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本日も学園生活を満喫します  作者: 室町五丁目
5時間目

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31/37

マザコン野郎を探せ

 次の日、教室の扉を開けた途端、校内放送が流れた。


「三次君。友則君。今すぐ職員室へ来なさい」


 ご立腹口調で呼ばれた。全校生徒が「またあいつらか」と思った事だろう。

 呼ばれた理由は分かっている。その事に関する説明をすれば解放される。下手にゴネて事を荒立てるよりも、素直に従った方がいい。

 朝から爆睡中の友則を叩き起こし、重い足取りで職員室へ向かった。


 扉を開け一礼して中へ入ると、担任と生活指導が鬼の形相で待っていた。


「お前ら、何しでかしたんだ!」

「色々ありまして……」

「さっき警察から連絡があって厳重注意されたんだぞ」

「はぁ」

「紺藤中学からも連絡があったんだ」

「まあ、そうでしょうね」

「詳しく話せ!」

「はい」

「ウソを付くなよ」

「……」


 バカの見本が俺らのトレードマークである。今更ウソを付いて誤魔化したり、自分を大きく見せたりする必要はない。評価はうなぎ下がりで、底を這いつくばっている。包み隠さずありのままを語るのがベストだ。

 俺は警察署で話した内容を一言一句違えず説明した。それに対して疑いの視線を投げかける教師。


「本当か?」

「ホントです」

「だからって暴力はダメだろ」

「じゃあ、見て見ぬふりをしろと?」

「そうは言ってないだろ」

「……」

「まず話し合いが大切だろう」

「言葉の通じない昆虫ですよ?」

「それが殴っていい理由にはならない」

「……」

「その1年は何という名前だ」

「分かりません。聞く前に逃げましたから」

「顔は覚えているか」

「会えば分かります」

「彼からも事情を聞く。探して来い」

「はい……」


 警察も教師の暴力はダメと言うが、こういう場合はどうしたらいいのだろう。

 触らぬ神に祟りなしで、見て見ぬフリをするのが正解なのか。殴られても蹴られてもジッと耐えるのが大人の対応なのか。話の通じない連中相手に、話し合いに応じるよう頭を下げるのが誠実なのか。

 もしそうだとすれば、俺は大人にならなくていい。同じような場面に出くわしたら再び同じ行動を取る。悪事を働く輩には、身をもって世間の厳しさを教え諭す。これが俺のポリシーだ。

 疑いは晴れぬまま、元凶である1年坊を探す事になった。


「なあ三次。どうするよ」

「とりあえず1組から順に回るか」

「そうだな」

「お前、顔が怖いんだから笑顔でいけよ」

「お前だって眉間にシワが寄ってるじゃねぇか」

「探すのが怠いんだよ」

「俺も同じだ」


 さして大きな学校ではない。各学年とも6組までしかないため、1組づつ回ればすぐに終わる作業だ。気怠い体にムチを打ち、1年の校舎へ行って各組の扉を開けた。

 そして4組に例の奴を見つけた。2年生の突然の乱入に驚き、クラス中が静まり返る中で彼を呼んだ。


「お前、ちょっとこっちへ来い」

「え?」


 俺らの顔を見た途端、ブルブルと震え出した。カツアゲに遭うような弱々しい子である。あの時の恐怖が蘇ったのか。それとも後ろに鎮座するゴリラに恐れをなしたか。呼んでも来なかった。


「お前に話があるんだ。早く来い」

「い、いやぁぁ」

「あの時の状況を先生に話てくれればいい」

「……ご、ごめんなさい」

「謝るのは後だ。一緒に職員室まで来てくれ」

「た、助けて……下さい」

「何言ってんの? お前」

「いやぁぁぁ」


 恐怖に怯え涙目で抵抗した。まったく意味が分からなかった。

 俺なりには誠実に対応したつもりだ。別に取って食おうという訳ではない。あの時の状況を教師に説明するだけである。

 校内でも有名な2大トップスターの登場で動揺する気持ちも分かる。特に友則は、鬼神と張り合えるくらい強面だ。日本強面組合の会長と副会長の間柄である。

 平和な教室にそんな奴が来たら誰でもビビるだろう。それらを差し引いても拒否する理由が見当たらない。

 俺は刺激しないよう、優しい言葉を選んで危害を加える気はないと伝えた。

 だが彼は机にしがみつき、頑なに動こうとしない。その様子は、ママに助けを求める赤ん坊にしか見えなかった。


「頼むから一緒に来てくれ」

「……」

「君に迷惑はかけない。約束する」

「う、ううぅぅ」

「説明をしてくれれば、それで十分だから」

「……い、いや」


 何だか微妙にムカつく奴である。事情を説明している以上、「はい。分かりました」で済む話だろう。ここで逆らったら、余計に状況が悪化することを知らないのだろうか。もしくは、自分の考えや意見は皆無で誰かの指示待ちなのだろうか。


「おい。いい加減に……」


 そこまで言いかけると、友則が右手で俺を静止した。そして床を踏みしめて彼の席へ歩み寄った。


「マザコン野郎。いつまでも甘えてんじゃねぇぇーー!」


 室内が揺れるくらいの大声を出し、彼の胸ぐらを掴んで引きずり上げた。


「原因を作ったのはテメェじゃねぇか。その責任を取れっつってんだよ。いくら泣いてもママは出て来やしねぇよ。泣いて許してもらおうなんて甘い考えを起こすんじゃねぇ。とにかく、今から職員室に来いやぁぁ!」


 友則の恫喝に全員が生唾を飲んだ。同時に彼の味方をする者は誰もいなかった。

 ここにいる連中は、話の内容を理解している。先生に状況を説明すれば、開放されることも知っている。

 通常なら、仲の良い奴が間に入って説得すると思う。恐怖で動けないのなら、職員室まで一緒に付いて行くと提案する。それが友というものだ。

 しかし、彼のために席を立つ者は誰一人いなかった。皆チラッと横目で様子をうかがうだけで、固く口を閉ざしていた。

 言動から察するに、彼のクラスでの立ち位置が分かった気がする。

 たぶん、このクラスに味方は1人もいない。疎まれているというか、無視されているというか。触らぬ神に祟りなしではないが、みんなの中から存在自体が消されている。まるで空気のような、そんな印象を受けた。


 甘やかされて育ったマザコンには、自分の考えというモノは存在しない。誰かの指示を待ち、それに従うだけの人形だ。従うのは大好きなママだけ。他の者たちの言葉など耳に入らないのだろう。


「泣きわめくんじゃねぇ! とっとと歩けやぁぁぁ」


 友則に拉致られていく彼を見て、クラス中から「そりゃ、そうなるだろう」という声が漏れていた。









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