第6話
ある日の午後。執務机に積み上がった、全人口の収支報告書を片付け終えた私は、かつてないほどの充足感に包まれていた。
街の人口は増加し、備蓄倉庫は溢れんばかり。私の「酷使」によって、この箱庭は完成した。
ふと、部屋の隅で気配を消していた「従者」たちに目を向ける。
「……お父様、お母様。今日は気分がいいの。少し、外を歩きましょうか」
びくりと肩を揺らした両親は、震える声で「御心のままに、陛下」と答え、私の数歩後ろを歩き始めた。
かつて私を子供扱いし、狭い王宮に閉じ込めようとした二人。
彼らを連れて、私は誇らしげに街を練り歩く。
「見て。あなたたちが『不可能だ』と言った自給自足の成果を」
街に出ると、民衆が割れんばかりの歓声を上げた。
「ルナ陛下!」「私たちの太陽!」
ボロボロの軍服に身を包んだ私を、民は神のごとく崇めている。かつて王であった父が通り過ぎても、誰一人として彼を見ようとはしない。今のこの国の王は、傷だらけで立つ私一人なのだ。
黄金色に輝く麦畑、活気に満ちた市場、そして何より、外の世界の汚れを知らずに笑う子供たち。
私は足を止め、背後の二人に冷たく、けれど確信に満ちた声をかけた。
「どうかしら。あなたたちが守れなかったこの国は、今、世界で一番幸せな場所よ」
父は、呆然と街の光景を見つめていた。
かつての威厳は消え、ただ一人の老人として、娘が成し遂げた「狂気的なまでの完璧な統治」を目の当たりにしている。
やがて、父が震える膝を突き、私の足元に深く頭を垂れた。それは恐怖からくる服従ではなく、圧倒的な事実に対する「敗北と称賛」だった。
「……ルナ。いや、ルナ陛下。……私は、間違っていた」
父の声が、風に乗って私の耳に届く。
「お前をただの子供として扱い、外の嵐から隠すことしか考えなかった。だが……お前は一人で嵐をねじ伏せ、この楽園を築いた。お前こそが、この国の真の主だ。……誇りに思う、最強の女王よ」
母もまた、涙を流しながら深く礼をした。
「私たちの愛した小さなルナは……もう、私たちの想像も及ばない高みへ行ってしまったのね」
「……ふん。今更認めても、遅いわよ」
私はそっけない態度で顔を背けた。
けれど、胸の奥で、かつてないほど熱く、疼くような感情が弾けた。
自分より上の存在を認めない私が、ついに「かつての権威」から、その「実力」を公式に認めさせたのだ。
歪んだ快感。しかし、それはもはや憎しみではなく、頂点に立つ者だけが味わえる「完全なる勝利」の味だった。
「さあ、帰りましょう。認めてくれたご褒美に、今夜は同じテーブルで食事をさせてあげるわ。……ただし、毒見はあなたたちがしなさいね?」
私は悪戯っぽく、けれど残酷な独裁者の顔で微笑んだ。
両親を従え、愛する民に囲まれ、私は夕焼けに染まる石畳を悠々と歩く。
満身創痍の身体は相変わらず悲鳴を上げているけれど、その痛みさえも、今は最高の勲章に思えてならなかった。




