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本日も学園生活を満喫します  作者: 室町五丁目
2時間目

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12/36

進化し続ける者たち

 井上の勝ちに対する執念は凄まじいものがある。

 登校するな否や、朝から休む事なくバスケ理論を聞かされた。どこへ行くのも常に一緒で、休み時間はトイレまで付いて来る始末だった。


「おい、ここ男子トイレだぞ」

「知ってるわ。それより早く済ませろ」

「周りの連中がビックリしてるんだが?」

「雑魚どもに用はない!」

「雑魚って……」


 男子トイレでその発言は禁句だと思う。みんな自分のブツをマジマジと見つめ、肩を落として出て行くから。


 貴重な昼休みは、体育館で殴る蹴るの暴行を受けた。


「なあ井上。もう止めようぜ」

「うるさい。黙って付き合え」

「勝ち負けに拘るなよ」

「貴様に負けた時の悔しさが分かるのかっ!」

「お遊びなんだからさ」

「負けは人生の敗北を意味するんだぞ」

「大袈裟な……」


 どちらかと言えば、俺も負けるのは嫌いだ。喧嘩上等、百戦錬磨、厚顔無恥で売っている俺が負けたら、単なる厚かましい奴である。

 誰でも勝つ方が嬉しいに決まっている。勝負の世界に身を投じている者なら尚更である。だが俺は、アスリートでもなければ勝負師でもない。学校行事に命を懸けるほど厚かましくもない。それよりも、家へ帰って将来の夢に向き合いたい。


「今日はお腹が痛いから帰っていい?」

「ダメだ!」

「妹が入院しててお見舞いに……」

「この間、モールで元気な姿を見かけたわ!」

「母が腰痛で寝込んでいて」

「ホームセンターで木材を担いでいたが?」

「ち、父が危篤……」

「完全にバレるウソを付くな!」


 何を言っても聞き入れて貰えなかった。

 ここまでしつこいとさすがに辟易してくる。あの手この手を使って逃亡を図ろうとしたが、その度に掴まって金蹴りを喰らわされ、動きを封じられる。

 常に行動を共にしているため、事情を知らない連中から悪い噂も立ち始めた。

 宮本三次は井上優花のペットと化している。この間、靴を舐めているシーンを目撃した。リードに繋がれて散歩している。厳しめの調教がクセになり、体を震わせながら喜びの声を上げる。などなど。

 事の成り行きを知っているクラスメイトは、日に日にやつれていく姿を目の当たりにし、普段よりも優しく接してくれた。

 気力体力共に限界に達している。こうなれば最終手段である。

 6時間目が終わるギリギリの時間を狙ってトイレに駆け込んだ。辺りに人がいないのを確認して窓から這い出した途端、井上が目の前に立っていた。


「何をしている」

「の、覗き魔が現れたので捕まえようかと……」

「さあ、行こうか」

「……はい」


 さすがは次期キャプテン候補。相手の動きを読むのは得意である。腕を鷲掴みにされ、体育館まで連行された。

 もう逃げ場はなかった。人間、諦めが肝心である。


 ダンクが出来ると知った今、もはや手加減はしてくれなかった。今までの生温い練習ではない。女子バスケの一員として本格的な練習に参加させられた。


 まず最初に、伝統の「地獄の1000メートルダッシュ」をやらされた。

 100メートル全力ダッシュを休みなく10本やり続ける。スポーツは足腰を鍛える事から始める。下半身の安定が上半身の強化に繋がるとし、女子バスケは始まる前に必ずこれをやる。その他、反復横跳び、腹筋腕立て、ターンの練習。ここまでが基礎体力作りだ。

 休憩する暇もなくボールを持っての練習開始。ひたすらゴールをめがけてシュートを放ち、ドリブルでコート内を走り回る。永遠に終わらないパス回しに、ターンの連続。体が悲鳴を上げた頃に練習試合が始まる。

 水が喉を通らない経験を初めてした。まさに地獄のバスケ部である。

 この時点で三半規管はボロボロ。脳に酸素が供給されず、鼻クソを食べながら女性器を連呼しそうになった。

 隣のコートで涙を拭いながら見ている修平&省吾。マジで自分の名前を忘れそうだった。


 練習が終わった後は、必ずダンク講義をさせられた。飛び方、タイミング、コツなどを聞かれ、今後の教材にと動画撮影まで強要された。


「じゃあ、行くぞ。用意はいいか?」

「あっ、はい」

「それじゃあ、スタート!」

「ぼ、僕は宮本三次。14歳です。好きな体位は……」

「は? 何を言ってるんだ」

「じ、自己紹介ですが」

「そんなのはいらん。今すぐ飛べ!」

「……はい」


 渾身のギャグも受け入れて貰えず、ひたすらジャンプとフィニッシュを求められた。

 ゴール下からのシュート。走り込んでのジャンプ。遠目から勢いを付けてのダンク。井上監督の指示の元、様々な角度から撮影された。


「もう一回。次は別角度から」

「もう足にきてるんだが」

「つべこべ言わずにやれ!」

「た、体力がねぇんだよ」

「甘えたことを言うな。疲れているのは、みんな一緒だ」

「……く、くそぉ~」

「これを見て勉強するんだから協力しろ」


 ここでくじけては、宮本三次の名が廃る。今日の努力は将来必ず役に立つ。これは未来へ進化する布石なのだ。

 監督がフィニッシュと言ったら、いつでも飛べる状態を保っておかなければいけない。タイミングを間違えば、他人に迷惑をかけるばかりか、仕事の依頼が減る。

 飛べない男は男じゃない。歯を食いしばり、体力が続く限り何度もフィニッシュした。

 かれこれ30回以上は飛び、最後はダンクどころか、這いつくばって息絶えた。

 俺の名は……珍小太郎だっけ?



 ゴール下で粗大ゴミと化し、井上に「邪魔だ。どけ!」とケリを入れられている最中も、女子バスケ部は練習をしていた。

 彼女らに限らず、他の部活連中も必死で努力している。少しでも上手くなるよう練習を重ねている。今は辛くとも、その先にある未来を目指して頑張っている。

 日々の積み重ねが進化のプロセスなのだろう。

 スポーツ系が苦手な克己は、最初から諦めている。その代わり、近々開催される同人サークルイベントの為に漫画を描き貯めている。

 友則に至っては……。


「三次。ダブルドリブルは何回までだ?」

「一回もダメだ」

「相手が襲って来た時、エルボーは許容か?」

「エルボーもソバットもDDTも封印しろ」

「ブレンバスターは?」

「それは最終手段だ」


 ルール無用で生きて来た彼が人間界のルールを覚えている。これぞ進化である。






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