↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/42

第40話:裁きと、謝罪と


宰相が塵となって消え、闘技場に訪れた静寂は、しかし長くは続かなかった。

破壊された入り口から、武器を手にしたギルドの冒険者たちが、なだれ込むように入ってきたのだ。その先頭には、ギルドマスターと、そしてクロスロードの領主であるバートランド辺境伯の姿もあった。

彼らは、コアを破壊されたことで呪縛から解放され、呆然と立ち尽くす強化兵たちを次々と取り押さえていく。街を襲っていた脅威は、完全に鎮圧された。

「『流星の剣』! 見事だ! 君たちは、この街の英雄だ!」

辺境伯が、満面の笑みで私たちに駆け寄ってくる。その変わり身の早さに、私は内心呆れるしかなかったが、今はそれを咎める気力もなかった。

戦いは、終わったのだ。

騒乱が収拾されていく中で、私は、貴賓席で一人、立ち尽くしているアルフレッド王子の元へと歩みを進めた。カインさんが、心配そうに私の後についてきてくれる。

アルフレッド様は、私の足音に気づくと、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、かつての傲慢さも、狂信的な光もない。ただ、犯した罪の重さに打ちひしがれた、一人の人間の深い絶望だけが浮かんでいた。

彼は、私の前まで来ると、何の躊躇いもなく、その場に膝をついた。

王家の人間が、追放した罪人の前に跪く。それは、ありえない光景だった。

「……ルシアーナ」

彼の声は、か細く、震えていた。

「私が……愚かだった。君の価値も、苦しみも、何も見ようとしなかった。ただ自分の正しさを守るためだけに、君を、国を、取り返しのつかないところまで追い詰めてしまった」

彼は、深く、深く頭を下げる。その額が、埃っぽい闘技場の床に擦り付けられた。

「すまなかった……。本当に、すまなかった」

その言葉には、何の嘘も、言い訳もなかった。

ただ、心の底からの謝罪と、消えることのない後悔だけがそこにあった。

私は、彼の姿を静かに見下ろしていた。

憎しみは、もうなかった。怒りも、とうの昔に消え去っていた。

あるのは、ほんの少しの憐れみと、そして、全てを過去にするための、小さな区切りだけ。

「……お顔を、お上げください、王子殿下」

私の静かな声に、彼はゆっくりと顔を上げる。

「あなたの罪が許されることはないでしょう。ですが、その罪をどう償うかは、あなた自身がお決めになることです」

私は、もう彼を裁く立場にはない。

彼の罪は、彼自身の人生で、償っていくしかないのだから。

私の言葉に、アルフレッド様は、ただ、涙を流しながら何度も頷いていた。

遠くで、ゴードンさんとリーシャさんが、解放されたミリアの介抱をしているのが見える。

長い因縁が、ようやく終わりを告げた。

夜明けの光が、破壊された闘技場を、静かに照らし始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。