生真面目メガネとおちゃらけ男子
ごきげんよう、皆様。
私はアリシア・ヴェルブラント。前世の名前は山田花子。
ある日、乙女ゲームの世界に転生してやったー美形美少年にモッテモテー!とかってはしゃいでたら、一番の推しキャラにホモの当て馬にされて散々な目に遭ってしまった、不憫なか弱い乙女よ。
何を言っているのか分からねーかもしれないけど、あんまり重要なことでもないから適当に解釈して流して欲しいわ。
そんなことより重要なのは、そう!
私にちゃんとした恋人ができるかどうか、よ!
せっかく乙女ゲー世界に美少女主人公として転生したんだもの!
素敵な男子と素敵な恋に落ちて周りのモブからリア充爆発しやがれ的な視線集中砲火を浴びつつ幸せ大団円なトゥルーエンドを迎えたいッ!
なんかこれを考えてると、前世の友達の「頭ぱっぱらぱーもいい加減にしな」っていう冷たいツッコミの声がどこからともなく聞こえてくるけど!
私、頑張る!諦めない!
前回は何かの手違いでホモップルに巻き込まれるだけで終わってしまったけれど、今度こそ!
美形美少年とお近付きになってイチャイチャしてやるんだからッ!!
そんな決意を胸に秘めつつ、今日も王立学院に登校した私。
教室に入ると、ヒューゴ様とシーザー様が二人揃ってやってきて、おはようの挨拶をしてくれた。
私も愛想よく挨拶を返す。
…この二人とは恋愛的な縁はなかったけれど、まあ普通に仲の良い異性のクラスメイトってポジションで落ち着いたわ。
前回の一連の騒動で、一定の信頼を勝ち得たみたい。
主に、ホモップルへの理解者、って意味での信頼なのがしょっぱいところだけど…
私、別に同性愛を否定したりはしないのよ。
そーいうの好き好きだと思うし。他の人の迷惑にならなけりゃ勝手にすればいいじゃない。
そんな私のスタンスがこの二人には好ましく映ったらしいのよね。
あんまり懐いてこられても困るんだけど…
とはいえ、クラスの中心人物でもある二人と親しくなったからか、男子の群れに女子一人っていう異様な状況の教室で、だいぶ打ち解けられるようになってきた。その点は二人に感謝よね。
実際、進んで私に挨拶してくれる男子が他にもできた。
「おっはよー、アリシアちゃん!今朝も可愛いね!」
ほら、来た。
軽〜いノリで声を掛けてくれたのは、モリス・ユーティア様。この学院に通ってるんだからもちろん上級貴族よ。
ピンク色の頭髪が特徴的な、少しタレ目気味だけど甘いマスクのイケメン。
いかにも女ったらして感じで、実際にその通りだけどね。
とりま、挨拶っと。おはようございます、モリス様。
「ふふっ、僕このクラスでよかったー!毎日アリシアちゃんと会えるなんて幸せだよー!」
本当にチャラいなぁ。
とか思ったのは、なにも私だけではなかったみたい。
「朝から何を軽薄なことを……そういうのはやめたらどうだ。アリシアさんも困ってるだろ」
そうモリス様を咎めたのは、グレミオ・ワーズワース様。
緑の髪の長身メガネ男子。もちろん上級貴族で、もちろん美形だわ。
言わずもがな、二人とも乙女ゲーでは攻略対象のキャラだった。
あのゲームって攻略上、対になってるキャラがいるんだけど、この二人がまさにそれ。ついでに、ヒューゴ様とシーザー様もそうだったわね。
好感度フラグってあるじゃない?
時々出てくる選択肢で、一方のキャラを上げようとすると、もう一方が下がっちゃうって設定になってるの。
だから同時攻略する際には、好感度が偏りすぎないように気をつけて進める必要があったのよね…ってのは完全に余談だけど。
この二人はフラグだけじゃなくて、性格なんかも対称的なキャラとして描かれていた。
チャラ男と真面目くん。
遊び人と優等生。
右脳感覚派と理知的メガネ。
ゲームだと主人公であるアリシア視点で進むから、攻略対象同士の絡むシーンってあんまりなくて分からなかったんだけど。
実際のこの二人、まさに水と油。犬猿の仲って感じだわ。
教室でも何かにつけて言い争ってたりするし…
今も、
「もー、うっさいなぁ堅物くんはぁ!邪魔しないでよ!別にアリシアちゃん困ってないでしょ?」
「おまえがそんなふうに言うから、アリシアさんも気を遣ってくれてるんだろ。勘違いするな」
「なにそれー!ムカつくー!」
「すまない、アリシアさん。ああ、それと遅くなったが……おはよう」
モリス様には厳しい顔を向けていたグレミオ様。私には打って変わってふわっと微笑んでくれた。
美形の微笑み!マジプレシャス!
