その後のこと
公爵令嬢に冤罪をかけた男爵令嬢は、死ぬことは許されなかった。
男爵家は取り潰しとなり、一族や平民の生母が怨嗟を吐きながら処刑されるのを見た後、両足の腱を切られた上で鉱山に送られた。
元凶なのにたった一人生き残り、強制労働を担う男たちの慰み者として生きていくことになる。
宰相の子息は勘当され、無一文で放逐された。
父が何やら首を捻っていた数日後、宰相と王妃の姦通が告発された。
宰相も王妃も罪を否認したが、該当の日にちの監視人の記録がなぜか見当たらない。
そして、告発者は王妃の元侍女から託されたという、二人の交わした手紙や当時の日記を持っていた。
結局、宰相は王家への叛意の罪により、三親等の親族を巻き込んで毒杯を賜った。
家門は子爵まで爵位を落とし、告発者である遠縁の分家の者が当主として立つことが決まった。
王妃は最後まで涙ながらに釈明していたが、アリアドネへの自死の教唆もある。
責任を取る形で、縁者に連座の刑を問わないことを条件として、同じく毒杯を賜ることとなった。
父が、どこからどこまで手を回したのかは、ドミニクも知らない。
アリアドネに掴みかかろうとした伯爵令息は、貴族籍を剥奪され、過酷な北の砦に下っ端として派遣された。
宰相の一件を案じたのか、騎士団長はすぐに団長の地位を返上し、面会を申し出てきた。
長時間の交渉の末、領地の半分と莫大な慰謝料をもぎ取った父は、それらすべてをアリアドネ個人の資産とした。
隣国の皇太子は、話し合いの直後にいったん自国に戻り、弟皇子を地下牢にぶち込んでから屋敷を訪ねてきた。
数々の譲歩と条件を提示されたと、やり手の父がぐったりしていたので、やはり大国の皇太子とは凄まじいのだなと思ったものだ。
継承権が低いとはいえ血を分けた弟を、即座に切り捨てる冷静さと即断力は格が違う。
おそらく、弟皇子はすでに処されていることだろう。
そして、元婚約者の王子。
母である王妃が裁かれる最中も、往生際悪くアリアドネとの復縁を望み、あらゆる手段で接触を計っていた。
あまりの執着ぶりに、陛下は早々に彼を幽閉していたが、それでも収まらない。
結果、王族として裁く価値なしと判断した陛下は、彼を不義の子であることとし、一人息子を手放した。
ただの罪人として、元王子は首を落とされた。
新しい宰相が選出され、陛下は第二王妃を娶るため候補者の選定が始まり、貴族家の派閥も大きく形を変えた。
筆頭公爵家である当家の力は増し、今や王家も我が家には強くは出られない。
王家が公に王子の非を認めたこともあり、陛下の今後の治世は容易くはないだろう。
半年ほどの時間をかけて、アリアドネへの冤罪から始まった一件は、ひとまずの終息を迎えた。
アリアドネはその間も、以前と変わらず、ドミニクと共にいる。
「わたくし、考えていたのだけれど」
ふふ、と微笑むアリアドネの表情は柔らかい。
関係者たちの処罰にもさほどの興味を見せなかった彼女だが、近頃は考え込むことが多かった。
何にも執着せず頓着せず、何をも惜しまないアリアドネを、ドミニクは以前にも増してあれこれと構い倒している。
いわゆる〝物語〟が終わった今なら、地に足をつけて生きられるのではと、期待を持って。
どんなこと? と聞き返しながらも、持っているカップに入った紅茶の表面が小刻みに揺れた。
ゆっくりとカップを下ろし、努めて穏やかに笑って見せる。
────僕のどれか一つが、アリーの理由になればいいのに。
余生でも、物語でも、ゲームでもいい。
ただ、彼女はここにあって、それが嬉しいと伝えたかった。
瑕疵ある出戻り令嬢だなんて、思っているのはアリアドネだけだ。
やり手の父も、社交界の華と呼ばれる母も、もちろんドミニクだって、そんなことは思ったこともない。
養子であるドミニクは後継者だが、アリアドネが望むならいつでも返上する。元々彼女のものだ。
彼女の補佐として仕えるもよし、分家に戻って派閥のまとめ役をするもよし。
もちろん、彼女がドミニクを補佐したいと思ってくれるなら、それでもいい。決定権はいつもアリアドネにある。
何度伝えても、どうにもうまく伝わっている気がしないから、こんなに不安なのかもしれない。
冷えた指先をすり合わせつつ、ドミニクは妹の言葉を待った。
「わたくしは公爵なんて柄ではないし、当主はドニーが適任だと思うの」
「……そう」
「でも、あのね……」
ほんのり、苦いような、困ったような笑み。
初めて見る類の表情に目を見張ると、アリアドネはさらに眉を下げた。




