調子に乗るんじゃねぇ
次の日。
克己から入手したDVDを大切に抱え、興奮状態で急かす友則。
「おい三次。早くしろよ」
「ちょっと待て」
「もう3分以上経ってんだぞ」
「もう少しだ」
「うどんでも茹でてんのか?」
「いま佳境に入った所だ」
「どんだけクソしてんだよ」
「いちいち便所まで付いてくんな!」
早く観たい気持ちは分かるが、便所まで付いてくる事はなかろうに。
出すモノを全部出し、身軽になって学校を後にした。
「おせーんだよ。新鮮味が無くなるだろうが」
「新鮮味って何だよ」
「熱く煮えたぎってんだよ!」
「そんなに興奮するんじゃねぇよ」
「これが興奮せずにいられるか」
「何を貰ったんだよ」
「これだ!」
題名は「隣のママは40代」であった。
お前がマザコンじゃねぇか。とツッコミを入れたかったが、人の趣味にとやかく言うのはお門違いである。みなそれぞれに性癖を持っており、俺に「なぜ巨乳好きなのだ」と問われても答えようがないのと同じだ。好きなモノは好き。それだけである。
「おら早くしろよ」
「だから、焦んなっての!」
商店街を急ぎ足で抜けようとした時だった。
顎にテーピングをした短髪と、こめかみにシップを貼ったブタが立っていた。彼らの後ろには金髪野郎と角刈り野郎が鎮座しており、4人揃って俺らに鋭い眼光を向けていた。
間違いなく昨日の連中である。他の2人は助っ人だと思われる。
「友則、昨日の奴らだぜ」
「あんだよ。この忙しい時に」
「報復戦かよ」
「めんどくせぇーな」
コソコソ話をしていると、顎にテーピングを貼った短髪野郎がオラオラ感満載で近づいてきた。
「何だ。昨日の負け犬かよ」
「にゃ、にゃんだとぉ~」
「は?」
「てみゅぇー。いいきゅになるなよ!」
「……何言ってんの?」
「てみゅぇーのせいで、あぎょがガタガタだじゃぜ」
「あのう。それは日本語? それとも宇宙語?」
「にゃ、にゃめんじゃにぇー」
「ごめん、ごめん。ネコ語かぁ~」
顎を砕かれた男は、言葉すらまともに発せなかった。
イキがってはみたものの、目がキョドっていて本人的にはやりたくなさそうな雰囲気だった。昨日の連続ニーバットが脳裏を過ったうえ、ケガも治らぬうちに報復戦は誰だって嫌だろう。
だが、ここで弱気はご法度である。仲間がいる以上、根性無しと認定されたら今後の学園生活に支障を来す。無駄な気合を見せるのがバカ連中の鉄則である。
「きゅううは、かきゅごしるやぁぁ」
「にゃめてー。きょわいわぁぁ」
「き、きしゃまぁ」
「んもう。言ってる意味がわきゃんないわよぉ~」
「びゅっこりょしてやりゅわぁぁぁ」
意味不明の言語を発し、痛々しい姿でパンチを繰り出してきた。
ただでさえ弱いのに、ケガをさらけ出して喧嘩を売るのは狂っているとしか思えない。ちなみに俺は、相手の弱点を突くのが得意である。
スローモーションのパンチをサクッと避けて顎を狙い撃ちした。かなり痛かったのだろう。地面をのたうち回って痙攣していた。
昨日の一撃を思い出して焦りが見えるブタ野郎だったが、状況的には彼も同じである。ここで根性を見せておかないと仲間内からハブられる。
ブタ野郎は、右へ左へ蛇行しながら近づいてきた。
「その状態でやれんの?」
「テメェらみたいなゴミに負けてたまるかよ」
「でも君、フラフラしてるよ?」
「う、うるせーんだよ!」
「目の焦点が合ってないね。これ、何本に見える?」
「ふざけんな」
「残念。2本でした」
「やろぉぉぉ」
「早く病院へ行かないと歩行困難になるよ」
「ぶちのめしてやるわぁぁぁ」
フラフラ状態でパンチを繰り出してきた。そこまで仲間に忠義を尽くさなくても良かろうに。
