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本日も学園生活を満喫します  作者: 室町五丁目
1時間目

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4/34

新学期で既に終了

 名前が貼られた席にそれぞれが座り、全員が顔を揃えた。誰もが緊張の面持ちで静かに前を向いている。黒板の上にある時計の秒針が音を立てて響いていた。

 時計の秒針が聞えるほど静かな教室は今だけだろう。あと1ヶ月もすれば、隣の声さえ聞こえなくなるほどうるさくなる。ある意味で貴重な時間である。


 しばらくして、始まりのチャイムが鳴った。今までとは違う緊張感が室内の空気を引き締める。扉が開いて担任が入って来ると、教室内が一気に張りつめた。


「皆さん。おはようございます。私が今日から君たちのクラスを受け持つ大谷と言います。これからよろしくお願いします」


 厳しそうだが生徒愛に溢れていそうな担任に胸を撫でおろし、いよいよ本格的なクラスがスタートした。

 これからの抱負やクラスの在り方を説いていく大谷先生。一言一句に2年生としての自覚と責任を感じる。担任の言葉を聞き、己を律して節度ある行動を心がけようと心に誓った。


 一通りの挨拶が終わった後、自己紹介に入った。

 ここが本日最大の見せ場である。何事も最初が肝心。この自己アピールで失敗した暁には、末代まで語り継がれる恥を晒す羽目になる。

 仲良くなったのち、出会った頃を振り返って「お前、あの時スベったよな」と、過去の失敗談を赤裸々にイジられるだろう。今後のクラスでの立ち位置が決まってしまう瞬間だ。的確に、しかも笑いもありつつアピールしなければならない。

 名簿の「あ」から順番に回ってくる。自分の番が近づくにつれ、唸りを上げる心臓。ガッチガチの緊張感が伝わるなか、笑顔の自己紹介が続いた。


 同クラスになってテンション爆上がりの2人は、余裕の笑みを浮かべていた。

 克己はニヤニヤしながら得意のイラストを描いていた。たぶん「僕の得意技です」と言い、危険極まりないブツを披露するつもりだろう。女子の悲鳴が何より大好物の彼である。題材は確実に「くぱぁ~」。

 もう一匹を見ると、シャツのボタンに手をかけていた。順番が近づくたびに1つづつ外し、最後に「俺が山田友則じゃぁぁ」と叫んで上半身裸になる。

 最悪の場合、全ての衣服が空中を舞う。


(このクラス、初HRの時点で終わったな)


 そうこうしているうちに順番が回って来た。

 3人の中のトップバッターは今野克己。見せびらかすように掲げたイラストで驚くほど静まり返り、「僕は美少女に夢中です」というセリフでドン引きされた。

 名誉挽回に「誰かヌードモデルになって下さい」と狂気の発言をし、彼の今後の立ち位置が決まった。変態最下層。


 そして次は宮本三次。俺は人見知りをしないタイプだ。初対面でも緊張する事無く気軽に話せる。余計な事を考えないのが功を奏しているのだろう。

 頭の中にバカとか浮かんだ奴、ブン殴る!


 姿勢よく立ち上がり、皆に一礼してから挨拶をした。


「俺は宮本三次です。夜中の3時に生まれたので三次になりました。これから友達を100人作って、富士山の上でおにぎりを食べたいと思います」


 爆笑には至らなかったものの数名が笑ってくれた。俺の立ち位置は、比較的面白いナイスガイ。


 問題はこの先である。

 俺の勘が正しければ、教室内が阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。見たくもないモノを見せられ、トラウマになるかもしれない。

 最悪の結果が待ち受けているとも知らず、簡潔だがしっかりとアピールをしていく友人たち。その間、ボタンが1つ1つ弾けていく。

 そして最後の最後。大トリの山田友則は……書くのもおぞましい。

 彼の立ち位置は、完全無視。



 全ての自己紹介が終わり、教室内が殺伐とした空気に包まれる中で授業が行われた。

 本当の地獄はここからだった。


 小学校の頃は、新学期は挨拶だけで終わり、午後は帰宅出来るシステムになっていた。中学に入ると新学期だからといって手を抜いてはくれない。挨拶が終わった途端に1時間目が始まり、6時間目までみっちり勉学に勤しむ手筈だ。

 ちなみに、俺は勉強が苦手だ。小学校高学年で既に臨界点に達している脳に中学の勉強は難し過ぎた。黒板に書かれた文字は宇宙語にしか見えず、英語に至っては1ミリ足りとも読めない。頭を使うと睡魔に襲われるという重い病気を患っているため、目を開けているだけで精一杯である。

 苦手科目は、国語、数学、理科、社会、英語。得意科目は保健体育。

 これは俺に限らず、例の奴らも同じだった。前代未聞のスベリ方をした克己は、復活の狼煙を上げるため再び何かを描いている。幼稚園で考える行為を放棄した友則は爆睡をかましていた。



 睡魔との激闘を制して休み時間に入ったが、未だ秒針の音がハッキリと聞こえていた。ポツポツと話し声は聞えて来るものの、まだ遠慮がちの囁き程度だった。

 一言二言話しかけては微妙な空気に包まれる。落ち着かない雰囲気に間が持たず、休み時間の度にトイレへ立つ者とか。普段は絶対にしないであろう教科書を読み込んでいる者とか。必要以上に鞄を開け閉めする者とか。次の授業が始まるまでの時間潰しに興じていた。

 ピリッと張り詰めた空気に居心地の悪さを感じていると、エロ顔の克己がやって来た。


「おい三次。学校終わったらどうするよ」

「そうだな。秘密基地にでも行くか」

「今日のお前はラッキーだな」

「その心は?」

「好みのヤツを入手したぜ。見たいか?」

「何だよ。勿体ぶらずに見せろよ」

「ジャァァァーーン」

「げっ。こ、これは……」

「憧れのスイカップ」

「マ、マジかよ」

「しかも神谷聖夜ちゃん」

「グハッ。トップオブ巨乳じゃねぇかぁぁ!」


 周りはまだ誰とも仲良くなっていない。互いに遠慮し合い、けん制しながら状況を確認している。そんな緊張感漂う中のバカげた会話は神経を逆撫でする。しかも教室内に響き渡る大声は、耳を塞ぎたくなるほどイラッとする。


「昨日、撮ってきたぜ」

「何を?」

「姉ちゃんの着替え」

「おお克己。良くやった!」

「見るか?」

「お楽しみは後に取っておこう」

「あんな奴らでいいのかよ」

「本望ではないが、刺身のツマだ」

「お前、マニアックだな」

「お前に言われくねぇわ」

「ギャハハハ」

「ブハハハッ」


 内容の全般がエロネタなら怒りはさらに倍増である。全員が「うぜぇ」という顔で俺らを睨んでいた。



 その後も長く、辛く、険しい道のりを全力で走り抜け、ようやく6時間目のチャイムが鳴った。


「三次。どうだったよ、初日は」

「つ、疲れた」

「これからどうする?」

「一刻も早く帰りたい」

「じゃあ、ジュースでも買って基地へ行くか」

「そうだな。そうするか」


 一日を通して爆睡している友則を叩き起こし、俺らは学校を後にした。


 クラスメイトは、今日一日で3組になった事を心の底から後悔しているだろう。ただ、自力ではどうする事も出来ない現実がそこにある。

 諸君、全てを諦めてこれから仲良くやって行こう。






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