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第8話

国境に築かれた古い石壁。近代兵器を弾き返す私という「盾」がある限り、それは不落の象徴だった。けれど、その古めかしさは、外の世界の鼠たちが潜り込む隙間でもあった。


列強諸国は悟ったのだ。正面突破で私を殺すことは不可能だと。狙いは私を不老不死たらしめる「秘薬のレシピ」、あるいはその製造拠点。

欲望に駆られたスパイたちが、闇に紛れてその古い石壁を越えてくる。


「……また、鼠が紛れ込んだわね」


深夜、私は独り、国境の石壁の上にいた。

私の神経は、秘薬の影響で異常なまでに研ぎ澄まされている。古い石のわずかな摩擦音、土が踏み固められる微かな振動、そして――「この国の平和にそぐわない、外の世界の薄汚れた殺意」。


秘薬による過剰な感覚は、もはや五感を超えていた。

壁の向こう側から侵入しようとするスパイの吐息が、まるで耳元で囁かれているかのように生々しく響く。


私は音もなく、壁から飛び降りた。

漆黒の軍服が夜の闇に溶け込む。スパイたちは、最新式の消音銃を構え、影から影へと移動していくが、彼らは気づいていない。


私がすでに、彼らの背後に立っていることに。


「どこへ行くのかしら? 私の箱庭に土足で上がるなんて、不作法が過ぎるわね」


冷たい声に、スパイたちが凍りつく。

振り向きざまに放たれた銃弾は、私の肩を抉った。けれど、私は眉ひとつ動かさない。傷口からは瞬時に蒸気が立ち上り、弾丸を弾き出しながら肉が再生していく。


「無駄よ。あなたたちの持つ『近代』なんて、私の『執着』の前では紙切れ同然だわ」


私は素手で彼らの喉を掴み、あるいは軍刀の一閃で沈めていく。

護衛はいない。この石壁の綻びを埋めるのは、いつだって私の肉体と、彼らの鮮血だった。


数分後、侵入者はすべて、石壁の影で静かな物言わぬ塊に変わっていた。

私は乱れたリボンを整え、ボロボロになった軍服の袖についた返り血を、ハンカチで丁寧に拭う。


壁の向こう側では、近代国家たちが虎視眈々と次の一手を狙っているだろう。

けれど、この壁の内側では、民たちが何も知らずに平和な眠りについている。


「……ふふ、やっぱり私以外に、この国を任せられる人なんていないわ」


石壁に背を預け、私は静かに目を閉じる。

秘薬の副作用による激痛が波のように押し寄せるが、それが心地いい。

この痛みこそが、スパイの侵入を防ぎ、民を安眠させている証なのだから。


私は明日も、この古い石壁を歩く。

綻びを見つけ、鼠を狩り、永遠にこの「美しい停滞」を一人で守り抜くために。

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