↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【BL】元ヒモの俺、攻略対象たちの親友になったら天才魔導士に選ばれました  作者: 肺魚


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/24

11話 料理の話から始まる友情

 ちょっと思い立って、料理について調べてみることにした。

 この世界はかなり都合が良くて、洋食寄りではあるものの割と前世に似た食文化だったり、家電と同じような役割を果たす魔道具があったりと、便利なもので溢れている。マヨネーズとかケチャップとかの調味料も、しっかりあるしな。食べ物に困らないのは、素直に良いことだ。

 でも、もちろん前世にある全部があるわけではない。そこで、料理本とかを見て、まだ世に出ていないレシピで、何か作れそうなものがあれば面白いな、と考えたのだった。

 アスティが摘むための、カロリーの高いおやつとかがあれば良いな、ないなら作れないかな、みたいな思いもある。

 毎日ランチでレモンパイ食べ続けているもんな、あいつ。食べ過ぎで飽きないと良いんだけど。

 うちの商会から持っていって試食させたナッツの糖衣がけは、こまめな補給にもってこいだったらしくて、今では定期的にお買い上げいただいている。アスティが始終顔を出している魔導師団内でも流行り始めているようで、ちょこちょこ注文が入るようになった。先日、次兄が良い笑顔で仕入れを増やしていた。

 前世ではカロリーを制限するダイエット食ばかり作っていた気がするけど、アスティの場合は逆にカロリーを定期的に摂取する必要があるのだから、これまでとは方向性が全く逆になる。避けていたものを並べればそれで良いというものでもないだろうし、やはりここは一度料理本で、この世界にある料理やお菓子を確認したほうが良いだろう。

 アスティのいない放課後、図書室で選んだ料理本を積み上げる。地味な筋トレの成果で、見た目の筋肉はあまりついていないが、重たい本をまとめて持つくらいならびくともしなくなった。女性の持つ重たいものをスムーズに代わりに持ってやるのなら、ある程度の筋肉はやはり必要なので、この先も筋トレ頑張ろうと思う。

 レシピ本をパラパラとめくる。やっぱり、前世であった洋食の大半は網羅されているような気がする。

 ハンバーグ、オムライス、カレー、ロールキャベツ。ないのは、竜田揚げや煮魚や親子丼などの明らかな日本食や、餃子、ナシゴレン、トムヤムクンなどのアジア料理の類か。

 お菓子は、名前だけを見てもわからないが、やはり大抵のものはありそうだった。

 機械がないのでソフトクリームはないが、氷魔法はあるためアイスもある。常温でも置いておけるバタークリームのケーキのほうがよく見かけるが、フレッシュな生クリームを使ったショートケーキも一応はあるし、ゼリーやプリンやババロアもある。

「でも、ウィークエンドシトロンはなかったよな」

 暖かいところで育つ柑橘が冷涼な気候の王都では貴重だから、レモンのケーキのバリエーションが少ないのだろう。

 料理人に工程を説明して作らせたウィークエンドシトロンもどきを、一センチほどの厚みに切って学園に持ち込んだことがあるが、アスティにも、女子会のメンバーにも結構好評だった。甘すぎないのがいい、という理由で。

 女生徒たちには酸味のせいで気が付きにくいが、かなりの砂糖を使っていることを先に伝えたら、慄きながら食べていた。

「コーヒーはあるけど、ティラミスって見た覚えないな」

 あれも、コーヒーの苦味のせいで甘すぎないが、結構なカロリーだったはずだ。ちゃんとしたレシピは覚えていないが、工程は大体覚えている。エスプレッソが存在しなかったとしても、濃く入れたコーヒーがあれば、うちの料理人でも似たものは作れるのではないか。

 料理のレシピ本を積み上げて、ノートを開きながらうんうん言っているのが目立ったのか、少し注目されている気がする。アイデアをいくつか書き留めていると、すぐ横に一人立って俺を見下ろしていることに気がついた。

「あ、すまない」

 落ち着いた深い緑色の髪をした、同じ一年生のネクタイを締めた男子生徒だった。俺が気がついたことで、覗き見をしていたことにバツが悪そうに詫びられる。

「男で料理本を読んでいる姿が少し珍しくて……つい。僕は、兵站の関係で少し料理に興味があるもので」

「へいたん?」

 俺の平仮名での疑問形に、小さく笑って見せる。知的な雰囲気で、細い銀のフレームの眼鏡をかけている。その下の瞳の色は、グレーっぽく見えた。

「軍での糧食……軍隊が食べるためのメニューとか、栄養のことを考えていたら、料理自体に興味を持ったんだ。調理工程は、科学の実験にも近いしね。君は、菓子職人でも目指しているのか?」

