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本日も学園生活を満喫します  作者: 室町五丁目
4時間目

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最高の仕上がりを目指して

 彼女は現在、戦国時代の物語を描いているらしい。



 男性が権力の全てを司っていた時代。戦場を駆け巡る1人の女剣士がいた。

 名前を花姫はなひめという。


 紙野家の長女として生まれ、幼少の頃から武道や礼儀作法など、様々な教養を教え込まれた。男勝りの彼女は、女遊びよりも剣の道を好み、男たちに混じって武芸の稽古へ打ち込んだ。弟たち相手にも容赦なく竹刀を振るい、泣かせてしまうほどのお転婆だった。


 そんな彼女には、一つの目標があった。

 戦いに明け暮れる武将たち。荒れ果てた大地に倒れ行く人々。その姿を目にする度に心が締め付けられた。


「いつかこの手で平和を」


 必ずやトップに立ち、この世を平定させる。

 その日を夢見て厳しい訓練をこなした。


 しかし時は動乱の世。女性が戦場に出ることは許されず、役割はお世継ぎを生み育てる事だった。

 そして14歳の時、同盟国であった和木家に嫁いだ。いわゆる政略結婚である。

 不満はあったものの、これも紙野家のため。どんな時でも手を抜かない彼女は、誠心誠意を尽くして城主に仕えた。


 そんなある日。和木家の城が襲撃を受けた。相手は極悪非道、残忍無比で知られる麻友家だった。

 己の力を誇示したい麻友家は、城主は元より、城に居た女子供まで全てを皆殺しにしてしまった。

 実はこれより数か月前、同盟を組んでいた紙野家にも魔の手が及んでいた。

 情報が人づてに伝わっていた時代。花姫の耳に届いた頃には、既に紙野家は滅亡していた。

 怒りに打ち震えた花姫は、自ら刀を持って応戦した。幼い頃から訓練していた腕の見せ所である。だが多勢に無勢。得意の剣術も空しく囚われの身となった。

 その時の彼女は、天守閣で返り血を浴び、近寄って来た武士たちに鋭い眼光を向けていたという。

 親兄弟までも滅ぼされ、紙野家で唯一生き残ったのは花姫だけだった。武器は全て取り上げられ、幽閉された彼女の手元には、自害用の短剣だけが残されていた。


 苦痛に喘ぐ日々を送っていた彼女だったが、とある刀鍛冶との出会いが運命を変えた。

 その者は、薄汚れた着物に破れた足袋という有様で、髷も手入れされぬままボサボサに乱れていた。どう見ても流浪の民である。

 花姫はそんな彼にも優しく接し、食べ物を与え、寝床をしつらえてあげた。

 運が悪ければ、自分もこの民と同じ運命を辿ったかもしれない。そう考えると、他人事には思えなかった。


 丁寧にもてなされ、さらに花姫の「時代を変える」という強い意志に感銘を受けた刀鍛冶は、せめてもの礼として、腰に差していた日本刀を彼女へ手渡した。


「姫殿。我が生涯を賭けた最高傑作。これで時代を変えてくれ」

「こんな大切な物を……」


 何気なく触れた瞬間、稲妻の様な光が彼女の体を貫き、心の奥底から奮い立つ力が漲った。


 実はこの刀鍛冶は、名刀中の名刀を生み出すことで知られ、数多の武将に請われる名工だった。

 彼が持っていた剣は「花散る剣」と呼ばれ、岩をも切り裂く太刀であった。一振りすると、返り血が花びらのように舞う様から名付けられたらしい。

 恐るべきパワーを秘めた刀に魅了された彼女は、とある決心をした。


「何ものにも捉われない世界を作る。混乱の世を平定し、平和な世界を築く。その為には自らが戦場に赴き、男と対等に渡り合える力を見せつけねばならぬ」


 自慢の長い黒髪をバッサリ落とし、兜の紐をきつく締めた。そして馬に跨って戦場を駆け抜けた。

 向ってく相手に容赦なし。数々の戦場に赴き、自慢の刀で連勝を重ねた。何人もの屈強な武将が戦場に散っていった。

 女はとうの昔に捨てた。全ては平和の為に。自由を勝ち取る為に。


 首を一つ取る度に彼女はこう言う。


「また一つの命が空へ舞ったか」


 大空を眺めながら一筋の涙をこぼすのであった。




 今回、「その刀を再現して欲しい」との依頼だった。

 詳細なイラストと共に細部の指示書を手渡された。姿形さえ完璧なら、素材は何を使っても自由。金銭的な面は未悠の全面サポート付き。モノ作りが大好きな俺としては、腕が鳴る頼みごとだ。

 人生はその場しのぎだが、意外にも職人気質で、凝り始めると細部まで手を抜かない性格である。

 実は、祖父(母方のじーちゃん)は宮大工である。子供の頃から仕事ぶりを見て来た。たまに「手伝え」と言われ簡単な作業を手伝うと、祖父は驚いた表情で俺の手捌きを見ていた。


「ばあさん。この子は将来俺の跡継ぎだな」

「それは良かったね」

「よし。今から徹底的に仕込んでやる」

「あんた。三次はまだ小学生だよ」

「うんにゃ。こいつは宮大工になれる素質を持ってるぞ」


 厳しくも愛情を持ってノミやカンナの使い方を教えてもらった。お陰で手先の器用さがさらに増した。

 懐かしい思い出は置き去りにしよう。



 本来、この手の製作は克己が得意とする分野だ。美少女フィギュアからロボット系に至るまで器用にこなす。彼に頼めば、いとも簡単に製作してくれると思う。

 ただ、何故かは知らんが未悠と克己は犬猿の仲だった。

 共通の趣味がライバル心をくすぐるのか。プライドが火花を散らすのか。教室で互いのイラストを見る度にバトルを繰り広げる。


「気持ち悪いイラストを描きやがって」

「エロネタしか浮かばぬ単細胞めが」

「腐女子」

「変態色魔」

「陰キャ野郎」

「自慰行為中毒患者」

「メンヘラ」

「幼女趣味」


 よくもまあ、次から次へと言葉が溢れてくるものである。作品を手がける者はボキャブラリーが抱負なのだろう。

 イベントで何度も顔を合わせ、お互いの腕を知ってはいるが、常に臨戦態勢で奴には頼めない。そこで、チンコ型ボールペンの出来栄えに感服して依頼を頼んだ。

 という経緯だった。



 本当は得意の木工細工で製作しようと思ったが、全てを木材で作るとなると相当な重さになる。たぶん女の子の力では持ち上がらないであろう。未悠の注文通りの品を仕上げるには材質も不安だ。

 指示書を見る限り、妖艶に輝く刃先とある。木を使ったのでは温かみのある優しい剣になってしまう。

 考え抜いた挙句、ステンレスと木材を使って製作する事にした。要は包丁作りと一緒である。

 これならば重量の調整も楽で女子でも扱いやすい代物になる。


 漫画に登場する刀鍛冶が花姫に手渡した際。


「我が生涯を賭けた最高傑作。これで時代を変えてくれ」


 そう言い残して立ち去った……。


 読み終えた時、無垢な俺の瞳から涙が溢れてきた。

 心血を注いで作り出した最高の一振り。それを手放すのは、断腸の思いだったろう。同じ職人として気持ちは痛いほど分かる。

 それでもあえて授けるのが武士道であり、困っている者を放って置けないのが大和魂である。


「おっしゃあ。やってやんよ!」


 日本男児に火が付いた俺は、予習復習を一旦置き去りにし、さっそく製作を開始した。





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