忌々しい蒼穹に、朱の染めを
肉人間が、メリケンサックによって弾ける。その瞬間を、魔力玉越しにコウコは見ていた。
「くそっ、肉ガミが倒されたか……やはり「戦巫女」は出しゃばってくる……神殿め、我らの計画を感知したのか!?」
通信珠から、落ち着いた女性の声が聞こえてくる。
「コウコ、焦るな。我らの隠蔽は完璧だ。現に、私の行動も感付かれてはいない、だろう?」
「それもそうだ。「戦巫女」がどれだけいようと、我らの敵ではない。全てを内包する、それが「ミーティア」の力だからだ!」
「後は「器」を取り込めば、それで大体のことはすむ。気をつけておけ、コウコよ」
「あぁ。「器」さえ満ちれば……」
コウコは、「空」を見上げた。憎たらしいほど青い、青い空。
「……それで、全てが包まれる」
鬱陶しく排除するべき蒼穹を、元の素晴らしい「色」に染めるために。
◆
「慈円さん。新しい薬をお持ちしました」
「いつもありがとうね、そこに置いといてくれよ」
小箱を持ってきた神殿の職員に、慈円は答える。
「いやぁ、薬包紙越しに見ても素敵な赤色だね。着色料はどのくらい使っているんだい?」
「私は配達員ですので……薬のことには、慈円様の方が詳しいのでは?」
「まぁ、赤い薬は珍しいだけで、ないことはないけどね。それにしても、神々しさすら感じる赤じゃないかい?」
「白い薬と合わせて、紅白ー、とか? 薬にめでたいも何もないですけど」
「体を回復させてくれるから、目出度い物ではあるんだけどね」
「私はニガイからイヤっちゃイヤですけど。お医者様には、お医者様の考えがあるんですね……」
職員は、慈円の机を見た。様々な資料がファイルに入れられ並んでいる。その量は机をはみ出し、3つのキャビネットにまで及んでいた。彼は町の外れに自分の診療所を持っているが、神殿でも働いた方が給料が良いということでここにいる。だいたい1年くらい前からだ。
こんなにファイルを持ち込むなんて、仕事熱心だなぁ、と職員は感心する。
机の上には、写真立てがあった。
手元の写真には、3人の童女が。6歳くらい。3人で並んで撮った写真である。
灰色の髪の無愛想な少女。三つ編みの、少し弱気そうな少女。そして……。
「この女の子達、慈円さんのご親戚ですか?」
「ん? まぁそんなところだね。忘れたくないから、ここに飾ってるんだ。いつでも見れるようにしておけば、忘れようにもできないだろう?」
いつも飄々としている慈円にしては、珍しい態度だ。親戚の娘さん達に、こんな大きな愛情を抱いているなんて。
職場では怪しさ満点のお医者様だけれど、この様子じゃプライベートでは優しい叔父さんに違いない。写真の日付は10年ほど前。この子達はすっかり大きくなっているだろうが、写真を撮るほどの愛されようだ、きっと今も懐かれているのだろう。
少し感動しながら、配達員は医務室を後にした。
「さて。今日も怪しいお医者様と行こうか」
慈円は写真立てをちらりと見た。
「……僕は何も知らない。そうだね、桂花「ちゃん」」
口の端が鋭く上がったのは、誰も知らない。