超眼福ですどうもありがとうございます!
…って、心の中で拝んでる場合じゃないわね。
私はグレミオ様にも挨拶を返して、一応フォローを試みた。
別に私、困ったりはしてないですよ。モリス様とお話できて嬉しいです。でも気にしてくださってありがとうございます、グレミオ様。
…こんな感じでどうかな?
反応を伺っていると、グレミオ様はちょっと渋い表情だったけど、モリス様はパァァ…!と華やかな笑顔を浮かべていた。
うをををっ!イケメンパワーが増大している!?
ま、眩しいっ…
「よかったー!僕もアリシアちゃんと仲良くなれて超嬉しー!」
どうやらさっきの回答、モリス様とフラグが立ったみたいね。
「ね、今度の休み、空いてる?デートしようよ、アリシアちゃん!」
マジっすか!!!
急展開、嫌いじゃないゼ…!
ってワケで、デートナウですよ!
私はモリス様のお誘いを二つ返事でオーケーして、今日という日を迎えていた。
グレミオ様がなんかモリス様に突っ掛かって文句を言ってたみたいだけど、気にしないことにしてね!
…ごめんね、グレミオ様。
乙女ゲーでは、どっちかというとグレミオ様贔屓だった私。
だって軽薄なチャラ男よりも真面目で誠実な男子の方がいいじゃない?
でも、当たり前だけどゲーム攻略と現実は違う。
実際にやり取りしてると、モリス様の方が圧倒的にしゃべりやすくて楽しいのよね…!
女ったらしは伊達じゃないってことか、話題も豊富で尽きないし。気配りもできてエスコートも上手だし。
グレミオ様、真面目なのはいいけど、勉強とかの話ばっかりだし。あれじゃ肩が凝っちゃうわよ。
今日のデートも楽しかったー!
王都に新しくできた遊園地に二人で遊びに来たんだけどね!
マジ、至れり尽くせりよ!
ジェットコースターにコーヒーカップ、メリーゴーランド、エトセトラ。効率よく回るルートをモリス様が予め考えてくれてたから、主なアトラクションは全部制覇できたし。
アトラクションに並ぶ間もおしゃべり楽しかったし、演劇ショーではさり気なく私に見やすいポジション譲ってくれるし、合間に買って食べたおやつもご飯もぜーんぶ奢ってくれて!
一応、私も半分出すって申し出たわよ?
だけどモリス様ったら爽やかな笑顔で「可愛い女の子に払わせたりできないよー」ですって!
このぅ、テライケメン!チャラ男!
でも好きー♡ってなっちゃうわよ!
最後に乗った観覧車もムードチックで…♡
一日遊び倒してもう夕暮れ時だったから、オレンジ色の夕日に照らされる王都の美しい街並みを二人で眺め下ろしたりして。
綺麗ですね…って思わず呟いたら。
「アリシアちゃんの方がうんと綺麗だよ…」
ですって!
ですって!!!(大興奮)
テンプレセリフと分かっていても、イケメンからの直接攻撃の凄まじさ!
威力ハンパないってもんよ!
これは一度食らった者にしか分からないでしょうね!
私はうっかり頬をポッと染めて、はわわわ…ってなっちゃったわよ!
それにも優しく微笑んでいたモリス様は、真の女たらしのイケメンだったと証言するわ!
てなわけで、大満足の初デートを終えて。
さすがに時間も遅いから、帰路につくことにした。
当然のように寄宿舎の女子寮までモリス様が送ってくれるって!
最後の最後まで抜かりなくイケメンだわ…!
なんだかこのまま別れるのが名残惜しい気がするくらい。
なーんて、乙女チックな感慨に浸っていたら、
「ねえ、アリシアちゃん…」
後もう少しで寄宿舎に着くってあたりで、モリス様が急に足を止めた。
私も合わせて立ち止まる。
どうしたんだろ?って思っていると、モリス様の手がそっと私の頬に触れて…
少しだけ上を向くように、ごく自然な動作で促されて…
なんだか切なそうに瞳を潤ませたイケメンの顔が、すぐそこまで…
あ、あわわわわ…!
