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本日も学園生活を満喫します  作者: 室町五丁目
5時間目

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32/34

蛙の子は蛙

 彼の告白により、俺らの誤解は解けた。悪さを働いたのは紺中で先に絡んで来たのも昆虫である。

 こちらもやり過ぎた感があるとし、学校や警察との話し合いを経てケンカ両成敗で話はまとまった。


 事件としてはこれで解決なのだが……話は意外な展開へ突入した。




「三次。友則。職員室まで来なさい」


 再び校内放送が流れた。しかも今回は敬称なし。

 呼ばれること自体やぶさかではないが、その度にクラスメイトのニヤニヤ顔が腹立たしい。


 雁首を揃えて職員室の扉を開けると、そこには眼鏡をかけた40過ぎの女性が俺らを睨んでいた。

 見た瞬間にイケ好かない年増女だと思った。

 深く刻まれた眉間のシワは人を見下した感満載で、眼鏡の奥から注がれる視線は冷たく、愛情が一滴も感じられない。歪んだ口が神経質さを醸し出し、腕を組んで偉そうな態度で立っていた。明らかにイヤな奴満載だった。

 ただ、外見だけ見るとなかなかの上玉である。


 実年齢より若く見え、薄手のブラウスから透ける胸がボインとしている。ウエストには若干の肉が付いているがそれもまた良し。黒のタイトスカートが体のラインを強調し、ボリュームのあるプリケツが大人を思わせる。86、77、93であろう。

 俺は気に入らないのだが……恐る恐る友則を見た。

 奴の顔がニンマリと崩れ落ち、ベルトを弄っていた。襲い掛かる準備万端である。


「おい友則。落ち着けよ」

「……」

「ここは職員室だぞ」

「わ、分かってるよ」


 小声で忠告していると、女性は職員室に響き渡る声で叫んだ。


「あなた達ね、私の騎士君をイジメたのは!」

「……ナイト君?」

「とぼけてもダメよ」

「誰?」

「この期に及んでシラを切る気」

「だから、ナイトって誰?」

「1年4組の白川騎士よ!」

「ブハッ、マジ!?」

「何がおかしいのよ」

「おい友則。あいつナイトだってよ」


 大爆笑の俺に続き、友則も腹を抱えて笑った。


「騎士がカツアゲされるって……グハッ」

「最弱の騎士じゃねぇか」

「グハハハ。スライムより弱ぇんじゃねぇか?」

「最弱でマザコン。ある意味最強だな」

「さ、三次。止めろ、ベルトがキツイよぉぉ」


 どさくさに紛れてベルトを緩めようとする友則。俺は笑いながら友則の手を押さえた。


 息子の名前に爆笑したことで、火にガソリンをリッター単位で注ぎ込んでしまったらしい。俺たちの態度に怒り心頭の母親は、口角泡を飛ばしながら罵詈雑言を浴びせてきた。


 俺らが来る前に担任らが事の経緯を説明してある。

 騎士君が他校の不良に絡まれた。それを助けたのは俺らで、連れてくるよう指示した時、少し乱暴に扱ってしまった。彼らは決してイジメてる訳ではない。

 だが、母親の耳には届かなかったらしい。


「だから何なのよ。イジメた事実に変わりないでしょ!」

「おばさん、日本語分かります」

「な、なにぃぃ!」

「さっき先生が説明しましたよね?」

「騎士に暴力を振るったのは事実でしょ」

「職員室に連れて来たのが暴力?」

「そうよ。それも立派な暴力よ」

「頭、大丈夫ですか?」

「バカ面に言われたくないわよ」


 騎士君が母親にどういう説明をしたのかは知らない。こちらは事実を客観的に述べただけだ。罵倒されるいわれなどない。むしろ不良連中から救い出したのだから、感謝されてしかるべきだろう。


「文句を言うより、お礼が先じゃないですか?」

「何であんたらみたいなカスにお礼言わなきゃいけないのよ」

「カス?」

「勉強もロクに出来ない馬鹿が!」

「で?」

「親の顔が見てみたいわ。どうせ頭悪いんでしょ」

「……で?」

「親も親なら子も子よねぇ~」

「……」

「躾とかマナーとか常識的な事すら知らないんでしょ」

「……」


 その後も怒りは収まらず、親兄弟、外見から人格否定まで。学校側の対応の悪さと教師のレベルの低さ。統率力のない校長に生徒の質。自分が如何に常識的で位の高い人間か。止まる事無く永遠に語り続けた。

