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未来が視えても妹は救えないッ!?  作者: 竜宮


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第6話 愛依が喋った!

 中学の青いジャージ姿で現れた愛依は相変わらずの色白だった。

 長い黒髪を肩の辺りで二つに結っている。前髪や結んだ毛先は不均等だ。自分で髪を切っている代償だろう。髪を結んでいる赤いリボンは母親が使っていた物と同じだ。目鼻立ちも母親に似て可愛い。将来美人になるだろうと未来が視えなくても分かる。

 身体を見ると相変わらず華奢だった。運動不足なので仕方がないが少し筋肉を付けた方がいいと思う。

 やばい。めちゃくちゃ緊張する。まともに顔が見れない。視線が泳ぐ。

 椅子に座る俺の前で恥ずかしそうに愛依は立っている。内ももを擦り合わせて口をもごもごと動かせている。緊張している姿を見ると俺まで息が詰まる。愛依が恥ずかしそうに「うぅ」と泣き声を上げているのも久しぶりに聞いた。

 落ち着け。息を整えろ。動揺するな。気持ち悪いと思われる。同じ家に住んでいる妹と会って話をするだけだ。自然に対応すればいい。そう、川のせせらぎのように兄と妹のやり取りを対処するだけでいいのだ。

 とりあえず呼吸を整えろ。意識を息に集中だ。全力で集中だ。

 すると静寂の中で愛依が遠慮がちに口を開く。愛依は俺が未来を読めない人間の一人なので今からどう発言するのか全く分からない。俺の緊張は最高潮に達した。


「ひ……ひ……久しぶり……うぅ」


 愛依が喋った! 俺に顔を見せて愛依が喋った! 叫びたくなるのを堪えながら自然に対応する。兄の威厳を損なう訳にはいかないのだ。これは戦場だ。隙を見せた方が負ける。愛依の上目遣いは強力な兵器だ。心を強く持たなければ立ち向かえない。


「そうだな……こうやって話すのは二年振りだな……」


 面と向かって話すのは本当に二年振りだった。義理の母親の葬式以来だ。母親の死がきっかけで愛依は引きこもりになっていた。

 中学時代極度な人見知りの愛依は学校に馴染めなかった。何とかしようと努力はしたが俺の頑張りが足りなかった。最大の味方であった母親が病気で亡くなったのも大きな要因だ。愛依は母親の事を本当に大好きだった。


「さ、さっきの……お願いを聞いて欲しいの……うぅー……」


 瞳をぎゅっと閉じて耳を真っ赤にしながらお願いしてくる。今にも逃げ出しだしそうな雰囲気だった。あまりにも苦しそうな姿を見て俺はすっと冷静になった。

 愛依は勇気を出してお願いしている。本当は俺にさえ顔を見せるのも嫌だったはずだ。愛依も好きで引きこもりになった訳ではない。愛依の気持ちを考えずに勝手に条件を出して俺は愛依を苦しめているだけなのかも知れない。

 自分の意思で俺と会って話してくれなければ意味がない。俺は馬鹿だ。何をやっているんだか。


「分かったよ。愛依の頑張りに免じて協力する。だけど――」


 俺が話している途中に愛依は脱兎のごとくリビングから走り去っていく。

 えー。まだ話している途中なんですけどー。物凄い形相で逃げて行ったのですけどー。もうちょっと顔を見ながらお話したかったのですけどー。

 取り残された俺が肩を落としているとディスプレイのメイメイちゃんが怒鳴り出した。


「きもッ! 妹の全身を舐めまわすように見るなんて最低ッ! 発情期のケダモノッ!」


 えー。めちゃくちゃ怒ってるー。本来の愛依とまるで違う口調なんですけどー。

 俺は頭を抱える。本当に愛依と関わるのは難しい。そしてなぜか興奮した愛依の罵詈雑言は続く。悪口の引き出しを片っ端から開けているようだ。

 何でそんなに怒っているのか分からない。最終的に愛依のお願いを聞き入れたのに何の落ち度があると言うのだ。少しだけ腹を立てた俺は報復として愛依を褒め出した。気持ち悪いというのなら気持ち悪い発言をしてやる。気持ち悪い兄を演じきってやろうではないか。


「久しぶりに愛依を見たけど……本当に母さんに似て可愛かった。抱きしめたくなる愛らしさだ。まるで麗しい異国の姫だ。俺が正気じゃなかったら力の限り抱きしめて愛を囁いたかも知れない」


「ちょ!? はぁぁぁ!?」


「世界で一番可愛いのは愛依だと思う。あの小さな唇、透き通るようなすべすべの白い柔肌……あぁー。魅力的だー。誰にも譲りたくない宝石箱やー」


「止めろ馬鹿! 気持ち悪いってのッ!? 嘘だったら怒るわよッ!」


 またしても兄を気持ち悪いと申すかこやつは。大人気なくなった俺は愛依としばらく喧嘩した。こうやって兄妹で喧嘩するようになったのは愛依が引きこもってからだ。

 天国の母さんが今の俺達を見たら驚くだろうな。母さんが生きていた頃は喧嘩なんて一度も起こらなかったのだ。

 母さんは俺と愛依が心配だと母さんは死ぬ間際まで心配してくれていた。

 大丈夫だよ母さん! 愛依が笑って暮らせるように俺頑張るから!

 病室で誓った俺に対して母さんは優しく微笑んでくれていた。

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