こっこれは!?
アレよね!?
間違いないわよね!?
でででででもっ!私たちまだ知り合ったばかりじゃない!?
初デートだったのに、いきなりそんな…!?
いいの、これ!?
下手したら私、軽くて安っぽい女の子って思われちゃわない!?
ううっ、だけど、全ての理屈を超越して捻じ伏せるイケメンの吸引力が…!
ええい、ままよ!
ここは流されて乗っちゃおうじゃない!
あれほど望んでいたイケメンとのイチャイチャを今こそ果たすとき…!!!
私は意を決して目を閉じた。
胸の奥はドッキンバクバクアニマルってなくらい高鳴ってたわ。
そして、待ち望んでいた瞬間…
「ちょっと待ったーーーーーッッ!!!」
…が訪れることはなかった。
いきなりの大音声にビックリして目を開けると、そこには何故かグレミオ様が!?
青褪めた顔色で肩でちょっと息を切らせて、そのへんの物陰から急いで飛び出してきたって様子だったけど。
モリス様が忌々しそうに顔を歪めて舌打ちした。
「なんだよ、今頃になって………遅すぎんだよ!」
「これ以上バカなことはやめろ!」
「おまえにそんなこと言われる筋合いはない!」
「アリシアさんまで巻き込むなんて…!」
「うるさいうるさいっ!聞きたくないっ!!」
「モリス…!」
えー…と。
これは?
横恋慕したグレミオ様が、私とモリス様との間を邪魔しようとした……って状況のはずよね。普通に考えたら。
でも、なんか違和感というか…
乱入してきたグレミオ様は、ほとんど私の方を見てはいなかった。
モリス様の方ばっかり見てる。すごく苦しそうな顔で。
モリス様も、そんなグレミオ様をじっとりと睨みつけて…
…さっきまであれほどいい雰囲気作り出してて、今もこんなに近くにいる私のこと、もはやアウトオブ眼中になってるんですが…?
イケメン美形の男子二人で激しく睨み合っている。
つまり、互いだけを見詰めて他には全然注意が向いてない。
私は、そろ〜っとモリス様と二三歩距離を空けてみた。
なんだろう、よく分からないけど、何かに巻き込まれてるという危機感をビンビンに感じたのよ。
そういやさっき、グレミオ様もそんなようなこと言ってたわね?
男二人に女が一人。
巻き込まれるも何も、本来であれば私が渦中の人でなければおかしいはずなのに…?
距離を置いたところから、しばらく様子を見守っていて。
色々と判明した。
グレミオ様とモリス様、実はずっと前から隠れて付き合っていたんですって。
だけど、ほんの数日前、つまらないことで痴話喧嘩になっちゃって。
「本当は僕のことなんて全然好きじゃないんだろ!?」
「違う!私は、モリス、君のことだけが…!」
「もうそんな言葉信じられない!いいもん!だったら僕も他にいい人見つけるもん!」
「やめろ!?」
…みたいなやり取りがあったんだって。
で、モリス様の浮気相手として白羽の矢が立ったのが、この私だったと。
目の前で繰り広げられた二人の口論から情報を引き出し、整理し、現状を正しく把握した私。
はっはっはー。
そうか、そうかー。
思えばモリス様がやたらと私に話し掛けてくるようになったのって、数日前からだったわね。
ヒューゴ様とシーザー様の影響力かとばかり思ってたけど、実はそんな理由だったと。
………っ!
ふ、
ざ、
け、
ん、
な!!!
何なのよそれ!
たっぷり一呼吸ずつ溜めて怒りを噴出しちゃったじゃない!
要するに私は当て馬か!?
そんなことで、き…キスしようとなんかしやがって!?
乙女の純情弄んだってことよね!?
マジざけんな!
イケメンだからって何でも許されると思うなよ!?
「もう!うるさいなぁアリシアちゃん!今グレミオと大事な話をしてるんだから、邪魔しないで引っ込んでてよ!」
激怒のあまり二人の間に割って入り、モリス様の肩をふん捕まえて強引にこっちを向かせた私。
イケメン改めクソヤローからそんな言葉を浴びせられ、最後の理性の糸がブツッと音を立てて切れた。
グレミオ様が視界の端で狼狽えてるのも見えたけど、構うものか!
おらァッ!!!