 彼女が騒ぐほど事態は悪化する。その証拠にクラスでの騎士君の立場は最悪で、彼の態度もまたイラつく原因だった。


 これは後に聞いた話だが……。



 騎士君が授業中に貧乏ゆすりをしていた。隣の席の生徒が「気が散るからやめてくれないか」と注意したところ、烈火のごとく怒り出して暴れたという。

 クラス全員が唖然とする中、彼は注意した相手に「明日覚えてろよ」と捨て台詞を吐き、そのまま早退した。

 そして翌日。母親が学校へ乗り込んできて、担任を土下座させたばかりか、注意した生徒の家にまで押しかけ、近所中に聞こえるような大声で罵詈雑言を浴びせたらしい。


 またある時。


 財布を落とした騎士君に「落ちたぞ」と拾い上げて手渡した。すると彼はポケットからハンカチを取り出し、触れられた部分を必要以上に拭き始めた。

 その態度にカチンときた相手は、「拾ってやったんだから、ありがとうくらい言え!」と叫び、胸ぐらを掴んだという。

 その後、この一件は暴力事件として扱われ、警察まで介入する騒ぎになった。

 さらに「彼を転校させなければ教育委員会に訴え、担任を僻地へ飛ばしてやる」と教師や校長まで脅されたらしい。



 ハッキリ言って意味不明である。話を聞く限り、相手に落ち度はない。

 貧乏ゆすりを注意されたことが腹立たくて、ママに告げ口をする。百歩譲ってそこまでは許容しよう。だが、財布を拾ってくれた相手への態度は理解できない。

「ありがとう」の一言で済む話だ。それすら口にできず、挙げ句の果てに警察沙汰にするなど、人として終わっている。

 親切にされても無視する。気に入らなければ暴れる。思い通りにならなければふて腐れ、機嫌を損ねる。そして周囲が距離を置けば、今度は「いじめられた」と告げ口する。

 そんな振る舞いを続けた結果、クラス内でも騎士君の言動に疑問を抱く者が増えていった。やがて誰も関わろうとしなくなり、最終的には腫れ物に触るような扱いを受けるようになった。

 逆切れと告げ口。そして発狂ババアが乱入する。誰がこんな奴と友達になりたいと思うか。


 息子の現状も知らず、未だに罵倒を止めない母親。さすがの俺でも手足を震わせるくらいの内容だった。

 ここまで言われても我慢する教師を見ていると、大人の対応だと思う反面、社会の理不尽さに涙が出る。

 暴力もダメ。反撃も怒鳴るのもダメ。文句を言った者が勝ち、口を閉ざした者が負ける。そして輩だけが大腕を振って歩く。

 狂ったババアの戯言を聞いているうち、だんだん腹が立って来た。誰も言わないなら俺が言うしかない。

 大きく息を吸って怒鳴ろうと思った時、友則が口を開いた。


「お前が騒げば、息子が苦しむって知らねぇのかよ。クラスで奴を庇う者なんかいねぇ。完全に仲間外れで独りぼっちだ。その原因を作ったのはお前なんだぞ。それすらも分かんねぇって、母親として失格だな」


 その場に居た全員が静かに頷いた。


 普段は熟女を見ると問答無用でズボンを下ろし、己のイモを披露する友則が真っ当なことを言う姿を久しぶりに見た。

 同じ時代の、同じ空気を吸っている学友全てを仲間と認識している。奴にとって貝東中は我が家なのだ。例え騎士君であっても見捨てることは出来ないのだろう。


 友則の言葉さえ耳に届かない輩には、もう何を言っても無駄である。これから先も自分のルールを他人に押し付けて悦に入ってればいい。その結果がどうなるか、我が息子が教えてくれるに違いない。




 荒らしが過ぎ去った後の職員室には、疲労感だけが残った。


「何だか疲れましたね」

「三次。教師がこんな事を言うのもなんだが……」

「分かってます」

「……」

「これから相手を選びます」

「お前も大人になったな」

「今回で学びましたから」

「そうか」

「情けは人の為ならず。ですね」

「は? それ意味が違うぞ」

「そうでしたっけ?」

「……ったく」

「す、すいません」

「甘やかされて育った人間がどうなるか知ってるか?」

「彼みたいになるんでしょ」

「いや。彼はまだ序の口だ」

「……」


 担任は騎士君の未来を知っている。その身を案じている。ただ、こればかりは家庭の問題で、他人が口を出す余地はない。人んちへ乗り込んで俺の指示に従え。

 とは言えない。


「出来た時は褒める。悪い事をしたら叱る。これだけなんだけどなぁ~」

「そうですね」

「俺はお前らを甘やかし過ぎたようだ」

「い、いや。まだ足りないかと」

「これからビシビシいくぞ。いいな!」

「いや、そのう……」

「返事は?」

「……はい」


 別に名前が悪い訳ではない。問題は自身の行動である。例え太郎と名付けたとしても、自覚ある行動を示さない限りバカにされる。ナイト君に少しでも相手を思いやる気持ちがあれば、立派な騎士になれただろう。


 今回の事件で俺は学んだ。友情に熱い友則でさえ呆れるレベル。蛙の子は所詮、蛙である。

 騎士と書いてナイト。3時に生まれたから三次……血筋か?



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