第7-4話 凄腕交渉人、テンカク迷宮に挑戦する。
ダイサーガ南部に広がる繁華街、ミナミ。
デンデンブラックマーケットを更に南に下り、ディープ・ダイサーガの極みと呼ばれるごちゃごちゃとした下町。
通称”ニューワールド”に目指す”テンカク迷宮”はあった。
「ふわぁ~、おっきい塔……!」
感嘆の声を上げるミアの前にそびえるのは、高さ100メートル以上ある塔。
最上階は展望台となっており、魔法エレベーターで移動できるのだが、食堂や売店があるのは3階まで。
それより上の階層は、すべて立ち入り禁止の古代迷宮だ。
ていうか古代迷宮を商業施設と観光施設に改造するダイサーカ人ってすげぇな……。
「えへへ、あとで展望台登ってみたいね」
「ふふ、目的のアイテムを手に入れても、明日いっぱいは時間があるだろう。 観光も楽しんでいくか!」
東部に行った後は大変かもしれないからな。
英気を養う事も重要だろう。
「う~ん、美味しそうな屋台もいっぱい! おお、なんだあのとげとげした魚?の看板わ……」
「……ん~? あそこのお店……おねえちゃんが入り口の椅子に座っているだけで、看板も出てないね」
「ねえアレン、あそこって何のお店なの?」
漂う美味しいニオイに、ミアも目移りしまくりのようだが……。
い、いかん! あの店は……いわゆる”置屋”というヤツである……ううっ! どうやって説明すればいいのか……キラキラとした無垢なミアの瞳がまぶしい……!
「え、えーとな……女の子に飴をあげて、”自由恋愛”を楽しむお店だ」
「!! 何それステキ! ミアも行ってみたい! 恋愛じゃなくて女の子と遊ぶために!」
「お、おぅ……残念だがミア、あの店は男の子専用なんだ」
「ほ、ほら! 時間無いから迷宮攻略始めるぞ!」
「がうがう(苦しい言い訳だわん)」
俺は、好奇心満載なミアの追及をかわすべく、強引に迷宮探索を開始するのだった。
なんのことか分からなかった奴は、自己責任で調べてみてくれ。
*** ***
いつも仕事で行っている、ある意味アトラクションな”公営ダンジョン”と違い、街中にあるとはいえ
本物の”迷宮”である。
それなりに覚悟を持って足を踏み入れたのだが……。
「! 右奥の通路から”サラマンダー”……数は2体!」
「おっけー! ”アイシクル・ランス”!」
ザシュッ!
俺の”先読みスキル”で検知したAランクモンスターをミアの氷雪魔法の槍が貫き、凍らせると粉々に打ち砕く!
「今度は上だ! タイニーフェザー、1体! ブレスで仕掛けて来るぞ……先制攻撃だ!」
ウオオオオンン!
ゴオッ!
ミアの連続詠唱が間に合わないタイミングで次のモンスターが来たが、俺の指示に呼応したポチ侯爵の炎ブレスが一瞬で焼き尽くす。
「ふう、今んとこほかのモンスターの気配は無しだ……お疲れ、ミア、ポチ侯爵」
「えへへ、”ないすこんびねーしょん”だね、アレン、ポチちゃん!」
「ポ、ポチちゃんとな……(ぽっ)!」
もう敵の気配はない……息を吐いて警戒態勢を解く。
鮮やかな戦闘劇に、ミアもゴキゲンだ。
それにポチ侯爵……よりフランクな呼び名になったが、なぜ喜んでいるんだ……。
それにしても……俺たちは強くなっている……俺の”先読みスキル”が、敵の数、攻撃行動の種類まで読めるようになったこと。
ミアの魔力も増しており、食う飯の量に応じて継戦能力が上がってきている事。
なにより、ついつい忘れてしまうがSSランクモンスター、ヘルハウンドの存在だ。
その攻撃力、防御力とも通常のモンスターとは隔絶しており、頼りになるペットである。
「はい、頑張ってくれたポチちゃんにはジャーキーだよ!」
「わうわうん♪」
……地獄の門番があんなに手懐けられてていいんだろうか?
「はふはふ……そういえば娘ミアよ……そなたの左腕にあるその”腕輪”、どこで手に入れたのだわん?」
ジャーキーを美味しそうに頬張るポチ侯爵が、ふとミアの腕輪の事を気に掛ける。
そうか、コイツはミアが”腕輪”で魔法を使う所を初めて見るのか。
「ん? これ? 元はアレンが物々交換で手に入れたものだけど、以前訪れたシーマ神殿で占ってもらったら、いきなりミアが装備できるようになったんだよ」
「”マニュアル”によると、ごはんエネルギーを魔力に変換する力があるんだって! 凄いでしょ!」
「それに、アレンやミアのスキルもどんどん進化してるんだよ!」
「ふうむ……そうなると……ムムムだわん」
ミアはふんす! と得意げに自慢しているが、ポチ侯爵には気になる点があるようだ。
しきりに観察している。
「どうしたんだポチ侯爵? この腕輪に心当たりがあるのか?」
「俺たちも色々な場所で鑑定してもらったんだが、結局良く分かっていないんだ」
「……我が以前北方魔王軍の先鋒を務めていた時だが……これに似た意匠の腕輪を見たことがあってな……効果は少し違うがわん」
「所有者とパーティのスキルを底上げするという効果はあったわん」
「人間界にはないはずの、魔界のアイテムの一種……だがそれが人間界の物々交換で手に入るとは考えにくいのだわん」
魔界のアイテム……だと?
魔界とは、人間の世界とは別にある、魔族が住むと言われる世界だが……そんなものをただのおっさん商人が持っている事はさすがに考えにくいか?
ただ、伝説の魔獣と言われるヘルハウンドが言う事だからな……どこかで気に留めていてもいいかもしれない。
*** ***
数時間後、俺たちは迷宮の最上階に到達し、迷宮の守護者を倒したところだ。
正直あまり苦戦しなかった。
目の前には、重厚な装飾が施された宝箱がある。
……たまに、この宝箱の方が美術品的な価値があるのではと思うが、迷宮から回収した宝箱を扱っている業者を見たことは無い。
「ふむ……ここに目的のマジックアイテムが入っていることに間違いはないな……古代文字で書いてあるわん」
やけに親切だ……俺は意を決し、宝箱を開ける……そこに入っていたのは……。
長さ70センチくらいの銀色に輝く棒状のアイテム。
ミスリル銀で出来ていると思われるそれは、手前部分が棒になっており、手で持てるようになっている。
先端は薄く成形されたミスリル板がつづら折りに成形され、逆ハの字に広がっている。
「……”ハリセン”だな」
「……”ハリセン”にみえるね」
「……”ハリセン”だわん」
ふたりと一匹の感想が一致した。
「「「…………」」」
いくらダイサーガとはいえ、古代のマジックアイテムまでツッコミ待ちとか、聞いてねぇぞ!
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