偶然にもほどがある
丸刈り短髪で床を踏みしめながら入ってきた男は、俺らを見つけるなり薄汚い笑みを浮かべて近づいてきた。
「あれ? 何だお前ら」
「友則じゃね?」
「おう克己。それに三次も一緒かよ」
「小学校以来だな」
「マジで一緒のクラスかよ」
「いやぁ~。こいつは驚きだ」
「こんな偶然ってあんのかよ」
「無敵艦隊の完成だな」
「ガハハハッ!」
克己の肩をバンバン叩きながら大笑いする男の名は山田友則。自己紹介でも少し触れたが、数々の武勇伝を持つ脳筋ゴリラである。
克己とは小4の頃からの付き合い。俺とは幼稚園時代からの幼馴染だった。同じ町内で自宅が近く、付き合いたてのカップルのように毎回一緒に遊んでいる。今更こいつの顔を見た所でドキドキもワクワクもない。裏筋の形状まで知っている。
「いやぁ~。学園生活が楽しくなりそうだぜ」
「まったくだ」
「友則。よろしく頼むぜ」
「こちらこそな」
「我が3組に栄光あれ、だな」
2人は固い握手を交わし、新学期早々に男の契りを結んでいた。
その姿を見て激しい頭痛と目眩を起こした。克己だけでも手一杯なのに、脳みそ底辺のゴリラまで面倒を見なくてはいけない。
中学時代に最も大切なのは環境だと言われている。良い担任に出会えるか。素晴らしい仲間に恵まれるか。家と学校が生活の全てであり、この2つが今後を大きく左右する。恵まれた環境は心を豊かにするが、最悪だった場合は精神を病む。人生のターニングポイントであるクラス替えで彼らに出会うとは……。
この先の中学人生に暗雲が垂れ込める。
現状の深層心理を的確に伝えるため、友則の武勇伝を紹介しよう。
あれは中1の夏休み直前の出来事だった。
明日から夏休みとあって俺も友則もテンションが上がっていた。「これから何をしようか」「明日はビーチへ繰り出すか」などと今後の活動について話し合っている時、たまたま女子寮の前を通りかかった。
男子の憧れである女子寮とは如何なる花園か。その中で行われている秘密のプレイは本当に存在するのか。そんな妄想に浸りながら通り過ぎようとした時だった。
寮の窓が開き、そこから下着姿のお姉さんが洗濯ものを干している姿が見えた。年の頃なら35歳くらい。友則の好みの年齢である。
「おい友則。あれ!」
「グハッ。べ、ベージュの恋人!?」
お姉さんは周りの視線など気にせず、鼻歌を奏でながらベランダに出ていた。
「こんな時間に大胆だな」
「あれは痴女で間違いねぇな」
「何でだよ。ベージュだろ。地味系じゃねぇか」
「地味に隠されたエロなのだよ。三次君」
「頭、大丈夫か?」
「おい。奴のサイズは?」
「76、87、95だな」
「……俺、ちょっと行って来る」
そう言うと、ダッシュで女子寮へ向かった。
「おい、ちょっと待て。あそこって……」
俺の忠告も聞かずに飛び出した友則は、高い塀をいとも簡単によじ登り、余裕でベランダ侵入を成功させた。瞬時に侵入経路を割り出す辺り……常習犯である。
ギンギンの何かを押さえ付け、物干しにぶら下がっている洗濯ものへ手を伸ばした瞬間、再びベランダに出てきたお姉さんと鉢合わせをしてしまった。
見知らぬ少年の姿に一瞬ギョッとしたお姉さんだったが、素早く現状を把握したのだろう。友則の手をグッと掴んで逆返しに捻ると「ハッ!」という気合と共に、そのまま一回転させてベランダの床へ叩きつけた。
そして素早く馬乗りになり、両腕を後ろ手に回してこう言った。
「はい。現逮」
「え?」
「窃盗罪と住居侵入罪ね」
「……」
「あなた中学生?」
「は、はい」
「警察寮に侵入するなんて将来有望ね」
「なっ……」
友則は手錠をかけられた……。
激しい頭痛の原因、分かるよな。な!
こうなった以上、どうすることも出来ない。クラス替えは学校側の決定事項で生徒の意見は認められない。これから涙の卒業式まで、このメンツに翻弄されるしかないと思うと、頭を掻きむしりたくなる。本来なら期待に胸躍る新学期のはずが、授業が始まる前に疲れはピークだった。
俺の悩みなど知る由もない友則は、ニヤッと怪しい笑顔を浮かべた。
「三次。俺たち持ってんな」
「何をだよ」
「俺とお前と克己。3人揃うなんて奇跡じゃねぇか」
「そんな奇跡いらねぇんだよ」
「興奮してきたな」
「お前まさか……」
「今日は派手にお祝いと行こうじゃねぇか」
「おい、止めろ」
「祭りじゃぁぁぁーー」
そう叫ぶと、ブレザーを脱ぎ捨てた。
こいつは興奮すると全裸になるクセを持っている。男たる者、恥ずかしがってはいけない。という迷惑千万なポリシーを掲げ、いつでもどこでも脱ぎまくる。元々が野生動物なので衣服に慣れていないのだろう。
Tシャツをも脱ぎ捨て、上半身裸になった友則を唖然と見つめるクラスメイト。奴は興奮冷めやらぬままベルトに手をかけた。瞬時に危険を悟った俺は、後ろへ回り込みチョークスリーパーをかました。
「おい、落ち着け」
「新たな仲間に本当の俺を知って貰う」
「テメェの事なんざぁ、誰も知りたくねぇんだよ」
「みんな、俺の全てを凝視……」
「もういい。逝け!」
「ぐえぇぇ」
渾身の力で首を締め上げた。腕の中で白目を向いた友則を廊下へ放り投げ、全員に向って「申し訳ございませんでした」と詫びを入れた。
それを見ていた克己は腹を抱えて笑い、クラスメイトはこの先の未来に一抹の不安を覚えるのだった。
神様。これから良い子になります。勉強も一生懸命に頑張ります。妹の貯金箱も盗みません。
だから、チェーーンジ!




