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本日も学園生活を満喫します  作者: 室町五丁目
3時間目

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20/36

喧嘩の原因はバカの極み

 うっかり発言で友則と克己を不穏な空気にさせてしまった。互いに顔を合わせても生返事しかせず、会話もほとんど交わさなかった。

 お陰でクラスにつかの間の平和が戻り、全員で「良かった」と手を叩いて喜んでいたある日。


「おはようさん」


 扉を開けると、教室内が殺伐とした空気に包まれていた。何が起こったのか分からないが、ピリピリムードである事は間違いない。気まずい雰囲気が漂う中、席に座って勉強の準備を始めた。

 するとそこへ、クラスで最も頭が良くイケメンの寒川という男がやって来た。


 この寒川(まこと)という男。我がクラスのトップスターである。

 頭脳、運動、性格、顔、そしてスタイルに至るまで非の打ちどころがない憧れ美男子だった。

 誰にでも分け隔てなく平等に接し、困った時は手を貸してくれる熱い一面も持っている。俺らのような校内の粗大ゴミにも気さくに話をしてくれる。

 当然ながら女子受けがいい。爽やかな笑顔がハートを鷲掴みにする。彼に恋焦がれ涙を流した女子が何人いることか。

 同じ人間とは思えないほど別世界で生きている。

 悲しい現実はどうでもいい。



 挨拶もそこそこに近寄ってくると、訳の分からない忠告を受けた。


「おい三次。何とかしてくれよ」

「は? 何が?」

「このままじゃ落ち着いて授業が出来ないよ」

「何がだよ」

「あいつらを止めるのがお前の仕事だろ」

「言ってる意味が分からんのだが?」

「クラス中が迷惑してるんだよ」

「……いい加減にしねぇと俺が暴れるぞ」

「頼むよ」

「だから、内容が逐一分からんのじゃぁぁーー」


 そう叫ぶと、例の2人を指さした。


「あいつらがどうしたんだよ」

「実はな……」


 彼の話によると。


 朝、学校へ来た克己は、自分の机を見て仰天した。机からイスに至るまで全てにロリ系雑誌やら、二次元系のヤバイ画像の切り抜きが貼られていた。そして机の中央に「裏切者は滅」と書かれた紙が置いてあった。

 犯人を即座に察知した克己は、友則がトイレに行っている隙を狙ってイスに画鋲を貼り付けた。知らずに座った友則は「ぶぎゃぁぁ」と叫び、奴のケツが画鋲だらけになった。


「コラ克己。テメェー!」

「……」


 克己は完全無視を決め込んだ。その態度にイラっときたのだろう。近寄って襟首を締め上げた。それでも黙秘権を貫く姿勢にブチ切れた友則は、強烈な頭突きを見舞った。

 さすがの克己も我慢の限界である。教室を出て行ったかと思いきや、バケツを抱えて戻ってくると、大量の水をぶっかけた。


「何すんだ。この変態ロリ野郎がぁ」

「BBA専門の腐れポンチ」

「なんだとぉ~。もういっぺん言ってみろ」

「貴様は脳も腐りかけてるぜ」

「やんのか、テメェー」

「やんねぇよ。バカに構ってるヒマなんかねぇ!」

「せ、戦争勃発じゃぁぁーー!」


 周りを巻き込んで壮絶な小競り合いが始まったらしい。

 消しゴムを投げつければシャーペンが飛んでくる。教科書を投げると鞄が飛んでくる。隣近所の奴らは、たまったものではない。巻き込まれて文句を言おうものなら、今度は自分が集中的に狙われる。

 そんな状況を目の当たりにして、朝からクラス中が嫌な空気に包まれた。授業の妨げになると考えた寒川は、二人を止めに入った。しかし、人の話を聞くような連中ではない。「うるせーよ」の一言で片付けられ、取り付く島もなかった。

 クラス全員が「これを止められるのは三次しかいない」と、俺が来るのを待っていたらしい。


「何とかしてくれよ」

「何とかしろって言われても……」

「小競り合いがエスカレートしてるんだよ」

「放って置けよ」

「みんな迷惑してんだよ。頼む!」

「……とりあえず1時間目が終わったら話を聞いてみる」


 そう言って周囲を納得させ、その場を収めた。


 何だか面倒くさい事になってきた気がする。

 克己を見ると、大量の張り紙に囲まれて憤慨していた。ブツクサ言いながら剥がしていたが、ボンド的なモノでくっ付いているのだろう。なかなか取れずに「ムギィ~」としていた。

 もう一方を見ると、全身ズブ濡れで克己を睨んでいた。しかも、顔や手が真っ黒に染まっていた。たぶん、バケツの中に墨汁を大量投入したと思われる。


 昔からこの手のケンカはだいたい友則が原因だ。奴が何かしら頼みごとをして、それをこちらが果たせなかったときに起こる。

 3人の中では温厚な克己が墨汁入りの水をぶちまけるのは、よほど頭に来ている証拠だろう。

 授業中にも関わらず、空中に何かしらの飛行物体が飛び回り、微妙な小競り合いが続いていた。

 教師が注意しても収まる事はない。10分に1回のペースで「滅」と叫ぶバカがいて、その直後に丸められたゴミが大量に飛んで来る。周り近所の奴らにバシバシ当たっていたが、みな歯を食いしばって耐え忍んでいた。


