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第41話:未来への選択


あの日、クロスロードを揺るがした大事件から、数週間が過ぎた。

街は、ギルドの冒険者と住民たちの協力によって、驚異的な速さで復興を遂げつつあった。破壊された建物の修復作業には、自らの罪を償うため、アルフレッド王子が率先して参加していた。彼は王子の身分を捨て、ただ一人の労働者として、黙々と瓦礫を運び、汗を流している。誰も彼を王子とは呼ばなかったが、その真摯な姿を、街の人々は静かに受け入れていた。

宰相の反乱と、その裏にあった「聖なる武具」の真実は、クロスロードのギルドを通じて、すぐに王都へと報告された。宰相派は一掃され、王政は正常化へと向かっているという。

そんなある日の昼下がり。

王都から、国王の名を携えた正式な使者が、私たちの元を訪れた。

使者は、ギルドの一室に集められた私たちの前で、恭しく巻物を広げた。

「ルシアーナ・フォン・ヴァインベルク様」

その改まった呼び方に、私は少しだけ身構える。隣に立つカインさんの手が、励ますように、そっと私の手に触れた。

「先日の反乱における、ルシアーナ様及び『流星の剣』の皆様のご活躍、国王陛下も大変感謝しておられます。よって、ここに、ルシアーナ・フォン・ヴァインベルク様の名誉を、完全に回復することを宣言いたします」

使者は、そこで一旦言葉を切ると、私に温和な笑みを向けた。

「そして、国王陛下より、ルシアーナ様へ、直々のお願いがございます。どうか、王都へお戻りいただき、王家付きの筆頭魔法使いとして、再びこの国のためにお力添えを願えないでしょうか」

王家付き筆頭魔法使い。

それは、誰もが羨む、最高の地位と名誉だった。追放された罪人にとっては、破格すぎるほどの条件だ。

ゴードンさんとリーシャさんが、固唾を飲んで私を見守っている。

部屋に、緊張した沈黙が流れた。

王都へ帰る。それは、失ったもの全てを取り戻すこと。ヴァインベルク公爵令嬢としての、輝かしい人生に戻ることを意味していた。

数ヶ月前の私なら、きっと、涙を流して喜んだだろう。

でも、今の私は――。

私は、ゆっくりと立ち上がると、使者の前に進み出た。そして、深く、優雅に一礼する。

「国王陛下からの温情、心より感謝申し上げます。ですが――」

私は、集まった仲間たち、そして心配そうに見守ってくれているギルドマスターや街の人々の顔を見渡した。一人一人の顔が、私にとって、何物にも代えがたい宝物だった。

「そのお話は、お受けできかねます」

穏やかな、しかし、きっぱりとした私の返答に、使者は驚きに目を見開いた。

「な、なぜですかな!? これ以上の名誉はございませんぞ!」

私は、穏やかな笑みを浮かべたまま、首を横に振った。

そして、隣に立つカインさんの手を、今度は、はっきりと、みんなの前で、そっと握った。

「私の居場所は、ヴァインベルク公爵家でも、王城でもありません」

私は、愛しい仲間たちに向けて、心の底からの想いを告げた。

「私の聖域(サンクチュアリ)は、もう、ここにありますから」

その言葉は、私の新しい人生の、始まりを告げる誓いだった。

もう、誰かに与えられた役割を生きるのではない。

私が自分で選び取った、この場所で、大切な人たちと共に生きていくのだ。

私の答えに、カインさんは、ただ静かに、そして力強く、私の手を握り返してくれた。それだけで、全てが伝わった。



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