第29話 愛依は数日後に死んだ
コラボ配信を聞いていて苛立ちが募る。
アリサという人物は性格が悪い。愛依をコラボに誘って大勢の人の前で恥をかかせているようにしか思えない。
まともに話をしようと愛依も頑張っているがアリサの暴言は止まらない。しかも完全に弱い者いじめをしているにも関わらず視聴者は盛り上がっている始末だ。
気分が悪い。
「じゃあそろそろインチキ占い師のメイメイちゃんに人相占いをしてもらおうかの。インチキじゃないのを自ら証明してみせよ」
画面に映った吸血鬼のアリサが鼻で笑う。何が面白いのか全く分からない。
エンタメとしても質が悪すぎる。愛依も必死で耐えているが限界が近そうだ。声に元気がなく今にも泣きそうだった。俺は天井を見上げて大きくため息をついた。
「インチキじゃないのだ……そもそも占いは当たる時も外れる時も――」
「自信がない人間はすぐに言い訳しよるのう。はぁ……退屈な人間と話しているのも疲れるわい」
社会にはこういう人間は少なからず存在する。
誰かを馬鹿にしたり蹴落としたりするのを楽しんでいるのだろう。こんな人間に関わるのは時間の無駄だ。すぐにコラボを止めた方がいい。
しかし俺は愛依にこの困難を乗り越えて欲しいとも思っていた。
悪意ある人間に立ち向かえるようになれば愛依の中で何かが変わるのかも知れない。
「自信が無い訳じゃないのだ……」
「そうか。じゃあ占えばいい。いつものように誰にでも当てはまるような言葉で民衆を騙せばよい。インチキで人を騙すのが大好きなのだろう?」
「……メイメイは……皆に楽しんで欲しくて……」
「嘘つきは皆が貴様と同じような理由を付けるのじゃ」
「ひどいよ……」
限界だな。声が完全に涙声になっている。
立ち上がった俺は足早に愛依の部屋に向かった。そして扉の前で叫ぶ。
「愛依! そんな奴に負けるなッ! 愛依が皆を楽しませようとしていたのは嘘じゃない! 絶対に嘘じゃない!」
身体が勝手に動いて声を上げてしまった。
本当なら愛依一人の力で乗り越えて欲しいと思っていたはずなのに。
俺は本当に自己中な性格だ。やっぱり家族を馬鹿にされて黙っているなんて出来ない。
すると扉の向こうから愛依の小さな声が聞こえた。
「お兄ちゃん……ありがとう……」
それから愛依は勇気を振り絞って配信を続けた。いつもの元気なメイメイちゃんが戻ってきた。泣いていた奴が開き直ったとコメントで馬鹿にされるが愛依は全く気にしていないようだ。
「じゃあお待ちかねの占いをしてやるのだッ! アリサちゃんは誰を占って欲しいのだ!?」
「ふん。良い感じに盛り上がってきたのう。じゃあこの人間を占ってくれんかのう?」
すると画面に少女の顔写真が映し出された。
色白な肌で黒髪ロング。大きな瞳はどこか脅えているようにも見える。
映し出されたのは俺の妹。まさしく愛依の顔写真だった。
理解が追い付かない俺は画面の前で固まってしまった。
愛依も同じ状況なのか全く声を出さなくなった。
何だこれは。意味が分からない。
「この引きこもり女の人相占いは出来ないのかのう?」
「えッ……ちょ……」
「じゃあわっちが変わりに占ってやろう」
「どういう……事なの……」
愛依は驚きすぎてキャラクターを忘れている。当然だ。
自分の顔写真をいきなり出されれば誰だって同じリアクションになる。
そもそもアリサは何者なのだ? なぜメイメイの正体を知っている? しかも愛依の写真をなぜ持っている!?
「数日以内にこの引きこもり女は死ぬ。これは確定事項じゃ。自分の占いが本物なのだとしたら死なないように自分を占えばいい。ふふッ。楽しみじゃのう」
そしてアリサの占い通り、愛依は数日後に死んだ。




