第42話(最終話):私たちの物語
季節は巡り、クロスロードに再び穏やかな風が吹くようになった。
あの事件の後、それぞれの人生が、新しい道を歩み始めていた。
アルフレッド様は、自らの罪を償うため、王子の身分を正式に返上した。そして、「ただのアルフレッド」として、宰相の悪政によって最も疲弊していた辺境の地の再建に、その身を捧げる道を選んだという。彼が本当の意味で自分を取り戻すのは、まだ先のことだろう。だが、その背中には、もう迷いはなかった。
力を失ったミリアは、しばらく街の神殿で療養していたが、やがて一人の少女として、故郷の村へと帰っていった。聖女でもなく、誰かの道具でもない、自分の人生を、自分の足で歩み始めるために。別れの日、彼女は私に「ありがとう、そして……ごめんなさい」と、涙ながらに頭を下げた。
そして、私たち『流星の剣』は。
ギルドからはSランクへの昇格を打診されたが、「面倒だから」というカインさんの一言で丁重にお断りした。私たちは、相変わらずクロスロードを拠点に、CランクやBランクの依頼を気ままにこなす、ただの冒険者としての日々を送っていた。
「おいルシアーナ! ぼーっとしてっと、肉なくなるぞ!」
ゴードンさんの野太い声が、ギルドの酒場に響く。テーブルの上には、今日の依頼で討伐したワイバーンのステーキが、湯気を立てていた。
「もう、ゴードンは食いしん坊なんだから。ルシさんの分はちゃんと取ってあるわよ」
リーシャさんが、呆れたように笑いながら、私の皿に一番大きな肉の塊を取り分けてくれる。
そんな仲間たちのやり取りを、私は幸せな気持ちで眺めていた。
もう、誰も過去のトラウマに縛られてはいない。ゴードンさんは誰よりも頼れる前衛となり、リーシャさんは仲間を守るためなら、どんな強敵にも臆さず矢を放つ。
そして、私の隣には――。
「……食うか?」
カインさんが、自分の分のステーキを、ぶっきらぼうに私の皿に乗せてくれた。その不器用な優しさに、私は思わず笑みがこぼれる。
「ありがとうございます、カインさん」
私たちが手を繋いで力を使うのは、もう高難易度の依頼の時だけだ。でも、繋がなくても、私たちの心は、いつも固く結ばれている。
食事が終わると、私たちは連れ立って宿屋へと帰る。
街の外れにある丘の上で、カインさんがふと足を止めた。私も、彼の隣に並んで、クロスロードの街並みを見下ろす。窓から漏れるオレンジ色の灯りが、まるで宝石のようにきらめいていた。
「……ここが、私の聖域」
ぽつりと呟いた私を、カインさんは優しい眼差しで見つめていた。
追放されたあの夜には、想像もできなかった光景。
絶望の淵で出会った、不器用で、傷だらけで、けれど誰よりも温かい人たち。
彼らと共にいるこの場所こそが、私の本当の居場所。
カインさんの手が、私の肩をそっと引き寄せた。私も、自然に彼の胸に寄り添う。
私の本当の人生、本当の物語は、これからもこの大切な仲間たちと共に、続いていく。
空には、私たちの未来を祝福するかのように、美しい流星が一つ、静かに流れていった。




