彼女の止まり木
「────わたくし、あなたの一番強い刃になりたいの」
言われた言葉を咀嚼するまで、ドミニクにはしばしの間が必要だった。
やいば。刃。一番の。つまり、いざという時にドミニクが奮う最強の矛でありたいという意味だろうか。
疑問と混乱に口を噤むドミニクに、どこかさっぱりとアリアドネが笑う。
幼い頃のように、晴れ晴れと明るく、輝かしく。
「ずっと、終わり方を考えて生きていたの。いつ終わってもいいけど、どうせなら終わりもいい使い方をしたくて」
「ああ。……知ってる」
有効な人生の終わり方なんて、幼子が考えることじゃない。
けれど、アリアドネはずっとずっと前から、ずっとずっとそうだった。
まるで、自分自身すらも駒の一つみたいに。
「でも、ドニーが、お願いって言うから。共にあってほしいって言うから」
少し照れくさそうに、白い頬に薄紅が差す。
「わたくしにしかできない方法で、ドニーの一番の味方であるにはどうしたらいいのかしらって、ずっと考えていたの。わたくしの意味は、わたくしが決めなければいけないのよね」
ぽつ、ぽつ、考えをまとめるように途切れながらも、アリアドネが心を明かす。
これまで、飄々とふわふわと流れていた彼女とは、どこか違う。
まっすぐにこちらを見つめるアリアドネの淡紫の瞳に、魅入られる。
「だからね、陛下にプロポーズしようと思うの」
「待ってどうしてそうなった!?」
久方ぶりに、ものすごい腹から大声を出した。
学園に入学する前までは、割とよくあったのだが。そう考えると、ここ数年は彼女なりに気を遣っていたのかもしれない。
いや、今はそんなことはいい。
現実逃避しようとする思考をなんとか立て直し、冷や汗をかきながらドミニクは妹を見つめた。
ころころ笑う顔は、なんだか以前よりも溌剌としている気がする。
「公爵家当主を支えるには、権力が必要だわ。第二王妃で、後継を産めたら最強でしょう?」
「最強だけど……え、なんで? ほんとになんで?」
「ふふ。なんだか子供の時みたいね」
世の中のほとんどを知らず、たいしたものも背負っていなかったあの頃。
確かにドミニクは、無邪気で素直な子供だったと思う。
与えられるものを享受して、妹の破天荒さに振り回されて、毎日が忙しく楽しかった。
でも、アリアドネは。この子は、あの頃からきっと、ずっと大人だった。
そこまで考えて、ふと、思い当たる。
「……陛下くらい年上じゃないと、噛み合わないってことか?」
「ドニーじゃないなら誰でも同じよ。単に、最強の刃になるために、最も近道で適した手段を選びたいだけ」
「父様が泣くぞ」
「仕方ないわ。誰を選んでも泣くのだもの」
「確かに……」
すでに王妃教育を施されるほど、王家に深く関わって生きてきたアリアドネは、簡単には縁談を結べない。
もちろん国外になど嫁げないし、派閥関係などを考えた場合、ドミニク以外の候補はほぼいない。
両親は、あわよくば二人を婚姻させたいようだが、ドミニクもアリアドネもさりげなく躱してきた。
だから、王家に子がいない今、陛下かドミニクの二択ではある。
ああ、本当に。この妹は、いつだって突拍子がなく、破天荒だ。
「そこで僕を選ばないのが、アリーらしいよ……」
「あら、ドニー。わたくしは忘れていないわよ」
ぎら、と、アリアドネの瞳に冷たい影が差す。
思わずひやりと背筋を伸ばす兄にも構わず、彼女はゆったりとした手つきで喉を潤した。
「彼らが断じたのよ。わたくしは悪役で、周りの敵だって。わたくしには虫の羽音だったけれど、あなたにとって許容し難い評価だったことは理解しているわ。あなたが今も腹を立てていることも」
「……そうだな」
「だからわたくしは、あなたの心をほんの欠片でも奪う彼らを死ぬまで許さないし、憎んでいるのよ。彼らに類するすべてが敵だわ」
「…………」
まだ終わっていない。
うっそりと笑む唇に、否応なく視線が惹きつけられる。




