第1.5話 愛依の憂鬱
愛依は和室の部屋を自分好みに変えている。六畳ほどの部屋なのだが愛依の城でもあった。
畳には黒の絨毯を敷き、カーテンは鮮やかな赤色、壁には愛依が好きなアニメやゲームのポスター。机にはヘッドホンと古いパソコンが置かれている。ディスプレイは二画面用意しており、机の下にはゲーム機やコントローラが収納されている。棚には漫画や小説が綺麗に並んでいる。
赤い毛布が畳まれたベッドの上には愛依の友達である大きなウサギのぬいぐるみが横たわっていた。二年前の誕生日に兄である彩芽が愛依にプレゼントした物だ。
「今日の晩御飯は私の大好きなカレーだよー。いいでしょー」
ウサギのぬいぐるみを抱きしめて愛依が話し掛ける。
「お兄ちゃんは料理が上手なのだよー。凄いよねー。じゃあ取りに行こうかな」
鼻歌を歌いながら愛依はパソコンの画面を確認する。兄の彩芽がバイトに出て行ったのは知っているが確認の為である。画面には誰もいないリビングの様子が移されていた。
そして愛依は般若の仮面を被ると恐る恐る部屋の鍵を開ける。
引きこもりの愛依にとって部屋の外に出るのは勇気がいる。誰かいないのかといつも不安になってしまうのだ。
扉を少しだけ開けて隙間から廊下の様子を伺う。もちろん誰もいない。
深呼吸すると仮面を被ったまま台所へ向かって泥棒のようにカレーを皿へ移して炊き立ての白米をよそう。そして急いで部屋に戻るとすぐに鍵を閉めた。
一仕事終えた愛依は「ふぃー」と胸を撫で下ろす。
そして花の形をしたクッションにお尻を下ろしてスプーンを握りしめる。
「いただっきまーす!」
そして一口食べると「はぅー!」と顔を歪めて悲鳴を上げた。
「辛い……あれだけ甘くしてって言ったのに……お兄ちゃんの馬鹿ぁ!」
辛さに弱い愛依はカレーを食べきるのに一時間の時間を要した。
そして兄の彩芽が帰ってきた瞬間に文句をぶつけたのだった。




