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本日も学園生活を満喫します  作者: 室町五丁目
3時間目

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18/35

新たな世界へようこそ

 何の説明もなく引き止められた俺は、バカ面を引っさげてイスに座っていた。


 正直に言ってまったくやることがなかった。机の前でボーっとして客が来るのを待つだけである。限りある時間を無駄に過ごす。これほど屈辱的なことはない。

 時間潰しに鼻くそゴルフをするか、へそのゴマをほじって匂いを嗅ぐか。たまに絶対領域が通りかかり、拾い物をしている体で覗くか。

 暇なのはまだマシだ。本気でイヤなのは、いま着ているTシャツである。

 ボンテージファッションに身を包んだ美少女が、四つん這いでケツを露わにした男性をムチ打ちしているオリジナルイラスト。それがデカデカとプリントされたTシャツをお揃いで着用していることだ。

 新刊を兼ねた宣伝アピールで、これを着ることによって、売り上げに大きな差が出るとか出ないとか。このTシャツを見て「おっ、面白そうだな」と思う奴がいたとしたら、「目を覚ませ!」と言ってビンタするだろう。

 言いたいことは山ほどあるが、ここは克己の城で文句は言えない。


 激ヤバTシャツを着て、愛想笑いを振りまきながら本を売り捌く俺と克己。完全に狂った兄弟である。

 顔から火が出るどころか、紅蓮の炎が天まで上がり、今すぐにでも海へ飛び込みたかった。


「ところで、友則を誘わなくて良かったのか?」

「あいつはダメだ」

「何でだよ」

「危険過ぎるんだよ」

「だから、何がよ」

「見りゃ分かるって」

「言ってる意味が分かんねぇよ」

「ほら、そろそろ出て来るぞ」

「……」


 いい加減で帰ろうとした時、体育館の壇上が騒がしくなった。袖からスタッフらしき人が出入りし、セッティング作業が行われている。

 舞台下には、一眼レフを持った怪しげな連中がどこからともなく集まり始めた。何となく淫靡な香りがする。


「一体何が始まるんだ」

「レイヤーショウだ」

「何だそりゃ」

「近くへ行って見ようぜ」


 カメラ小僧に混じってかぶりついていると、辺りが薄っすらと暗くなった。舞台に照明が灯され、POPな音楽が鳴り響いた。機械的だが味のある歌声と共に現れたのは、ド派手な衣装を身に纏ったコスプレイヤーだった。

 存在そのものは何となく知っていた。コミックマーケットなる場所で推しキャラに身を包む女性たち。ニュースでも取り上げられて全国的に有名である。

 ただそれは、大都会に住む者たちの特権で、マニア向けの未知なる世界かと思っていた。まさか我が町にもいるとは驚きだった。

 食いつくように見つめる中、斬新な衣装を身に着けた子たちが次々に登場した。キャラ名はよく分からないが、こんな子が登場するアニメがあるのだろう。画面から飛び出したリアルキャラがお尻をプリっと突き出し、谷間を寄せて上げ、人差し指を咥えながらカメラ小僧に向けてポーズを決めていた。

 素で見ても可愛い子が推しキャラに変身してアピールする。しかも谷間を強調するなど、これは反則技である。オタじゃなくても萌える一撃だ。


「なかなか面白れぇじゃねぇか」

「だろ? お前にこれを見せたかったんだ」

「ほう。いい心がけだ」

「存分に楽しめよ」


 一瞬たりとも気を抜く事なく凝視していると、スクール水着に天使の羽を付けた子が登場した。小僧どもがザワついた。


「い、いいのかよ。あの衣装」

「あれはスク水妖精のアキナちゃんだ」

「切れ込み具合が半端ないんだが」

「そういう仕様だからな」

「恥骨が丸見えなのはOKなのか?」

「あれは第一形態で、第二形態はもっと過激だぜ」

「あれ以上に過激って……」


 メトロノームが静かに揺れ出した。鋭角な切れ込みに鼻の穴を広げていた時、新たなる刺客が登場した。

 極小の水着にシースルーの布をサラリと纏い、太腿に拳銃を装備したキャラが登場した。凶暴なボイ~ンと、攻撃的なプリケツを僅か数センチ足らずの布で覆い隠している。いや、ほとんど隠していない。

 小僧たちのボルテージが一気に上がった。


「がっ……」

「凄いだろ」

「し、下乳はみ出しまくってんぞ」

「あれはセクシー刑事(デカ)の加々美樹里だよ」

「セ、セクシー刑事だとぉぉ~」

「決め台詞は「逮捕ちゅる」だ」

「ちゅるぅぅぅ!?」

「どうだ。逮捕されたくなったか」

「細部までねっとり職質されたい」


 メトロノームが直角に振り切った。レイヤーショウはまだ終わらない。さらに俺のハートを刺激する。


「あれは桃から生まれたピーチ嬢だ」

「後ろなんて布1本じゃねぇかよ」

「巨乳大天使のミルク王女様が来たぞ」

「ち、乳の全貌が明らかに!」

「切れ込み隊長のパインちゃんの登場だ」

「ねぇ、毛が無いよ?」

「さすが5周年。みんな気合が入ってるぜ」

「た、堪らん」

「おおっ、獣シスターズ」

「シッポがぁ、変な所からシッポが生えてるのぉぉぉ」


 爆裂な衣装が次々と目頭を熱くさせ、脳の一番大切な部分をヤラれてしまった。脳下垂体が粉々に砕け散り、視床下部から性器へ直接伝達信号が送られる。

 現状を分かり難く説明すると……。


 平和を叫ぶ集団が武器を持って集結する。そんな感じである。

 要するに、クルクルパーになったということだ。


 世の中には、こんな過激なショーがまかり通っている。だとしたら、俺は今までの人生の全てを損していた気がする。

 その後、携帯で色んな箇所をバシバシ撮りまくり、終わった頃には廃人と化していた。


「どうだった。イベは?」

「最高じゃねぇか」

「だろ」

「こんなん毎回あるのか」

「今回は特別だが、他でもたまに催されてるな」

「そ、それにはレイヤーも来るのか?」

「体育館は規模がデカいから人が集まるが、小規模スペースの所だとあまり見かけないな」

「もし彼女らが来るイベがあったら教えてくれ」

「お前もハマったか?」

「ドハマりだ」

「今晩はご馳走だな」

「2週間は楽しめそうだぜ」

「ギャハハハ」


 こうして人生初のイベントは幕を閉じた。


 知らない世界を垣間見る。それは成長の機会でもある。食わず嫌いで否定する前に何にでもチャレンジしてみる。すると、今まで見えなかった新しい何かが見えてくるのだ。

 今回で俺は一回り大きくなった。これを糧にさらなる世界へ飛躍しよう。






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