第40話:裁きと、謝罪と
宰相が塵となって消え、闘技場に訪れた静寂は、しかし長くは続かなかった。
破壊された入り口から、武器を手にしたギルドの冒険者たちが、なだれ込むように入ってきたのだ。その先頭には、ギルドマスターと、そしてクロスロードの領主であるバートランド辺境伯の姿もあった。
彼らは、コアを破壊されたことで呪縛から解放され、呆然と立ち尽くす強化兵たちを次々と取り押さえていく。街を襲っていた脅威は、完全に鎮圧された。
「『流星の剣』! 見事だ! 君たちは、この街の英雄だ!」
辺境伯が、満面の笑みで私たちに駆け寄ってくる。その変わり身の早さに、私は内心呆れるしかなかったが、今はそれを咎める気力もなかった。
戦いは、終わったのだ。
騒乱が収拾されていく中で、私は、貴賓席で一人、立ち尽くしているアルフレッド王子の元へと歩みを進めた。カインさんが、心配そうに私の後についてきてくれる。
アルフレッド様は、私の足音に気づくと、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、かつての傲慢さも、狂信的な光もない。ただ、犯した罪の重さに打ちひしがれた、一人の人間の深い絶望だけが浮かんでいた。
彼は、私の前まで来ると、何の躊躇いもなく、その場に膝をついた。
王家の人間が、追放した罪人の前に跪く。それは、ありえない光景だった。
「……ルシアーナ」
彼の声は、か細く、震えていた。
「私が……愚かだった。君の価値も、苦しみも、何も見ようとしなかった。ただ自分の正しさを守るためだけに、君を、国を、取り返しのつかないところまで追い詰めてしまった」
彼は、深く、深く頭を下げる。その額が、埃っぽい闘技場の床に擦り付けられた。
「すまなかった……。本当に、すまなかった」
その言葉には、何の嘘も、言い訳もなかった。
ただ、心の底からの謝罪と、消えることのない後悔だけがそこにあった。
私は、彼の姿を静かに見下ろしていた。
憎しみは、もうなかった。怒りも、とうの昔に消え去っていた。
あるのは、ほんの少しの憐れみと、そして、全てを過去にするための、小さな区切りだけ。
「……お顔を、お上げください、王子殿下」
私の静かな声に、彼はゆっくりと顔を上げる。
「あなたの罪が許されることはないでしょう。ですが、その罪をどう償うかは、あなた自身がお決めになることです」
私は、もう彼を裁く立場にはない。
彼の罪は、彼自身の人生で、償っていくしかないのだから。
私の言葉に、アルフレッド様は、ただ、涙を流しながら何度も頷いていた。
遠くで、ゴードンさんとリーシャさんが、解放されたミリアの介抱をしているのが見える。
長い因縁が、ようやく終わりを告げた。
夜明けの光が、破壊された闘技場を、静かに照らし始めていた。




