報復したい兄は、共闘を望む
達観し、すべてに無頓着な彼女に『彼らをどうしたい』と聞くのは、得策ではないとドミニクは考える。
興味がないのだから、たとえ彼らが無罪放免になったとて、気にかけることすらないだろう。
アリアドネはただ、瑕疵ある状況で家に戻って来てしまった現状だけを憂いている。
自分の存在がドミニクの、ひいては公爵家の重荷になるから厭うている。
言葉の節々から、そんな本音が透けていた。
「アリー、お願いがあるんだが」
「あなたの願いなら、何でも」
躊躇いのない妹の返事に、ドミニクは眉を下げて笑う。
言質を取られまいと振る舞うのが、高位貴族の令嬢だ。
だというのに、アリアドネはきっとドミニクが相手ならば、本当に何だって受け入れてくれる。
何にも執着しない彼女が、ふと差し出してくれる信頼が、昔から宝物だった。
「僕は、あいつらを許さない。罪と咎を背負わせなければ、収まりそうにないんだ」
「そう……」
「許さない僕のために、きみも共にあってほしい」
何かを考えるように伏せられた長いまつ毛の煌めきを見つめながら、ドミニクは妹の言葉を待った。
そこまでしなくても、とか、あなたの負荷になる、とか、たぶん彼女は言わない。確信がある。
ドミニクがこう思った。こうしたい。ならば、絶対に手を貸してくれる。
妹は、アリアドネは、ドミニクを尊重してくれる。
同じだけの信頼で応えるために、ドミニクはここにあるのだ。
ふ、と空気が揺れる。微笑みは、いつも通りの穏やかさを含んでいた。
「悲劇が最適かしら。ヒロインはわたくしね」
思わず笑みこぼれた。そう、きみはいつもそうだ。
前向きで、みんなの想像の上をいく。だから、惹きつけられてやまない。
「ああ。きみが主演だ」
さらに五日の後、アリアドネの体調がいくらか戻った頃に、一家揃って登城した。
陛下、王妃、王子、宰相子息、騎士団長子息、男爵令嬢、その家門の当主夫妻。
隣国の皇子は、国同士の関係にも影響を及ぼす可能性があるため、本人と急遽招かれた皇太子も同席した。
誕生日席に陛下と王妃、向かい合って公爵家の四人、長いテーブルの両側に他の面々。
壁際には近衛騎士たちがずらりと並び、書記官は複数人が記録のため控えた。
す、と立ち上がった父、筆頭公爵家当主が陛下方に頭を下げてから、ぐるりと一同を見回す。
ひどく静かで、しかし威圧感のある空間に背筋が痺れた。
「このたび、我が娘アリアドネが長年の婚約者であった王子殿下に、卒業パーティーという晴れ舞台で婚約破棄を宣言されました。その際、平民……失礼。男爵家の庶子である令嬢への加虐という冤罪をかけられ、謝罪を要求され、婚約破棄と申されたとのこと。間違いないですな」
視線を向けられた王子は、ぎゅっと眉間に皺を寄せ、アリアドネを見る。視線は合わない。
「謝ってくれれば許すと言った」
「誠心誠意謝罪するならば命までは取らない、と申されました」
すかさずドミニクが訂正すると、今にも掴みかからんばかりに睨まれたが、痛くも痒くもない。
「そもそも、娘と殿下には常に監視がついております。事実確認は取れていますので、下手な言い逃れは得策ではないと考えますが?」
「……王子よ。事実か否か、答えよ」
「…………事実です。しかし、」
「娘への疑惑が冤罪であることも、監視人による報告で確認できております。娘はほとんど息子と共におりましたし、加虐があったと訴えているのは男爵令嬢のみ。証言すら上がっておりません。この件に関しては、冤罪と確定しますが、異議は?」
王子や他の令息が、信じられないとばかりに男爵令嬢を見ているが、彼女は真っ青な顔で俯いて黙っている。
反論がなかったため、冤罪はひとまず確定された。
「我が娘は、あまりの出来事に我が身を案じ、自ら毒をあおりました。息子のいち早い処置のお陰で命は取りとめましたが、心に深い傷を負っております。婚約は白紙とさせていただきたい」
「……嫌だ」
呟いたのは、王子だった。
眉間にますます力を込め、強く唇を噛む。
「私は、アリアドネとの婚約を望んでいる。白紙にはしない」
「そちらから言い出したことです。多くの証人の前で、陛下の御名まで出して」
「それは……謝って、婚約を続けたいと、言うと思って……」
はっ、と鼻で笑う音がいくつか重なった。父とドミニクはわかるが、他は誰だったのだろう。
アリアドネはずっと身を縮こめ、わずかに俯いたまま、哀れな令嬢としてそこにいた。




