克己と町田未悠
月曜日。
学校へ行ったら、克己が女子と口ケンカをしていた。
「何でお前がトップなんだよ!」
「それは主催者側の心模様」
「いつもはBLだろうが」
「今回は壮大な企画ゆえの行動」
「だからって、自分のポリシーを変えるな」
「趣旨によってテーマを変えるのは基本の所業ぞ」
「そんな卑怯な手口は認めん!」
「主の作品は、人の心を堕落させる愚策に相当する」
「な、なんだとぉ~」
「下衆なエロネタなど誰も欲せぬわ」
「エロこそ正義だろうがっ!」
「この世界、結果が全てぞ?」
「貴様に俺の何が分かるんだぁぁ!」
早朝からテンションMAXで叫んでいた。
現在、言い争いをしている者の名は町田未悠。ショートボブの眼鏡女子で、克己と双璧を成すオタク娘である。
こちらから話しかければお喋りだが、自ら話しかけて来ることはほぼない。一日を通して誰とも喋らない時もある。ボーっと空中を見つめ、時折思いついたようにノートに何かをメモっている。傍から見たら一風変わった不思議ちゃんだった。
何を考えているのか分からず、みんなは付き合いにくいというが、俺はこの手の奴が大好物だ。ちょっかいを出すと、必ず答えてくれる。その答えが常軌を逸していて、俺のハートにグサッと刺さる。
町田と宮本。名簿順のため俺の目の前に座っている。
授業中、手作り愛用のチンコ型ボールペンで背中をつついてみた。振り返った未悠にボールペンを見せると、一枚のイラストが回ってきた。
イラストの横に吹き出しで「宇宙に繋がる深淵」と書かれていた。楽しくなった俺は、それに突き刺して返信した。すると「更なる泉へ」という返事が帰ってきた。返しが斬新過ぎて、次の一手が思い浮かばなかった……。
つかみどころのない彼女が得意とするのは漫画だった。これが激烈に上手い。作品を10段階で評価すると、克己は1、彼女は8くらいある。
実は、体育館で行われた同人イベントにも参加していて、偶然にも会場で出会った。
「あれ。未悠?」
「おおっ、三次殿」
「お前も参加してるのか」
「これは吾輩のライフスタイル」
「……そうか」
「三次殿も参戦の手合いで?」
「俺は克己の付き合いでな」
「なるほどの回答」
「……」
会話が成立しているのか微妙である。
「お前はどんなのを描いてるんだ?」
「手に取って好き好きに閲覧されたし」
「……ああ」
「吾輩は、粕田真理というペンネームで闊歩している」
「カスダ……マリ?」
「以後、お見知りおきを」
「あっ……そ」
「どれもこれもが魂を持ったロマン」
「……意味が分からんのだが」
目の前に並べられた一冊を手に取った。内容は少女漫画のBL系で性に会わなかったが、絵は驚くほど上手かった。素人の俺でも違いが分かるほど繊細かつ大胆なタッチ。ページをめくるごとに、主人公が息吹が聞こえてくるようだった。
「お前、上手いな」
「さすが三次殿。目線が雄大ですな」
「あ、ありがとう」
「この者たちは、新たな出会いを望んでいる」
「そうか」
「記念のご宝物に」
「……」
新作と書かれた同人誌を手渡れた。少女漫画系は得意ではないが、折角のプレゼントを断るのも気が引ける。いざとなれば、妹に渡せばいい。貯金箱の件で日頃からお世話になっているので、お詫びの印に丁度いい。これで奴が腐女子になれば、兄として嬉しさ倍増である。
未悠から貰った本を抱え、セクシー刑事や獣シスターズを思いっきり堪能して会場を後にした。
その後、5周年記念のスペシャルイベントである「最多得票の商品化」が発表されたらしい。数ある中から選ばれたのは、未悠こと粕田真理の作品だった。他の追随を許さず、圧倒的大差でトップに立った。
これに不満を爆発させたのが克己だった。
元々はBL系を中心としたマニアックな漫画を描いていたのだが、大会向けに指向を変え、一般受けしそうな作品へ覆した。
自分の好きなモノを全力で手がけるをモットーとしている克己は、商品化という甘い汁になびいた未悠が許せなかったらしい。
そしてケンカになった。
「貴様にはプライドはないのか」
「好きなテーマを手がけて何ぞ悪役か」
「お前は腐女子だろうがっ!」
「主が獲れなかったから吾輩のせいにするとは言語道断」
「他人の視線に媚びやがって」
「媚びてはおらぬ」
「完全に飲まれたろうが」
「実力の違いを見せつけられ狂ったか」
「くっ……」
ニヤッと笑う勝者の余裕に言葉が出なかった。
「おい三次。お前は未悠の作品も読んだんだろ」
「ああ、読んだぜ」
「だったら、どっちが上か分かるよな」
「ハッキリとな」
「お前に認められたら本望だぜ」
「そうか」
「親友に問う。どっちだ」
「圧勝で未悠だな」
「グギギッ」
歯ぎしりをしながらも返答に戸惑う克己。どちらが上手いか作品を見れば一目瞭然である。素人の俺でも分かるくらいだから、描いている本人なら尚更だろう。
「それはいいとして。お前、フィギュアはどうした」
「フィギュア?」
「机に飾ってあったヤツだよ」
「ああ、あれね。売った」
「なっ!? あれは俺の宝物なんだぞ」
「そうなの?」
「滅多に手に入らないレア物なんだ」
「それは悪かった。すまん」
「……で、いくらで売った」
「500円」
「き、貴様とは絶交だぁぁーー!」
暴言を吐き捨てて教室から出て行った。
何だろう、朝っぱらからこのテンションの高さは。
宝物を500円で売ったのは申し訳なく思う。それに関しては過ちを認める。お前の喜ぶ顔を見たいが為の行動だ。勘弁してくれ。
ただ、未悠に文句を言うのはお門違いだ。悔しい気持ちは分かるが、素直に負けを認めるのが男ってもの。ガキみたいに駄々をこねても女々しいだけである。
あの内容でトップを獲ろうと思ったお前の頭が腐ってるけどな!