あまりイジメでも可哀想なので、遠慮がちに2本指を突き立ててカウンター目つぶしをした。そして鼻をもぎ取るようにアッパーを喰らわせた。奴の鼻から血が四方へ吹き出し、「ぐぎゃぁぁ」と叫びながら地面を転げ回った。
二人を一気に血祭りにあげると、傍らで見ていた金髪野郎が絡んできた。
「てめぇ。いい加減にしとけよ」
「いい湯加減?」
「な、なめんなよ」
「さっきから同じ事ばかり言うね。他に言葉知らないの?」
「……お前、何中だ」
「今時学ランって……お前こそどこの田舎モンだよ」
「俺らは紺中だ」
「こ、昆虫ぅぅ!?」
そういえば、河原に架かる橋を渡れば隣町で、確か紺藤町だった気がする。紺藤町にある中学で昆虫。まあ、貝東市にある中学で回虫よりマシだが。
「こ、昆虫って……ギャハハハ!」
「さ、三次。腹いてぇぞ」
「ダメだ。今年最大のギャグだぜ」
「グハハハ! ショ、ションベン漏れる」
友則はDVDで腹を押さえ、死ぬほど笑っていた。大爆笑している俺らにカチンときたのだろう。金髪野郎がグーで肩パンしてきた。
「い、痛てぇなコラッ!」
「やんのか?」
「上等だよ」
「紺中なめんじゃねぇぞ」
「昆虫に負けたら人として終わりだな」
「く、くたばりやがれえぇーー」
虫みたいにブンブン言わせて向ってきたが、パンチが遅すぎてハエが止まる。
華麗に交わした後、奴の腹へケリを食らわし、腰が崩れ落ちた所を狙ってシャイニング・ウィザードを炸裂させた。この時点で既に勝負あり。そして必殺技であるツームストーン・パイルドライバーでトドメを刺した。動かなくなった。
仲間を3匹もやられ、理性がブチ切れたのだろう。角刈り野郎が速攻で近づいて来て友則の腹を蹴り上げた。
次の瞬間、DVDがバキッと音を立てて割れた。
「……」
すこぶるマズい展開になってきた。
朝から楽しみにしていたDVD。受け取った時、嬉しさのあまり克己を抱きしめていた。これを励みに今日一日の辛い授業を耐え忍んできた。
そんな友則の顔から一切の笑顔が消え、無口になった。
奴の特徴として、本気になった時は口を一切開かない。問答無用で潰しにかかる。たぶん、動物的本能なのだろう。
「友則。あんまり本気……」
止める間もなく、ドストレートの拳が鼻先に入った。角刈りは、たった一発で意識を失った。衝撃で膝を落とした野郎の顔面を掴むと、得意のアイアンクローをかました。激痛のあまり再び意識を取り戻した角刈りは、断末魔の悲鳴を上げた。
その間、友則は何も言わない。しかも左手を右手首に添えるアイアンクローは本気のポーズであり、相手を粉砕する合図である。
「もう止めとけ!」
慌てて押さえ付けた時、真後ろから警察官が駆けつけた。商店街の誰かが通報したのだろう。アーケードに「止めなさーい!」という甲高い声が響き渡った。
振り返ると、下着ドロの時に一悶着あった例のBカップ警官とその一味だった。
「またあなた達なの?」
「……」
「ちょっと止めなさい」
「……え?」
その声を聞いた友則は、我に返って手を離した。相手は全身を痙攣させてションベンを漏らしていた。虫の息とはこの事である。
友則は駆けつけた男性警官に取り押さえられ、俺はBカップに背負い投げをされた。
「ぐわっ、痛てぇーよ。何すんだ!」
「いい加減にしなさい」
「いきなり人を投げるんじゃねぇよ」
「抵抗したからでしょ」
「抵抗なんかしてねぇだろうがっ!」
「大人しくしなさい」
「これには事情があるんだよ」
「どんな事情であれ、暴力はダメでしょ」
「暴力じゃねぇ。人助けだ」
「それにあなたには、公然わいせつの罪があります」
「不自然だったから確認しただけだろうが」
「とにかく話は署で聞きます!」
男性警官に腕を捕まれ、再び貝東警察署まで連行された。