「ぐっふ!?」
固く握りしめた私の拳が、抉り込むよーにクソヤローの鳩尾にヒット!
だが、こんなもんで終われやしない!
いくぞ!必殺!
山田家秘伝・ホモ滅殺連撃波ァァァァァァッ!!!
オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!
*せっかくなので説明しよう!
山田家秘伝・ホモ滅殺連撃波とは!
アリシアこと前世で山田花子だった私が身につけた必殺技である!
リアリストだけど実は腐女子の友達に布教活動と称して薄くてヤバい本を無理やり読まされそうになった時に習得した!
「あんたもおいでよ、この沼に…!」
「誰が行くか!そんな腐った底なし沼!道連れになどされてたまるかーッ!!!」
親しき友とはいえ、相容れないことはある…
つーか無理強いとか、ダメ、絶対!
ホモ・即・斬!
私は拳を高々と天に向かって突き上げたポーズで、トドメの一撃をクソヤローの下顎に叩き込んだ。
無様に吹っ飛ばされ、地べたにドシャッと崩れ落ちるクソヤロー。
あーあー…連続ボディブローが効きすぎちゃったかな。◯ロまで吐いてる。マジ汚い。
グレミオ様がすぐさま駆け寄って助け起こしてたけど。よくやるわー。
…ねえ、見てた?前世の友よ。
あんたとの不毛な戦いの日々も、まったくの無駄ではなかった。
今、腐れホモヤローを撃滅するのに役立ったわよ…!
ふっ…
虚しいわ…!
ま、前世の友を懐かしむのはこれくらいにして…
私は改まってホモップルに近寄った。
なんか、二人してビクってなってる。ちょっとオモロイ。
「す、すまないアリシアさん……あなたの怒りはもっともだ。私からも謝るから、どうかこのバカを許してやってくれ…!」
「あうううううっ……ずびばぜんでじだ…!!!」
まったく、とんだ茶番だったわね。
まあ今の一撃でスッキリしたし、グダグダ言うのは性に合わないからこれで勘弁してあげるけど。
いいこと、二度と私を……ううん、誰だろうと無関係な人を、あなたたちの痴話喧嘩に巻き込むんじゃないわよ!
恋人への当てつけに口説いてるフリとか、マジ最低だから!
それにね、クソヤロー…じゃなかった、モリス様。
一体何を不満に思って疑ったのか知らないけど、グレミオ様の気持ちは間違いなくあなたに向いてると思うわよ。
でなけりゃ、こんな最低なことして◯ロまみれになってる奴のこと、助け起こしたりなんて普通はできないわ。
愛、なんてのがそこになけりゃ、ね。
「「………!」」
私は言いたいことだけ言って、踵を返した。
二人がその後どうしたのかなんて、知らない。
こっちだって暇じゃないの。いつまでもホモップルに付き合ってなんてられないのよ。
…ということで、終わってみれば、私の初デートは散々だったわ。
またしてもホモの当て馬被害を被ったかと思うと、やるせないししょっぱい気持ちになる。
なまじデート自体は楽しかったから、なおさらね…
で、あの二人だけど。
「おっはよー、アリシアちゃん!今朝も可愛いね!」
「おはよう、アリシアさん」
…何故か、私に懐いてきた。
もうバレてるからホモの当て馬扱いではないと思うけど。
なんで…?
自業自得とはいえ、あれだけ痛めつけられた相手よ?
普通は距離を取りたがるんじゃ?
「だって、アリシアちゃん本当に可愛くて素敵でカッコいいから……今度はちゃんと仲良くなりたいなぁって」
えー…
別にいいけど…
「もしアリシアちゃんが男の子だったら、本気でグレミオから乗り換えてたかも♡」
「おい!?」
「あははっ、だからもしもだって。…大好きだよ、グレミオ」
「あまり焦らせないでくれ、まったく…」
あー、ハイハイ。
そーいうイチャイチャは私のいないところでやってねー。
そこでちょうど始業のチャイムが鳴ったので、私たちはそれぞれの席に着いた。
先生が来るのを待ちながら、ふと思う。
…普通、逆じゃね?
男子の惚れる相手の条件がなんでナチュラルに男子なのよ!?
どーなってるの、この世界!?
乙女ゲーの世界じゃなかったの!?
誰か教えて!答えてよ!?
いつになったら私はまともな恋愛ができるのよぉぉぉぉぉぉッ!?




