運命の決勝戦
そして、運命を決める決勝戦が始まった。
相手チームには、これまたバスケ部が3名いた。今までの俺らの動きをつぶさに観察してきたのだろう。奴らはダンクを警戒し、ゆっくりパスを回しながら、こちらを焦らす作戦に出た。
ゴール下には脳筋ゴリラがいて、体当たりなどしようものなら明後日へ吹っ飛ばされる。なるべく近づかず、遠くからのシュートで確実に点を取りにきた。
俺にボールが渡れば、3人がかりでガードに入る。小刻みなステップもトリッキーなプレイも封じられた。残るはパワーしかない。体をガンガンに当てて突破を試みたが、ファールを取られて終わりだった。
修平と省吾は、オフェンスとディフェンスを兼任している。特にもう1枠の交代要員が厄介で、クラスでもぶっちぎりにトロい奴が随時交代してくる。
飛んでくるボールをヘディングしたり、何をしていいか分からず、コート内をウロウロしたり。スピーディーなパスを受け取るのが怖いと言って避けた奴もいた。
向ってくるパスを「うわぁぁ」と叫びながらスルーした時、大会終了後に校舎裏へ呼び出し、一皮剥けた男にしてやろうと思った。
そんなダメ星人をカバーしつつ、攻撃にも転じなければいけない。奴らの重労働を考えると、ポイントゲッターは必然的に俺だけになる。
相手側は、俺が居なくなれば楽勝と考えているのか、反則ギリギリの行為で攻めてくる。苛立たせて、退場を誘発するつもりなのだろう。
そんな幼稚な手には引っ掛からない。俺は常に冷静沈着な男。怒りを自在にコントロールする宮本三次である。
反則行為を気にしながらチャンスが訪れるのを待っていた。
だが、なかなかそのチャンスは訪れなかった。
相手はダンクを警戒し、無理なパスは出してこない。友則対策として、奴の周囲で細かくパスを回し、隙を見つけてシュートへ持ち込む。
修平や省吾もボールを奪いに行くが、簡単にはリバウンドを取られないよう徹底して対策されていた。そのうえ、ダメ星人たちが足を引っ張る。
結果、コート内を無駄に駆け回るばかりで決定打がない。何を仕掛けても絶妙にかわされ、それがそのまま相手の反撃の糸口になっていた。
手も足も出ないとはこの事で、時間だけが悪戯に過ぎていった。
傍らで見ている井上は歯ぎしりをし、ストレスが限界に近づいている友則はフーフー唸っていた。
ハーフタイムに入り、得点は29対10だった。
明らかに挽回のチャンスはなかった。俺らの奇跡もここで終わりである。死神が舌打ちしながら去って行く姿が見えた。チームメイトも観客もそう思っていた。
しかし、井上は違った。
「諦めるな!」
「なあ井上。もう無理だろう」
「無理という言葉は、終わってから言うセリフだ」
「どう考えても終わってるだろうが」
「三次。お前が弱音を吐くとは思わなかったぞ」
「時間がねぇんだよ」
「試合は、まだ続いてるんだ」
「後半でこの得点差を覆すのは無理だろうがよ」
「何とかなる!」
「奴らが時間稼ぎしたらどうするよ」
「……」
シュートも打たず、パス回しだけで乗り切られたら勝利など遠い未来になる。
それはバスケバカの井上が一番分かっているはず。何度も苦汁を飲まされ、準優勝という不名誉な結果に甘んじてきた。それは勝つための手段であり、戦略であることは百も承知だろう。
「もう諦めようぜ」
「ふざけるな。ここまで来て諦められるか!」
「往生際が悪いな、お前」
「よし。分かった」
「何がだよ」
「もし優勝したら、スカートめくり一回サービス」
「マ、マジかよ」
「どうだ。やる気が出たか」
「お前、本気で言ってんの?」
「私に二言はない!」
「このメンツにそれは危険だぞ」
「百も承知だ」
「特に友則……」
「みなまで言うな!」
井上の言葉を聞いたメンバー全員が「ウオォォーー!」と地響きのような唸り声を上げた。
「どうなっても知らねぇぞ」
「勝てばどうなってもいい。三次、頼むぞ!」
憧れのスカートめくり。この言葉に初めてチーム一丸となった。
井上のパンツはどんな形で、主に何色を主軸としているのか。その事だけを考えて後半戦に突入した。
省吾からの絶妙なパスを受けて修平が外から決める。相手がシュート態勢に入った途端、友則がバレリーナのようにクルクル回りボールを奪う。パスという概念がない友則は、力任せにボールを投げる。闇雲に放ったボールがバックボードに跳ね返り、俺がリバウンドしてダンクする。
前半戦に苦しんだとは思えない動きで得点を重ねた。恐るべしパンツ効果である。苦戦した時は「パンツ井上!」と叫び、それぞれの性癖に思いを馳せた。
生気を取り戻し、復活を遂げた俺らに戸惑った相手チームだったが、反撃もここまでだった。
奴らは直ぐに冷静さを取り戻し、なるべくシュートを打たず、早いパス回しとドリブルを繰り返した。あからさまな時間稼ぎである。
コート外から「卑怯だぞ。お前らぁぁ」という井上のヤジが飛んだが、そんなのは完全無視で焦らし作戦を続けた。
自陣のゴール下ではリスクが高いため、先ほどから友則を囲んでパス回しをしている。友則は、ボールを追いかけて右往左往している。その姿は人間に捕らえられた動物のようだった。
リスク対策に敵陣でのパス回しは認める。ただ、もうその辺で奴をからかうのは止めた方がいい。手足をカクカクさせて奇妙な動きになってるから。それはストレスがMAXになった時の現象で、ブレンバスターを欲している合図なのだよ。
その後も無駄な時間が続き、無情にも終了のホイッスルが鳴った。
見事にしてやられた。納得出来ない井上は、激高しながら相手チームへ文句を言いに行っていた。
別に卑怯だとは思わない。正々堂々の勝負は、漫画やドラマの世界だけ。これも勝つための作戦でチーム戦略である。
女子バスケ部が全国優勝した試合も、同じように時間稼ぎで苦しめられた。それを心技体でいかに打ち崩すか。だからスポーツは面白いのだと思う。
井上の情熱を肌で感じながら友則を見ると、1人を捕まえてコブラツイストをかけていた……。
なんか、この2人って似てるよな。




