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最強の兄妹


「陰口ばかりの羽虫には、覿面だと思わない? 必死に貶めた相手に、頭を垂れるがいいわ」


くすくすと笑う声は穏やかで、木漏れ日の合間で擦れる葉のように耳に心地よい。内容はなかなかだけれど。


「悪役で結構よ。聖人君子になんてなれないし、許すばかりが善とは思わないもの。難を免れたと思っているお間抜けさんたちは、結構たくさんいるのよねえ」


冷徹な美女の棘が、純粋な憎悪を纏って存在している。

恐ろしいのに目が離せないのは、彼女から発せられる覇気と生気が、かつてないほどの熱量だから。


「やるなら徹底的に、だな」


「ふふ。だって、ねえ。ドニーを傷つけた彼らだって、いったい何を償ったというの? たかが罰くらいで収まるなら、憎悪とは呼ばないわ」


「そうだな。傷ついたのは、アリーだけど」


「それは違うわ、ドニー。わたくしはあなたを傷つけた側よ。ごめんなさいね」


それは、毒をあおったことだろうか。終わりばかりを目指したことだろうか。

でも、ドミニクは理由に心底納得しているし、彼女にできた最大限の復讐として悪くない手だったとも思っている。


「わたくしがここにないと、気づかせてしまっていたのでしょう」


「そ、……れは」


「いいのよ。気づくのが遅くなってごめんなさい。ちゃんと擬態できていたつもりだったの」


それは、だって。思わず口ごもる。

ドミニクは、幼い頃からひたすら一心に、アリアドネばかりを見ていたから。


常に一緒にいられる立場ではなかったが、両親も危うい子であることは知っていた。

卑屈でも向こう見ずでもない、ただ純粋に刹那的に生きるアリアドネを、家族たちは心配しながらも愛してきた。

そういう彼女だったから、と言い換えてもいい。


「ちっとも痛くなんかないのよ。でも、あなたはわたくしのために傷つくし、憤るのだわ」


「……」


「ドニーが何かを頼むなんて、初めてだったの。いつも、わたくしの我儘を聞いてくれるばかりで。でも、あれはちゃんとドニーの我儘だった」


嬉しかったのだと、じんわり滲むように綻ぶ笑みが伝える。


「あなたの我儘のためなら、わたくしは続いていきたいと思うみたい」


ここにあってくれと、乞うてよかったのか。どうしようもない不安を、伝えてもよかったのか。

なぜだろう。いつも、どんなことも一緒にやってきたはずなのに、心底に燻る不安だけは、共有してこなかった。


たぶん、お互いに。


「楽しみね? ドニー。あなたとわたくしならば、すべてを謀ることも、きっと遂げられるわね」


ぽかんと口を開けたドミニクに、アリアドネが声をあげて笑う。


幼い頃のように明るい笑顔を見ていたら、何だか、無性に堪らない心地になった。

手の届かない場所で好き勝手に揺蕩っていた彼女が、自分の意思で生き方を考えたのだ。


終わり方じゃない。終わるための道順じゃない。

自分の意思で生きて、力を持ちたいと願う。もしもの時も、ここにあると決めたのだ。


アリアドネ自身を排除しない将来を、語っている。

この瞬間を、どれほど、どれほど、希っていたことか。焦がれるほどに。


────変わる理由に、僕がなれたのか。


ぶわっと内で溢れた安堵が呼吸を圧迫して、息苦しさに咳払いをすると、目尻から雫が落ちた。

次々と零れて止まらず、でも眩しい笑みを見つめていたくて、ドミニクは瞬きで水滴を散らす。


ああ、そうだね。型に嵌らないきみとならば、どこへだっていけるだろう。

愛しい唯一の絆を生涯、死ぬまで結び続けて。


「息吹を、ありがとう。お兄様」


「……っ、はは」


いいよ、しょうがない。妹に振り回されるのなんて、昔から慣れている。

一筋縄ではいかないだろう父の説得も、嘆くだろう母へのフォローも、不敬甚だしいだろう激動の挑戦も、やってやろうではないか。


でも、知っておいて。


「アリーの最強の矛は、僕も譲る気ないよ」


たとえ陛下が相手でも、他の誰でも。

その時がもし訪れて、この子を闇に連れ去ろうとする何かが現れても、何度でもこの兄が引き戻す。


アリアドネの居場所は、ここだ。ドミニクの特別。心の半分。


強い眼差しを向けると、挑戦的に笑い返す妹の淡紫から、はらりと光が舞った。










本編は以上となります。

構想が固まったら、第二章や番外編を書けたらいいなと思っています。

お粗末様でございましたm(*_ _)m

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