第7-5話 凄腕交渉人、粉物を満喫する
さあ!
俺たちの目の前に広がるのはミナミの中心街たるニューワールドの誇るグルメエリア!
東部に行く前に、ダイサーガグルメ、制覇してやるぜ!
「お~! 右から左まで全部食べるよ」
「がうがう!」
*** ***
伝説の転移道具は”ハリセン”だった!
その衝撃の事実に驚愕した俺たちは、マジックアイテムの”マニュアル”をチェックしたり、ブラックマーケットの鑑定屋にチェックさせたり、ポチ侯爵の知識で確認したりしたが、まぎれもなく本物だった。
これで行きたい場所をイメージし、パーティメンバーの頭をはたくと転移するらしいのだが……ツッコミ文化が息づくダイサーガとはいえ、太古の昔からそうだったのかよ。
……ちなみに、迷宮最上階最奥の扉を開けたらそこはテンカク迷宮の展望台だった。
いきなり出てきたガチ装備の俺たちは、観光客の奇異の視線を浴びて恥ずかしかったぜ……ちなみに帰りは魔法エレベーターで一瞬だった。
なにかどっと疲れた俺たちは、出発を前にニューワールドのグルメエリアを完全制覇することにしたのである。
*** ***
しゅんしゅん……
屋台のカウンターの向こうでは、大きな鍋に黄金色に輝くコーン油が熱されている。
すっ
じゅわわわわっ!
職人が俺たちの注文したクシカーツ……牛肉、鶏肉、小鳥の卵などの肉類、レンコン、玉ねぎ、シイタケなどの野菜類をパン粉で包んだ串カツ……を両手の指の間に掴むと、手際よく鍋のふちにセットし、揚げてゆく。
そのたびに、小気味よい食材が揚がっていく音が響く。
「ごくり……耳が美味しい音って、こういうことだよね~」
ミアはうっとりとした表情をしており、垂れ下がった大きな耳が、ぴくぴくと動いている。
「はっ! 嬢ちゃんいい顔するやんけ! これはおまけやで!」
ことり……
あまりに嬉しそうな顔をするミアに、屋台の大将も笑顔になると、俺たちの前に小皿を置いてくれる。
串カツが上がるまでの時間、これを食べてくれという心づくしだ。
「これは……くんくん……牛スジ!? 甘辛いたれでじっくりと煮込んであるね……では、失礼して……」
ミアがゆっくりとフォークに刺した牛スジを小さな口に運ぶ。
「……ぱくっ」
「!! 濃厚な味噌とみりんの甘味がとろとろになった牛スジに絡んで……絶品っっ!」
「ああ、この刻みネギが口の中をしつこくなり過ぎないように抑えてくれる……最高のコンビネーション攻撃ですっ!」
「そうやろそうやろ! いやー、そないに美味そうに食ってくれるなんて、料理人冥利に尽きるわー」
いまにもとろけそうな顔で牛スジをほおばるミアに、大将もニッコニコだ。
……ミアのメシ顔だけで、ビールがイケるな……俺も負けじと牛スジとビールを進めるのだった。
「ほい、ご注文の串セットおまち!」
「ふおおおおお!?」
俺たちの目の前に、待ちに待った様々な串カツが並ぶ。
「えへへ、それじゃミアはあえて玉ねぎから……」
「それじゃ、俺は鶏モモから……」
「ミア、ソースの二度漬けは禁止だぞ」
「ラジャーだよ、アレン!」
さくっ……
カツの先端をソースに浸し、一口かじった瞬間、軽快な咀嚼音と共にコーン油の甘味と、鶏モモのさっぱりした肉汁、甘辛いソースが合わさった、暴力的なうまみが口の中を襲う。
ぐびっ
その塊をビールで一気に流し込む。
ぷはぁ……胃の中すべてがうま味に染まったみたいだぜ……
思わず満足の吐息を漏らす俺。
「ううっ……さくさく……中はしっとり……玉ねぎの甘味が……最高だよぉ」
隣ではミアがとろけている。
「……ん~、いつも思うんだけど、アレンのお酒も美味しそうだよね~。 ミアも飲んでみたい」
「ふっ……成人するまでお預けだな」
「これは大人の味だぜ?」
「むー、アレンだけするい!」
むくれるミアだが、これだけメシ好きだと成人したときに酒豪になるかもしれん……。
だが、愛娘と杯を傾けるというのも、絶対いいモノである!
俺はその時を楽しみにするのだった。
「がうがうがうがう!!(なんだねこのけしからん食べ物はわん! 人間族恐るべきだわん!)」
その後も俺たちは、深夜までダイサーガグルメを満喫するのだった。
*** ***
「よし、みんな準備できたか!」
「オッケーだよ!」
「わんわん!」
翌朝、俺たちはダイサーガ支部の連中に見送られながら、転移の準備を整えていた。
東部には大きな街が少ない代わりに、太古から残る迷宮が数多くある。
そこで色々な伝説級のマジックアイテムを集めながら、稼いだ時間で治安局に対する対抗策を整えるというのが基本方針となる。
東部にも数は少ないながらもダンジョンギルドがあり、魔法通信も通じているので、ダイサーガ支部とも連絡を取り合っていく予定だ。
各種アイテムや食材の補給もばっちりだ。
そろそろ出発するとしようか。
「ほな、アレンさんたち、きばってや!」
「ああ!」
俺は受付の激励に返事を返すと、”転移のハリセン”を握りしめる。
……ふと、俺の脳裏に”コレ”がハズレアイテムだったらどうしようという不安が生まれる。
何も起きなかったらすげぇ恥ずかしいよなこれ……だが、今さらやめることは許されない。
俺は”転移のハリセン”を、俺たちふたりと一匹の頭めざし、振り下ろした。
すぱーん
すぱーん
すぱーん
パアアアッ!
3つの軽快な音が響き、転移の光が発動する。
さあ、次の目的地は最北の地、ノルドカイドである!




