アメンボとアメとズボラな作戦(下)
トシナもひとはほどではないが、驚愕と共に由希を見る。気配すら感じなかった。
「いつの間に来た」
「さっきからずっとですわ」
由希は今日も制服を着ていた。白いブラウスに、紺色のネクタイが眩しい。
「何してんだ、午前中から。学校だろ」
「フィールドワークをしてますの」
「サボリか」
「失礼なっ。立派な研究、公園の利用者推移を調べてますの。しかし」
そこで由希は言葉を止めた。
「人が通らない時間は、調べようもないですわね」
「……」
狡猾すぎるお嬢だ。
「それより、お話の続きですけれど。ご友人に会いたいと仰っていましたね」
「あ、あぁ」
気迫に押され、首肯していた。
「古い……友人だったんだ」
「しばらくお会いしておらず、どう会えばいいのか分からないのですわね。私も分かります」
由希はうんうんと頷く。
「私の友達に、亜紀ちゃんという子がいるんですが。今は行方不明ですが、お守りとなって力を貸してくれているのです」
「どんな状況だ」
力を貸すとは。トシナたちのようでも、呪符を利用した呪術や、神の力を利用する神術でもあるまいし。
「作戦に行く直前に残してくれていた人形です。このおかげで、この地球上にいるのは分かるのです。心もまだ通じ合っています。まだ!」
「……すごい自信だ」
未だこの由希という少女は未知数だが、何をどうすれば、こんな自信満々な女学生が出来上がるのだろう。
「だから、演劇戦法でもなんでもやってみては? 最悪捕まるだけで済むと思いますわ」
「捕まることを最悪というのか、お前は」
トシナは溜息をついた。学生、お嬢様、破天荒という要素を鑑みてもあまりに直球すぎる。まだひとはの方が冷静と言えるくらいだ。毒舌を浴びせてくれれば収まるかもしれないが、ひとははトシナの足に顔をくっつけたまま離れない。
「立ち話もなんですから、あちらでお話しませんか?」
「やだ。お前とはなすことはない」
ひとはが足にくっついたままイヤイヤをするが、トシナとしては少し話したかった。ひとは以外に話して、心を整理したい。
「ひとは、すまん。少し離れててもいいから、話させてくれないか」
言うと、ひとはは物凄いしかめっ面をした。ジゴクの底から響くような声で。
「……それくらいなら、ひとはははなれない。あいつをかんしする」
「……」
ひとはは、由希がどんな人間に見えているのだろう。
由希に連れて来られたのは、公園だった。
神殿の前という立地もあり、とても広い公園だ。家族連れ、学生、スポーツマン問わず利用し、夕方や休日には露店も出る。
ベンチに座ると、由希が切り出した。
「その方、どんな人だったですか?」
「鈍くて、得意科目のない奴だった」
「ドジかわいい、って奴ですわね」
「おまえ、あたらしいことばをつくるな」
ひとはが睨みを効かせるが、由希にはどこ吹く風どころか逆効果だった。ほほえましく感じたらしく、手を振っている。
「ごめんなさい、お嬢さん。私、造語が好きなのよ」
「ぐるるるるるる」
唸るひとはを制し、トシナは続ける。
「あいつの優しさは人一倍だった」
「それじゃ、トシナさんにも優しくして下さったんですね」
「あぁ。俺が……遠くに行くときも、ずっと心配してた。自分が行くわけじゃないのにな」
苦笑が洩れる。
トシナは桂花のために生贄を引き受けた。
だから、何も心配しないで良かったのに。