(まずは克己からだな)


 クラス中の懇願視線を浴びながら、ファンキーな時間を過ごした。



 ようやく1時間目が終わり、涙目の連中を背に克己を廊下へ呼び出した。


「おい克己。一体何があったんだ?」

「あの野郎。絶対に許さん!」

「いいから話してみろ」

「……」


 ここ最近、俺と克己がコスプレ関係で盛り上がっていた。友則が会話に入ろうとしても内容について来れず困惑していた。

 野生児の直感は鋭い。2人の楽し気な様子を不審に思った友則は、克己を捕まえて追及した。


「もしかしてバレたのか」

「そうなんだよ」

「……で?」


 洗いざらい白状させられた克己は、渋々イベントへ連れて行った。だが、そこは小規模なイベントで、レイヤーはいなかった。

 そう。友則の目的はセクシー刑事だった。

 エロ根性満載で乗り込んだがセクシー刑事どころかコスプレもいない。地味な連中がモソモソ話をしながら作品を売買しているだけだった。


「約束が違うじゃねぇか」

「そんな約束してないぜ」

「セクシー刑事はどこだよ!」

「今日は来ないって言っただろう」

「貴様ぁ~。裏切ったな」

「イヤだったら帰れよ」

「欲求不満で帰れるかぁぁぁ」

「お前、完全にイカレてんな」


 頭のヒューズが弾け飛んだ友則は、


「フルチン刑事じゃぁぁーー」


 そう叫んで服を脱ぎ始めたらしい。

 慌てて駆けつけた警備員に取り押さえられ、2人共にイベントを強制退去させられた。


「もうあそこのイベには行けなくなったよ」

「……エロが脳に来たか」

「俺の楽しみを奪いやがって!」

「……」


 友則の言動は分からなくもない。楽しみにしていた分のショックが大きかったのだろう。前日は欲汁が大量放出されて眠れなかったと思う。それに奴は意外にも「焼きもちやき」である。

 自分のいない所で2人が楽しいことをしている。その状況に心が狂おしい交響曲を奏でて海馬が砕け散ったのだろう。

 元々、仲間を一番に考える奴である。頼まれたら絶対に断らない性格で、自分を犠牲にしてでも助けてくれる熱い漢だ。愛読書である男塾から多大なる影響を受けていて、そんな奴が意味不明の言動で仲間を困らせたりはしない。


「今回は俺に任せておけよ」

「いくらお前の頼みでも許さないぜ」

「まあまあ。そう熱くなんな」

「……で、どうすんのよ」

「ムヒヒヒッ」

「……」


 淫靡な笑いに何かを悟ったようだ。怒りが少し収まった克己を解放して10分の休憩時間が終わった。

 席に座って友則を見ると、理科室から三角フラスコを持ち出して何やら怪しげな液体を製造していた。



 ようやく辛い2時間目が終わった。俺はその足で友則の所へ行った。


「お前、克己とケンカしたんだって?」

「何だよ。この裏切者が」

「は? 俺がいつ裏切ったんだよ」

「奴と2人で楽しい事をしたらしいじゃねぇか」

「たまたまだよ」

「俺をのけ者にしやがって」

「そう吠えんなって。一旦落ち着けや」

「ウッセーんだよ。あっち行け。この鬼畜やりちんがっ!」


 案の定、焼きもちだった。怒っている時の相手は話が通じない。いくら説明しても「あっち行け」と手をシッシッとされる。

 ここで腹を立てたら何もかもがメチャクチャだ。こういう場合は奥の手を出すしかない。

 俺はおもむろに携帯を取り出し、画像を見せた。


「ガフッ。こ、これは何事だ!」

「どうだ。目が覚めたか」

「も、もしかしてセクシー刑事?」

「ピンポーン。大当たり」

「これが夢にまで見た……」

「生で見たいか?」

「見たい。是非見たい!」

「生尻感が半端ないぞぉ~」

「マ、マジか!」

「布の面積が極小だぞぉぉ~」

「うがぁぁ」

「不埒な部分が見え隠れだおぉぉぉ~」

「みればちょもでんがぁぁ」


 頭のネジが数十本単位で外れ、日本語すら忘れてしまったようだ。


「今度連れて行ってやるよ」

「マジか!」

「その代わり、お前もコスプレしろ」

「何でだよ」

「レイヤーと一緒にやれば間近で鑑賞出来んだぞ?」

「……コスプレって、何に変装するんだよ」

「お前が大好きなキャラだよ」

「男塾か!」

「お前の漢を見せてやれ」


 単純バカである。この時点で既にやる気がみなぎって、瞳が炎になっていた。


「とりあえず、克己に謝って来い」

「い、いや。それは……」

「奴がいなきゃエントリーすら出来んかもしれんぞ」

「でもぉ……」

「生尻を見たくないのか?」

「み、見たいが……」

「御託を並べるな。お前は漢だろ。オラ、返事はどうした!」

「は、はい!」


 威勢のよい返事をして克己のもとへ駆け寄ると、「克己君。ごめんなさいぃー」と大声で詫びを入れた。

 その様子を見て、クラスメイトたちは、ようやく安堵の息をついた。


 仲直りはこれで良しとして。それより友則、このフラスコの中身は何だ。

 アンモニア臭がするんだが?






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