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本日も学園生活を満喫します  作者: 室町五丁目
3時間目

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17/38

フェスティバルはカーニバル

 それからも学校とアトリエ、アトリエと自宅を往復しながら漫画に没頭していた。

 おしゃべりな克己が一言も発しないのは正直怖い。暇さえあれば、訳の分からないことを語って聞かせる輩である。

 あまりの煩さに頭突きで黙らせるが、バカなので三歩も歩けばすっかり忘れて語り出す。しかも「人の話を聞く」という、人間としての根本的な部分が欠落しているため、自己中な内容ばかりだ。温厚な俺ですらイラっとくる。頭突きでも収まらない場合、モンゴリアン・チョップであの世へ送っている。


 そんなトラッシュトークを炸裂させる彼が終始無言。本気で即身仏になったのかと思い、試しにアトリエ近くに、いちご牛乳を置いてみた。数分後「うまい!」という声が聞こえて安心した。

 友則は友則でリラックスして貰おうと、周辺にお香を焚いていた。心身ともに落ち着く香りが森の中に漂い、何とも言えない高貴な気分になる。

 ただ、なぜ踊りながら周回しているのか。しかも全裸で。

 どこかの部族のおまじないなのか?



 親友の心温まるサポートを全身で受け止め、克己だけが待ちに待ったイベントが開催された。


「三次。ヒマだったら遊びに来いよ」

「どこでやるんだ?」

「市営体育館」

「ああ、あそこか」

「楽しいぜ」

「でも俺、同人誌とか興味ねぇからな」

「それだけじゃない。スペシャルイベがあるんだよ」

「どんな?」

「それはナイショだ」


 気持ち悪いウィンクで誘われた。正直乗り気はしなかった。

 俺はこうみえても忙しい身分である。予習復習を毎日の日課としており、一日も欠かした事がない。日頃の積み重ねが大切なのだ。その他にも映画鑑賞だったり、新製品の開発だったり。夢に向けて忙しく動いている。

 これが好きなイベントなら気分転換がてら出掛けるのだが、今回は道に落ちている煙草の吸殻くらい興味がない。しかし克己が「来たら人生変わるぜぇ~」とエロい顔で誘って来る。

 小学生の時、その言葉を信じて人生が変わったように、今回も何かが起こるかもしれない。淡い期待を胸に妹の貯金箱から少々拝借し、自慢の愛車「スペシャル・ル・マロン」にまたがり、暇つぶしがてら市営体育館へ向かった。



 スペシャル・ル・マロン。略してスペルマを降りて入口まで行くと。


【第5回 同人フェスティバル ~自由なあなたへ夢を届けて~】


 ご丁寧に副題まで付けられた横断幕が掲げられていた。

 ここは俺の町で、貝東地区のことなら全てを知っている。若い女性店員のいない本屋はどこか。今月の映画は何の悶えなのか。新しい自販機の設置場所から最近出来たお店まで。貝東市貝東町は、俺に任せておけ状態である。

 そんな俺にも知らないことがあった。


「……5年も開催されてるのかよ」


 克己のようなオタがこの町に沢山いる。そう考えると不思議な感覚だった。さして興味はないが、入場料はタダらしいので興味本位で入ってみた。


 そこは、思い描いているイメージとは違っていた。

 長机が所狭しと並べられていて、プラスチックの簡易ボードでブースが仕切られていた。各ブースには、のぼり旗や自作のPOP、タペストリーなどで彩られ、アピールしたい商品が積まれていた。

 作品も多種多様だった。漫画やイラストに始まり、フィギュア、ぬいぐるみ、CDやDVD。缶バッチのような小物まで。あらゆる自作品が所せましと並んでいた。

 出品している連中ばかりではない。それを見に来る人、友達や関係者などが体育館にひしめき合っていた。この町には何人のオタクがいるんだ? と驚く盛況ぶりである。

 薄暗い室内で根暗なオタクたちが薄笑いを浮かべ、奇妙奇天烈な物品を売買している。眼鏡に小太り、ネルシャツを着て、左右の長さが非対称のジーンズを履く。そして大量の缶バッチを付けたリュックを背負っている。人権問題に発展しそうなイメージしかなかった。

 ここにそんな連中はいない。逆に俺より爽やかな奴らが仲間と趣味を共有し、作品を自慢し合っていた。その顔は輝いていて、みな心から楽しそうだった。


「こういう世界もあるんだな」


 笑顔の連中に詫びを入れつつ、親友のブースへ行った。


「オス!」

「おおっ、三次」

「どうだ調子は」

「ウエルカム我が城へ」

「盛況だな。毎回こんな感じなのか?」

「今回は5周年で特別だからな。いつもより多めだぜ」

「ふ~ん」

「まあ、遠慮せず見て行けよ」


 テーブルに並べられた作品を自慢げに見せびらかす克己。その中から新作と書かれた一冊を手に取りパラパラめくった。

 事あるごとに半強制的に読まされているため、絵のタッチも内容もほぼ知っている。改めて読む必要もない。

 余談だが、彼の作品を読む場合、真剣に目を通してはいけない。随所に罠が仕掛けられていて、ページを開くごとに落涙する。最終的には気分が悪くなって嘔吐する。


「どうだ。魂の作は」

「……」


 幼げな少女と出会い、紆余曲折を経て立派なレディーへと成長させる。主人公と彼女の幸せな人生を描いたラブストーリーなのだが……。


「面白いだろ」

「この内容で調教って……」

「ロマンあるだろ」

「ねぇよ」

「これで書籍化を狙うぞ」

「その前に捕まるわ!」


 克己と漫画。狂人に刃物。こいつにナイフを持たせたら、確実に切り裂きジャックへと変身しそうな気がする。

 本人が好きでやっている事なので文句は言えない。どういう結果になろうと自己責任である。


「まあ、頑張れや」

「おう。必ずやトップに立つぜ」


 克己に挨拶をし、知らない世界も垣間見た。これ以上ここに居ても無意味である。各ブースを周回してみたが、元々興味があった訳でもなく、誰かと何かを共有したいという気持ちもない。暇つぶしに来ただけである。


「俺、そろそろ帰るわ」

「まだ待てよ」

「もう飽きたよ」

「お楽しみはこれからだ」

「何があるんだよ」

「しばらく待ってろって!」


 強引に引き止められ、しぶしぶ隣のイスに座った。





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