悪運の連鎖
少し寝た後、喫茶店へ向かった。さっき喫茶店へ行ったのにもう一度向かうのはどうかと思うが、金を大量に渡したオノが悪い。少女と幼女を野に放てば、食べまくり遊びまくりは常識的に考えて実行されることだ。
「トシナ。にんむのおさらいだ」
「いきなり何だ」
トシナはコーヒーを啜りながら呟いた。
「そろそろにんむに戻るべきだとおもう」
「今戻ろうと思ってたんだ」
「せっとくりょくない」
「お前もお前だ」
ひとはの前には、小さなクッキーが2枚。トシナのコーヒーについてきたものだ。甘い物は苦手なので譲ってみたら、ウッキウキで貰っていた。ひとはのアメ好きっぷりから、てっきりお菓子はアメしか食べないと思っていたが、クッキーもパンケーキも大好きらしい。
「オノはいっていた。かみのとくちょうをつかめ、と」
クッキーをかじる。小さなクッキーを両手で持つ姿は、まるで子リスのようだった。
「こんかいはとてもかんたん。ついにぬるま湯のにんむになったか。トシナがボイコットしてもヨユーなくらいだから」
「カフェに行くくらい、ビジネスではよくあることだ。少なくとも上層ではな。使わなければもったいないだろ」
「泥水につかうならアメをくれ」
「泥水じゃねぇ、コーヒーだ」
「アメをくれ。メーデーメーデーメーデー」
「暴れるな」
トシナに飛びかからん勢いで、ひとははのし掛かってくる。逃れようと椅子の上で体を動かす。……手に持ったものが何かも忘れ。
「きゃっ!」
「ぐわっ?」
声が二重に聞こえてきた。
見ると、少女が一人、ガタイの良い男が一人。トシナと一直線に並ぶような位置で立っていた。そこでようやく、手に持ったものを思い出した。コーヒーだ。しかも、飲み始めたばかりの。
少女の袖には、茶色い染みがついていた。
(……やっちまった)
少女に謝ろうとしたとき、男が怒鳴り声を上げた。
「オイ、何してくれんだ、テメェ!」
「い、いえ、この方がぶつかってこられて、私もよろけまして……」
「言い訳してんじゃねぇよ! 今すぐ金を払え!」
「……」
話が変だ。
どうやら、トシナが少女にぶつかり、更に少女は男にぶつかり。お互いにコーヒーを零し合うという最悪の状況になってしまったらしい。
(お前のせいだぞ、ひとは)
トシナは横目でひとはを睨みつけた。当の本人はきょとんとしている。
ともあれ、ひとはが童女である以上、責任はトシナが取るべきだろう。男に絡まれている少女を放置するわけにはいかない。
トシナは少女と男の間に割って入った。
「その子の言う通りだ。俺が悪い。責任を取ろう」
「あ、あなたは……」
少女がトシナを見る。白いブラウスに青いネクタイ。チェックのスカート。どこかの学園の制服だ。
「あぁ? テメェか?」
「謝って済む話じゃないのは分かってるが、クリーニング代は払う。これで許してくれないか」
札を一枚出す。男は上層の雰囲気に似合わぬガンをつけながら札をぶんどった。
「い、いけませんわ! 私も不注意でしたもの、払うなら半額、私が出しますわ……」
「計算が面倒だ」
「いいぜ、折半だろう?」
男は何かを思いついたのか、にやついた笑みを浮かべる。
「二人でコーヒー注いでくれよ。ご主人様ってさぁ。それならクリーニング代もいらねぇよ」
「そんなはしたないっ! あなたには節度というものがありませんの?」
「だったらコーヒー零さなきゃいいだろ、なぁ?」
「くっ……!」
少女が唇を噛む。トシナは拳を握りしめた。騒ぎは起こしたくなかったが、これは男の方に非がある。明らかに騒ぎを大きくしている。




