大会本番です
早朝6時。2年生全員が体育館へ集められた。
昨日の無理が祟って全身が筋肉痛だった。体の節々が悲鳴を上げ、膝が大爆笑している。立つこともままならず、生まれたての子牛みたいにプルプルしていた。指でツンとされただけで「はふぅ~ん」と吐息を漏らして倒れそうだった。
こんな状態で試合に出ても勝てるはずがない。今すぐにでも帰って、柔らかな温もりに抱かれながら爆睡したい。
俺の苦悩など完全に無視したまま、実行委員がにこやかに大会の主旨とルールを説明していた。
体育館が男子と女子の二面コートに区切られ、壁に張られたトーナメントの順に従って試合をしていく形式だった。
このトーナメントが曲者で、どこに入るかはクジ引きで決定する。
各クラスがどういうチーム構成で挑んでくるかがカギである。バスケ部のいないチームに当たれば、順調に勝ち進めるだろう。バスケ部所属、もしくは運動能力の高い者を集めたスペシャルチームと対戦すれば、一回戦で負ける可能性が高い。
要するに運だけである。試合をする前から勝敗は決まったようなものだ。
運も実力のうちと言うが。
だったら、最初からクジ引きで決めろやぁぁーー!
という心の叫びも空しく、早起きスポーツ大会inバスケが始まった。
勝てば官軍、負ければ賊軍の一発勝負に若き血潮がぶつかり合う。気合が入っているのは選手だけではない。応援にも熱が入っていた。各組お手製の横断幕や旗が掲げられ、クラス一丸となって勝利を願う。体育館が異様な熱気に包まれ、誰もが短い中学時代を存分に謳歌していた。
そんな中、出番まで暇を持て余した俺らは、女子バスケを真剣に応援していた。
「おい三次。あいつスゲェーな」
「ブルンブルン揺れてるじゃねぇか」
「何組だ?」
「確か1組の岩橋とかいう奴だな」
「サイズは?」
「あれは87だな」
「挟めそうか?」
「余裕だろ」
「もう1人の尻プリプリは?」
「5組の村上沙也加だった気がする」
「サイズは?」
「88」
「安産型だな」
「子供沢山産めそうだな」
青春のプリプリを堪能していると、井上がいつになく真剣な表情でやって来た。
「いい加減にしろ。そろそろ試合だぞ」
「お前の方は大丈夫なのかよ」
「私たちはもう次のステージへ勝ち進んだ」
「そうか。それは朗報」
「次はお前らの番だ。期待してるぞ」
男として期待されたら下半身も疼くというものだ。
俺らは重い腰を上げて本番へ挑んだ。
時間が経つにつれ、勝敗が決まっていく。勝利を手に歓喜する者、無情にも破れて肩を落とす者。青春がそれぞれの形で過ぎていった。
肝心の3組だが、チームBは善戦空しく一回戦で敗退した。当然、井上に叱咤されていたが、皆の顔はやり切った徒労感で輝いていた。
井上率いる女子軍団は、運が悪かった。
相手チームに女子バスケ部が3名も所属していた。これはかなり難易度が高い。分かりやすく例えると、回復呪文を一切覚えず、やくそうだけを頼りに洞窟へ挑むのと一緒である。
特に井上は次期キャプテン候補として完全にマークされている。1人に対して3人がかりでガードに付かれたら、自由に動く事さえ出来ないだろう。
現に、彼女にパスが渡らないよう、1人はマンツーマンで鉄壁のマークについていた。その間、他の2人が自在にボールを操る。
チビという弱点を巧みに利用して相手の間をすり抜けるものの、パスが飛んできた途端に体を当てられカットされた。井上にボールが渡れば、すぐさま2人が駆け寄って包囲する。同じ部活で切磋琢磨している仲間同士。クセまで読み取られ、思う様なプレイが出来なかった。
それでも根性とテクニックはピカ一の彼女。意地と気合で得点を重ねたが、逆転叶わず破れた。
終了のホイッスルが鳴った瞬間、床にボールを叩きつける後ろ姿を見て、少しだけ愛おしく思えた。
俺らチームAは順調に駒を進めた。
修平と省吾がリーダーになり指示を送る。
「三次、ゴール下へ行け。友則は全力ガードだ」
弱小部といえども、毎日練習しているだけのことはある。試合感が的確で、相手の動きを先読みして封じる。
「三次。行け!」
「任せておけやぁぁーー」
省吾からパスを受け取った俺は、華麗なステップでダンクを決めた。囲まれた時は修平へ返すと、遠目からスリーポイント。友則は、ゴール下でキングコングのように立ちはだかり相手を威圧する。
シュートを放とうとする瞬間を狙い、ありったけの力でボールを叩き落とす。ボールを弾かれただけのはずなのに、なぜか相手まで吹っ飛び、ファールを取られる場面もしばしばだった。
しかも、強く叩きすぎたせいで床に跳ね返ったボールが、そのまま自陣のネットを揺らすという、バカげたオウンゴールまで披露した。
ハーフタイム時に井上に呼ばれ、片隅でゲンコツを喰らっていたのはナイショで。
まあ、こちらも素人で相手も素人。実力に大差なく、どのチームが勝ち上がってもおかしくない状況である。井上が言うように、即席メンバーにチームワークなどない。勝敗は運次第だろう。
技術も実力も頭脳ないが、悪運だけは売るほど持っている俺と友則。真後ろに鎮座している死神を味方につけ、確実にのし上っていった。
そして、気が付けば決勝までコマを進めていた。
「お前らよくやった。あともう一息だ。特に三次、なかなか見応えのあるシュートを放つな」
「あ、ありがとう」
「このまま最終決戦だ」
「もう足がガタついてるんが……」
「弱音を吐くな!」
「ダンクって意外と筋肉使うんだぞ」
「そんなもん、気合と根性で乗り越えろ」
唐突にビンタを喰らった。
「友則。次にオウンゴールしたら、全てをバラすからね」
「な、なろおぉぉぉ」
「あんたは私に逆らえない。OK?」
「くっ、くそぉ~」
「よし、お前ら全員一列に並べ!」
「勝って欲しい」その願いが行動に表れたのだろう。気合の掛け声と同時に俺らの横っ面を次々と張り倒した。
「なあ井上。痛すぎるんだが」
「三次。これは気合を入れたんだ!」
「お前は猪木かよ」
「あんたら対する尊敬の念だ」
「……」
本人は愛情表現だと思っているらしいが、やられた方はたまったものじゃない。ビンタが痛すぎて脳がグラつく。
もしこれが彼女なりの愛情表現だとすると、立て続けに二発も喰らった俺は、愛情MAXって事?




