表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本日も学園生活を満喫します  作者: 室町五丁目
2時間目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/35

井上のトラウマ

 その日から、井上の俺に対する意識が変わった。


 憧れというべきか、尊敬というべきか。バスケをやっている者なら誰しも夢見るダンクシュート。海外のプロ選手でもなければ、叶う事のない憧れの境地。バスケバカにしてみたら目が♡になるだろう。

 彼女だけではなかった。

 男子バスケ部の顧問がチョコレートをチラつかせながら「お前は今日からバスケ部な」と強引に勧誘された。ポテチの袋を持った陸上部顧問が「走高跳びをやったらプレゼント」と言ってスカウトされた。何も言わずジュースを差し出し「飲め」と言われたので飲んだら、バレー部決定になった。


 小学生じゃねぇんだ。お菓子類でつられるバカだと思っているのかぁぁーー。



 正直、俺もダンクをしたのは初めてだった。元々が身軽でジャンプ力もあった。小学6年の時、垂直飛びで驚異の63センチを記録して周りをザワつかせた。これは高校3年生の記録に匹敵するという。今は体も大きくなり、さらに飛躍していると思われる。


 以前、友則と秘密基地へ向かっている途中、バトミントンで遊んでいる子たちが空を見上げていた。「何してるんだ?」と尋ねたら、木に羽が引っ掛かって取れないと言う。

 小学低学年のちびっ子たちには手の届かない距離だった。彼女らの体で、この高さの木登りは無理だろう。もし落ちたら大怪我は免れない。

 少女たちは、悲し気な表情で羽を見つめていた。その姿を目の当たりにすると、心の深い部分に恋の花が咲きそうだ。

 こういう時こそ、持って生まれた身体能力を発揮する場面である。

 俺は少女らの頭をいい子してやり、ジャンプで枝にぶら下がった。そこから勢いを付け、逆上がりで木によじ登った。アクロバティックな演出にキャッキャと喜ぶ少女たち。彼女らを()()()で「可愛いな」と思いつつ、羽を投げ返して下りようとした時だった。

 強固に根を張った大木がグラグラ揺れ出した。「地震か」と思って見下ろすと、友則が渾身の力で大木をブン殴っていた。

 細くて不安定な枝の上である。バランスを崩した俺は、背中から地面に叩きつけられ、肺の空気が全部抜けた。


「いってぇー。何すんだよ!」

「あれ、三次。何で空から降って来たんだ?」

「降って来たんじゃねぇ。振り落とされたんだよ!」

「なぜ?」

「……ってか、お前は何をしてんだ」

「木を揺らして取ろうと思ってな」

「俺が登って取ったのを見てただろ」

「拳に気を溜めてたから見てねぇよ」

「お前は孫悟空かっ!」


 その後、少女に心配されながら基地へ向かった……。



 俺自身、特別な訓練はしていない。昔から当たり前のように出来るため、意識などした事がなかった。いわゆる持って生まれた才能というヤツである。だが、他者から見ると凄い事らしい。

 担任やクラスメイトに「その才能を活かせ」と言われたが、俺は団体競技が苦手だ。自分のミスで周りに迷惑がかかるかもしれない。そう考えると下半身に激痛が走る。ならば、個人競技はどうだ。と問われても断る。

 俺の夢は、AV監督兼男優だからだ。

 その後も「やり方を教えろ」だの「どうすれば可能か」だのとしつこく聞かれて辟易した。

 特に井上の張り切り方は常軌を逸していた。


「あんたがいれば、優勝間違いなしよ」

「あまり期待するんじゃねぇよ」

「ダンクが出来る人っていないもの」

「俺一人頑張っても勝てねぇぞ」

「大量得点すればいい」

「チームワークだろ」

「即席にチームワークなぞあるか!」

「まあ、そうだが」

「今日はスリーポイントのコツを教えてやる」

「まだやるのかよ」

「あんたらを優勝させるのが私の役目なんだから」

「なぜ、そんな勝ちに拘るんだよ」

「……」


 学校行事の単なるお遊びである。勝っても負けても今後の生活に支障はない。

 それでも尚、勝ちに拘る理由。それは小学校時代の苦い経験が元になっているらしい。



 子供の頃から負けん気が強く、泣かせた男子は数知れず。喧嘩に一度も負けたことがないという強者だった。

 そんな彼女には1つの悩みがあった。それは身長が平均よりも低く150センチに満たなかった。小学校の6年間は、前倣えではなく、腰に手を当てる役目だったという。現在は少し成長したようだが、それでも前列に居座っている。

 チビに劣等感を持っていた彼女は、「バスケをやると身長が伸びる」という噂を聞いて入部した。


 そしてドツボにハマった。


 小4で楽しさに目覚めて以来、バスケが生活の中心になっていった。

 ただ、相変わらず身長は小さいまま。上級生には、体格も良く岩のような連中がゴロゴロいる。体当たりされて転がり、ドリブルを簡単に奪われ、シュートすら打たせてもらえなかった。

 常人ならここで挫折する所だが、彼女は根性の塊である。人の何十倍もの練習を重ね、バスケ関連の本を読み漁り、ボールと友達になって技術を向上させていった。

 その努力が実り、小5の後半時には上級生よりテクニシャンになり、将来のキャプテン候補として頭角を現した。


 ようやくレギュラーの座を勝ち取った彼女は、主要メンバーとして人生初の試合に出場した。

 ここは是が非でも負けられない場面である。同時に、これまでの努力と実力を試す絶好のチャンスだった。

 一試合ごとに持てる力の全てを出して得点を重ねた。彼女の頑張りがチームメイトにも伝わり、破竹の勢いで勝ち上がっていった。


 そして運命の決勝戦。今までの対戦相手とは違い、パワーもテクニックも段違いに上手い。両者一歩も譲る事なく、白熱した接戦試合をしていたのだが……。

 これまでの疲れなのか、ちょっとした気の緩みなのか。井上の放ったパスがリバウンドされ、それが決勝点になって破れた。

 試合である以上、いつか必ず勝敗が決まる。たまたま彼女のパスが引き金になっただけで、もしかしたら、他の誰かだったかもしれない。相手チームだったかもしれない。ゲームを支配する女神が相手に微笑んだだけである。

 チームメイトは彼女を慰めたが、井上の耳には届かなかった。

 初めての試合、しかも決勝戦という重大な場面で屈辱的な敗北を味わった。自分のミスで仲間に迷惑をかけた。あそこでパスを出さなかったら。もっと試合に集中していたら……。

 色んな思いが交錯し、胸が引き裂かれる苦悩だったのだろう。決して弱音を吐かない彼女が人前で大粒の涙を流し、血が出るまで唇を噛みしめていたという。

 負けは人生の敗北者になる。彼女の心の中に強固な決意が芽生えた。


「もう二度と負けない」と。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