第10話
外の世界は、私の完成させた楽園を「人道に対する罪」と呼んだ。
禁忌の薬、永続する独裁、そして何より他国の干渉を一切許さない強固な鎖国体制。国連(にあたる列強諸国の連合体)は、ついに我が国の国家承認を取消し、国際社会からの「抹消」を決定した。
「永世中立国の地位を剥奪する。貴国はもはや保護される対象ではない。無法の地として、正義の名のもとに制圧されるべきである」
通告書を破り捨て、私は執務室で一人、狂おしいほどの歓喜に震えた。
「中立じゃなくなったっていうことは……つまり、私から誰を攻撃しても『マナー違反』じゃないってことでしょう?」
私はかつてないほど機嫌よく、ボロボロの軍服の襟を正した。
これまでは「守る」ことに全力を注いできたが、これからは違う。独裁者の怒りが、初めて壁の向こう側へと解き放たれる。
国連会議が開かれている大都市。その中心部に、私はたった一人で「降臨」した。
近代兵器を携えた軍隊が私を取り囲むが、私は手にしたティーカップをゆっくりと置き、不敵に微笑む。
「正義、正義、正義……。聞き飽きたわ。あなたたちの正義は、私の薬一滴の価値もない」
戦闘の火蓋が切られた。
数百の銃口が火を吹き、重機関銃の弾丸が私の身体を蜂の巣にする。だが、次の瞬間には、私の肉体から立ち上る蒸気と共に傷跡は消滅する。
私は閃光のように敵陣へ飛び込んだ。
銃を素手で捻り折り、戦車の装甲を紙のように引き裂く。
恐怖に顔を歪める将軍たちの前に立ち、私はその首根っこを掴み上げた。
> 「私の国を『なかったこと』にするなら、あなたたちのこの贅沢な文明も『なかったこと』にしてあげましょうか?」
一晩で、国連軍の主要拠点は壊滅した。
それも、爆弾や軍隊によってではなく、「たった一人の少女による蹂躙」という、近代戦の常識を根底から覆す悪夢によって。
翌朝。血と煤にまみれ、けれど最高に優雅な足取りで、私は国連本部の大ホールに現れた。
震える各国代表たちを前に、私は演壇に足を乗せ、ボロボロになったベレー帽を直して言い放つ。
「再承認の書類は用意できているかしら? 今度は『永世中立』なんて甘っちょろい肩書きはいらないわ。『不可侵なる至高の聖域』として認めなさい」
拒否権など、誰にも残されていなかった。
彼らは知ったのだ。この少女を怒らせることは、死なない災害を自国に招き入れることと同義だと。
無条件での国家再承認。
それどころか、列強諸国はこぞって我が国に「不可侵条約」の締結を求めて列を作った。
「ふふ、いい子たち。最初からそうしていれば、無駄な血を流さずに済んだのに」
私は満足げに鼻歌を歌いながら、自国へと帰還する。
ボロボロの軍服は、今や世界中のどの勲章よりも恐ろしく、気高い輝きを放っていた。
鎖国は続く。だが、今や世界が私に「閉じこもっていてください」と懇願するようになったのだ。
これこそが、最強の独裁者が辿り着いた、真の「平和」の形だった。




