休み時間 克己の夢の城
早起きスポーツ大会は、終始を頭脳戦で貫いた5組の圧勝で閉幕した。ボンクラ揃いの我が3組は、準優勝という輝かしい成績を残した。
未だ怒りの収まらない井上は、5組へ殴り込み、卑怯な手口を使った3人を呼び出して女子バスケ伝統「地獄の1000メートルダッシュ」をさせた。
ゲロを吐きながら懇願したのは言うまでもない。
一方で、ストレスを発散出来なかった友則は、校舎の屋上で日向ぼっこをしていた。サンサンと照り付ける太陽を全身に浴び、英気を養っている。動物と植物の合いの子である彼には、光合成が必要なのだろう。
なぜ全裸なのか、という質問は愚問である。
さらに一方で、大会をスルーして自分の世界に浸っている男もいた。
秘密基地へ行くと、一言も発せずMyアトリエでひたすら漫画を描き続けていた。
「克己。よく飽きないな」
「飽きるとか飽きないとかの問題じゃない。これは俺のライフワークだ」
「ずっと座ってて、ケツ痛くねぇか?」
「うるせー。話しかけるな」
学校にいる時からこの調子だった。話しかけても無視。先生に注意されても「え? 何か言いました?」と、声すら聞こえないらしい。
基地へ戻ってからは、ポテチとコーヒー牛乳を持ってアトリエに籠りっきりだった。
実はこのアトリエ、自身が設計したマイホームである。
漫画やフィギュアに関しては一芸に秀でているが、それ以外は、まったくのダメ人間だ。
基本的な地頭は悪くない。ただ、趣味に夢中で勉強をしない。勉強しないから成績はうなぎ下がり。成績が下がれば面白くなくなり、ふてくされて、さらに勉強しなくなる。
そんな悪循環を繰り返した結果、ついには俺と友則の領域まで辿り着いた。
そして、彼の不思議はここからが真骨頂だった。
絵は上手いのに写生は苦手。フィギュアはプロ並みに作れるが、技術の授業でインターホンを作れなかった。人としゃべるのが苦手なはずだが、俺らとは話が止まらない。コーヒーと牛乳が嫌いなのに、コーヒー牛乳は大好き。
もう意味が分からない。
これらを踏まえた上で判断すると、自分の中にある世界観でしか生きられない悲しき男……なのだろう。
説明に没頭し過ぎた。一旦、我に帰ろう。
職人のような手捌きで小屋を組み立てていく姿を見た克己は、俺を尊敬の眼差しで見つめた。
「三次。お前、本気で凄いな」
「こんなん楽勝だぜ」
「その腕を見込んで頼みがあるんだが」
「何だよ」
「実はアトリエが欲しいと思ってた所なんだ」
「アトリエ? 何だそりゃ」
「簡単に言えば自室だな」
「自室を作ってどうすんだよ」
「趣味を思いっきり堪能したいと思ってな」
「自分の部屋があるだろう」
「それが問題大ありでな」
「問題?」
克己には姉が2人いる。1番上は今年成人を迎え、2番目は高校2年生だった。
俺は妹しかいないのでよく分からないが、姉と弟の関係はお嬢様と執事。女王様と奴隷の関係に近いという。奴の家へ遊びに行く度にパシリに使われているのを目撃している。
俺らがゲームで遊んでいると、突然、姉が乱入してくる。
「克。喉乾いたからジュース買って来てよ」
「嫌だよ。自分で行けよ」
「あんた逆らうつもり?」
「いまゲームしてて忙しいんだよ」
「ちびっ子が生意気な口を利くようになったわね」
背中に強烈が蹴りが入る。その一撃でブツクサ文句を言いながらもジュースを買いに行く。姉はニコッと笑い、「あんたらの分も買って来て貰うからね」といって自室へ。買い物から帰って来た克己は、姉に飲み物を届け、何事も無かったかのようにゲームに戻る。
たった一撃で言う事を聞く克己を見て「上手く調教したな」と思う。
自宅に居ると姉の召し使いと化すため、オチオチ漫画も描いていられない。
『いつしか自由を』
そう考えていたらしい。
「頼む三次。俺の夢を叶えてくれ」
「しょうがねぇな。作ってやるよ」
「ホントか」
「その代わり手伝えよ」
「何でも命令してくれ。どこでも舐めるから」
「……舐めなくていいよ」
そうして完成したアトリエは、二畳分の広さで枠組みに屋根だけ取り付けた簡易なものだったが、本人は大満足の様子だった。
「おおっ。これは無我の境地だぜ」
「意味分かんねぇよ」
「南国のリゾート地に来たみたいだ」
「狭くねぇか?」
「これで十分だ」
「もし必要なら、増改築するぞ」
「アレンジはこれから考える」
「まあ、好きにしろよ」
それからというもの、アトリエは彼の巣と化し、趣味嗜好が一目瞭然の危険な要塞となった。
愛してやまない城の名前は「秘密の花園」だった。
どうでもいいが、入口にデカデカと美少女の「くぱぁ~」を貼るんじゃない。用もないのに、お邪魔しちゃうだろうがぁぁ。