「うーん、手っ取り早くカロリーを補充させるのに、お菓子が便利だったから見ていただけ……かな」

 俺が首を捻りながらそう答えると、相手も不思議そうに首を傾げる。

「手っ取り早くカロリーを?」

「そう。それほど大食漢ではないけど、必要なエネルギーが多いやつで……別に甘いものが大好きというわけでもないのに、いつもランチの時にケーキを二つ食べてる」

「なるほど、それは大変そうだ……それで、そのコーヒーを使ったお菓子の考案とかをしていたのか。砂糖をたっぷり入れた濃いコーヒーで湿らせたスポンジの上に、卵と砂糖とマスカルポーネと生クリームを混ぜたクリームを重ねて乗せる……考えただけで、なかなかの高カロリーだ」

 やはり、ノートの中身を見られていたようだ。しかも、材料からある程度それぞれのカロリーを理解しているようだ。

「その、へいたん? とかの知識から見て、甘いものがそんなに好きではない相手に手っ取り早くカロリーを与えるなら、どうする?」

「うーん、甘いもの以外でとなると、やはりバターなどの脂質が主な摂取源になるだろう。脂のたっぷり乗った肉でも良いが」

「油……。揚げ物とかってどうだろう?」

「ポテトフライのことか? 確かにカロリーは高そうだが、あれは腹持ちも良いからな。少食の相手には向かない気がする」

「ポテト……この世界……じゃない、この国ってポテトチップスってある?」

 あれは甘くないし軽くて食べやすくて、でも一袋食べたらダイエット台無しの、乙女の敵だったはずだ。

「ポテト、チップス……? 聞いたことがないな。どういった食べ物だ?」

 俺は前世の記憶を探りながら説明した。できる限り薄切りにした芋を、大量の油で揚げ、塩やコンソメを振って味付けをした揚げ菓子、といった風に。

「ああ、でも女子……じゃない、貴族が食べるなら、箸……は無理として、なんか良い感じの摘む道具がないと、手が汚れるから食べられないか。小さなトングとかはどうだろう?」

「ずいぶんと変わった発想だな。揚げた薄切りの芋とは。ポテトフライとは何が違う?」

「食感がパリパリで食べやすいんだ。嵩張るけど量はないから腹持ちは悪い」

「薄く切って揚げた芋となると、油がたっぷり染み込んでいそうだな。それだと栄養バランスが悪いが、確かにカロリーだけは高くなりそうだ。ただし、塩をかけて食べるのなら、気をつけないと、塩分の取り過ぎになる」

 男子で栄養バランスとかに詳しいのはなかなかすごい。前世でも、男の手料理系はある程度流行っていたけれど、あんまり栄養バランスとかは考えない、肉肉しくて調味料たっぷりのザ・男の料理! みたいなのが多かったからな。

 俺は、案外料理が苦手ではなくて、国営放送のお料理番組や料理研究家のレシピ本やSNSに載っている料理をメインに作り始めて、最後のほうは割と冷蔵庫の残りで名前のない適当なおかずを作る領域まで行ったが、さすがに完璧な栄養学まではおさめてはいなかった。これは塩分や脂質が多いとか、炭水化物を控えめに、とかはもちろん考えていたが。

 ダイエット食も、結構よく作った。あれはまあ、慣れだな。豆腐や鶏胸肉を上手く取り入れて、薄味で、野菜多めで、でも繊維質を多くしすぎない。

 繊維質が多すぎても、お通じが固くなりすぎるのだ。そんな時は、たくさん水を飲ませて、サラダにオリーブオイルをひと回しかけたり、朝食にバナナを添えたりもしていた。

「面白い発想だ。興味深い」

 緑髪の彼はそう言って笑った。神経質そうな顔つきだが、笑うと人懐こくも見える。

「名前、聞いても良い? 俺、一年二組のエヴァリオ・レイジントン。子爵家の三男」

 俺が言うと、彼は驚いたようにこちらの顔をまじまじと見つめてくる。なんか、これ、あれだ。ランディアスの時と似た反応だ。

「レイジントン、子爵令息……確かに聞いていた通りの淡い水色の髪だが……君が、あの……」

 あー、やっぱりこのパターンか。ということは、この人物も王太子殿下絡み、なのか?

「一年三組の、リュシアン・コールドウェルだ。父が宰相をしている関係で、王太子殿下の側近候補としてお側に置いていただいている。君のことは……王太子殿下から聞いている。初対面からやたらと距離が近い、変わった……いや、珍しいタイプの人間だと」

 それ、言い直す意味あった? 思わずジト目で見てしまう。リュシアンは少しバツの悪そうな顔をして、でもそのあとは人好きのする微笑みを浮かべた。

「君と料理の話をするのはなかなか面白い。これからもたまに、こうして話ができると嬉しく思う。その、ポテトチップスとやらを作ったら、ぜひ試食させてほしい」

 こうして、俺には前世ではいなかった男の料理友達ができた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。