会えない天才魔導士アウスティス・グローガーなどがそうだ。彼の攻略は治癒魔法を習得してからになるので、もうしばらく経たないとルートが開かない。

 けれどもたまに見かける彼は、ゲームで見たビジュアル通り、女性たちも羨むような艶やかで美しい紫の髪を背中でゆるく編んで、冷たい表情のままスタスタと歩いていく。周囲の人たちはみんな、彼が通ると道を開ける。それを、彼も当然のもののように受け入れている。

 なんだか隣に、淡い水色の髪をした男子生徒が並んでいる気がしたけれど、どうせ彼の才能か、爵位かに惹かれて寄ってきた者だろう。彼はこれまでそういった輩に擦り寄られては、畏れて去られるという苦しみを味わってきたのだ。本当に許せない。

 彼の孤独を癒すのは私しかいない。改めて、そう思う。

 頑張って治癒魔法を習得するから、待っていてね。

 もちろん、治癒魔法を習う際には、隠し攻略キャラの保健医シェルバート・アンガスとの仲を深めることも忘れてはいけない。優しいお兄さんの見た目で内心毒舌な彼は、仲良くなると、ちょっと意地の悪いことを言ってくるようになる。毒舌家の姿こそが本当の彼なのだと認めてあげることで、私だけの前で本当のちょっと意地の悪い姿を晒してくれるようになるのだ。

 なかなか忙しい。アウスティスを攻略するためには、まず治癒魔法を使いこなせるようにならなければいけないし、リュシアンを攻略するには小テストである程度優秀な成績を取らなくてはならないし……前世でも、あまり勉強は得意ではなかったのだけれど。ヒロインも楽ではないわね。



 なんだかおかしいな、と思い始めたのは、入学式から一ヶ月ほど経った頃だった。レンドルフとシェルバートの攻略は上手くいっているけれど、ゲーム通りに進めているのに、王太子のローヴェルクとランディアスの反応が悪いのだ。

 特に、ランディアスの様子がおかしい。まだ、努力だけでは兄との距離が縮まらないことに苦悩しているはずなのに、なんだかさっぱりした様子で剣を振るったりスクワットをしていたりする。

 彼の心の隙間を埋めるようなセリフが、届いているのに届いていないような、妙に手応えがないような。

 彼の努力を認めて、比べる必要はないと少しずつ伝えて、それで初めて自信を持つはずの彼が、正解のはずの褒め言葉を伝えてもどこか困ったように笑う。そろそろ、兄への劣等感を打ち明けてくれても良いはずなのに。

 王太子も、イベント通りの場所でタイミングを合わせて会うようにしているのに、なかなか距離が縮まらず、むしろ何か警戒されている気がする。「なぜ、ここにいるのがわかった?」というようなことを、何度か訊かれた。

 これも、ゲームではなかった展開だ。本来なら、そろそろ趣味の魔道具作りの話をしてくれて、見てみたいと私が言ったら「内緒だよ」と言いながら、大量のアイデアが描かれたクロッキー帳を見せてくれるタイミングのはずなのに。

 リュシアンとの仲は、小テストの内容が一番苦手な外国語だったために、成績が振るわなくて失敗してしまった。

 それだけで完全にルートが閉ざされるわけではないけれど、小テストが一番早く親密度を上げるイベントだったから、それ以外だと遠回りにはなる。あとは地道に、図書室で彼の隠れ趣味の料理の本を開いているところを見つけてもらうか、クラス委員としての信頼を積み上げるしかない。

 一部のキャラの攻略が予定通りに進まなくなってきて、私は混乱していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。