第22話 腹を立てても仕方がない
倉庫内作業は流れ作業だ。
衣類を扱った倉庫は大きく郊外に建物を構えていた。指定された商品を集めて段ボールに纏めてガムテープ、パレットに乗せてまた指定された商品を集めるの繰り返しだ。
ほとんど会話がなく黙々と行える作業なので個人的には気に入っていた。
倉庫で働いている人達は年配の男性や主婦、大学生など様々だった。
「神楽君は休み日って何をしているんだい?」
待合室の部屋の隅にいた俺に老人の男性が話し掛けてくれる。この老人は俺に唯一話し掛けてくれる人だった。会社を引退して体を動かしたいと倉庫で働いているらしい。健康の為と身体を動かして働く意思は素晴らしいと純粋に思う。
俺は老人に顔を合わせないように会話を続けた。老人は俺の真面目な仕事振りが良いと褒めてくれる人間でもあった。別に褒められる為に仕事をしている訳ではないが、評価されて嬉しいのには変わりない。
しばらく老人と会話しているとお茶が入った紙コップを持った金髪の大学生が絡んできた。
「何だ? 楽しそうに話しているじゃないか? 俺も混ぜてくれよ」
この大学生は俺と違う意味で嫌われ者だ。いや、職場で怖がられている存在なのかも知れない。人に自分の仕事を押し付けて仕事をサボる常習犯だ。気の弱い人や逆らえない人を狙って仕事を押し付けている最低な人間だった。
「普通に会話しているだけだ」
「それよりも相談なんだけどさー。俺って腰を怪我しているのよ? だから変わりに俺の分も働いてくれないかな?」
案の定、この大学生は俺と老人に自分の仕事を押し付けてくる。
こういう人間は社会の中には存在する。腹を立てても仕方がない。関わらない方が得策だと俺は知っている。無視しようと考えていると優しい老人が受け答えをした。
「そういうのは良くない。お金を貰って働いているのならしっかり働きなさい。楽しようと考えると君の為にもならない」
「あぁん!? 何? 俺に説教してくれちゃってるの?」
「説教ではない。わしは君の為を思って言っている」
若者の行いを正そうとするのは良いが相手が悪い。黙って聞いていた俺は大学生の顔を見て隣に座る老人をキーワードに未来を視る。
未来を視た俺は小さく吐息を漏らした。
「うるせーじじぃだな。俺の言う事を聞けばいいんだよ馬鹿が!」
俺は咄嗟に老人の間に立つと顔にお茶を掛けられた。服がコーヒーで濡れて気持ちが悪い。午後からも仕事があるのに最悪だ。老人を庇う必要なんてないのだが身体が勝手に動いた。
「何だお前? お前も俺に逆らうのか?」
「揉め事を起こせばクビになりますよ?」
「うるせーよ馬鹿が!」
咄嗟に前蹴りが腹に飛んでくる未来が視える。俺は大学生の前蹴りを両手で防ぐ。濡れるのは構わないが痛いのは嫌だ。攻撃を防がれた大学生は少し驚く表情を見せる。
「おいお前ら! 何をやっている!?」
本格的に面倒くさい事になる前に倉庫の責任者の社員が待合室に来た。
そして俺は社員に別室に呼ばれて陰険な説教を受けて、次に職場で問題を起こすと辞めてもらうと伝えられた。全て俺が悪い事になっている。反論の余地はなかった。
この責任者の社員は金髪大学生と仲が良いと知っている。
こういう人間は社会の中に存在する。腹を立てても仕方がない。
俺は何も反論せずに素直に謝罪した。




