とある日の行動から
その日、友則と映画館の前で語り合っていた。
「団地妻かぁ~。内容がありきたりだな」
「そうか? 人妻はエロいだろう」
「お前はBBA専門だから好きかもしれんが……」
「女は年齢を重ねて磨かれていくんだぞ」
「でも若い方がいいだろう」
「それは経験が不足しているのだよ。宮本君」
「お前は童貞だろうがっ!」
「そういう問題ではない。何事も経験なのだよ」
「だきゃら、テメェも未経験だろうがぁぁぁ」
今時には珍しいアダルト映画館の看板で友情を再確認していた時、裏手にある空き地から物騒な声が聞こえてきた。脅し文句のような台詞と弱々しい怯え声。明らかに不穏な空気であった。
近年は駅前の大型再開発によって人の流れが変わり、金玉商店街は次第に寂れつつあった。今なお元気に営業している店もあるが、シャッターを下ろした店舗が軒を連ね、新規出店も減っている。
新しい店が入らなければ、新しい客層も流れ込んでこない。そんな状況が続いた結果、商店街全体がどことなく活気を失い、辛気臭い雰囲気に包まれていた。
全体的に活気ながく、朽ち果てた薄暗いアーケード。昼間はごく普通の顔だが、夜になると危険な匂いが漂ってくる。閉めたシャッターにアートという名の落書きが描かれている時点でお察しであろう。
人通りもまばらでデンジャラスな要素もあるため、逆に悪事を働くには都合のいい場所だった。
不穏な空気を察した俺らは、映画館の物陰から覗いてみた。案の定、勉強が苦手そうな2人組が超真面目っ子を囲んでいた。完全にカツアゲだった。
真面目っ子は紺ブレを着用していた。我が校の生徒で間違いない。ネクタイの色が赤なので1年坊だと思われる。ちなみち、2年は青、3年は緑という学年分けで女子はリボンになっている。
一方でチンピラたちは薄汚い学ランを着ていた。制服から察するに隣町の産業廃棄物であろう。
我が貝東市は近隣より規模が大きく、この辺りの中心部になっている。買い物をする時、遊びに行く時など、ちょっとオシャレして出掛ける町。という認識だ。
昔は百貨店もあり、優雅なひと時を味わえた。ここに住む者たちは、近隣の町を貝東市とその他大勢。親分と舎弟と捉えている。
田舎の小競り合いはどうでもいい。
わざわざ隣の山奥から出てきて我が町で悪さするとは奇特な人種である。自分ちの田んぼでバッタでも捕まえていればいいものを、エサを探して人里に降りて来るから質が悪い。こういう奴らは駆除されるのがセオリーである。
断って置くが、俺は弱い者イジメが嫌いだ。自分より弱い者を脅して何が楽しいのか。それで強くなった気になるのなら、だいぶお気楽な脳みそである。
さらに断って置くが、友則の場合は何をやっても弱い者イジメになる。
剣道部が突きを入れたら竹刀がグニャっと曲がった。空手部の黒帯が指を骨折したのは有名である。
相手がプロレスラーでもなければ戦ってはいけない。
「おい友則。どうする?」
「そうだなぁ~」
「同じ学校の奴じゃ、見捨てておけんだろ」
「よし。行くか!」
愛と平和を守る為に改造された男サンジーと、動物から1ミリだけ進化したゴリラが立ち上がった。
「俺の町で悪さとは見過ごせんな」
「はあ? 何だよテメェーは!」
「俺は正義の使者、サンジーだ」
「何がサンジーだ。ガキじゃあるまいし、バッカじゃねぇの」
「ここは都会。田舎モンが来る所じゃありません」
「だ、誰が田舎モンだコラッ!」
「さっさと家へ帰って肥やしを担ぐ手伝いをしなさい」
「ケッ。サルみたいな顔しやがって」
「生意気な口はチャック……ね」
速攻で近づき、短髪野郎の喉元に地獄突きを見舞った。前のめりになった所を見計らって顎にジャンピング・ニーバットを連続で叩き込み、最後にパワーボムで地面に叩きつけてやった。殺虫剤をかけられた虫みたいにピクピクしていた。
「何だよ。イキがってた割りに大した事ねぇな」
そう言いながら友則を見ると、ブタみたいに太った野郎にアイアンクローをかけていた。ブタ野郎は声も出せずに泡を吹いていた。
肝心の本人は、もう片方の手で鼻クソをほじっていた……。
「幼稚園児を泣かせるより簡単だったな」
「虫の方が手間がかかるぜ」
「ところで友則。あの1年坊は?」
「気付いたら消えてた」
「何だよ、お礼も言わずに消えやがって」
「ママ―って叫びながら走って逃げたな」
「マザコンか?」
「かもしれんな」
「中学生にもなってママって……終わってんだろ」
「甘やかされたボンボンじゃね」
「さて。いい運動になったし、そろそろ帰るか」
「そうだな」
「じゃあ友則。またな」
「おう」
友則と別れた俺は、自室で勝利の余韻に浸り、心地よい達成感に包まれながら安らかな眠りに就いた。




