第33話:明かされる真実と、王子の絶望
闘技場は、混沌の渦と化していた。
民衆の悲鳴、金属がぶつかり合う甲高い音、そして、暴走するミリアが放つ不気味なうめき声。その全ての中心で、『流星の剣』は宰相の暗殺者たちを圧倒していた。
しかし、彼らが優勢に立ったのも束の間。
「――そこまでだ、道化諸君」
闘技場の入り口から、冷たく、そして全てを見下すような声が響き渡った。
そこに立っていたのは、穏やかな笑みを浮かべた宰相デューク・ゲルハルト。しかし、その背後には、先の暗殺部隊とは比較にならないほどの重圧感を放つ、十数名の『影の近衛兵』が控えていた。
「見事な腕前だ、追放された聖女殿。だが、遊びは終わりだ。我が計画の、最後の仕上げと参ろう」
宰相は、まるで芝居のクライマックスを宣言する役者のように、両手を広げた。
彼は、貴賓席で呆然と立ち尽くすアルフレッド王子へと、嘲笑うかのような視線を向ける。
「王子殿下。貴方はずっと、何かのために戦っておられるつもりだったのでしょうな。母君を不幸にした『呪い』を断ち切るため、国を救うため……なんと健気なことか」
「な……何を言って……」
「お教えしましょう。貴方の母君……先代の支援聖女が心を病んだのは、力の代償だけが原因ではございません。その不安定な力に苦しむ彼女を、我が父、先代の宰相が『不要』と判断し、見殺しにしたのでございます」
「なっ……!?」
アルフレッドの顔から、血の気が引いた。
「我が一族は代々、感情で国を左右する王家と、その気まぐれな『聖女の力』を、国を蝕む病だと考えておりました。我々は、それを正しき道へ、すなわち我らの完全な管理下に置くべく、何世代にもわたって準備を進めてきたのです。今回の戦争誘発も、貴方を英雄に祭り上げる計画も、全てはそのため。貴方は、私の筋書き通りに踊ってくれた、最高の駒でしたよ」
全ての言葉が、残酷な真実の刃となって、アルフレッドの心をズタズタに引き裂いていく。
正義も、誇りも、母への想いさえも、全てがこの男に仕組まれた、茶番劇の一部だった。
「私が……私のせいで、国が……母上が……ルシアーナが……」
足元から、世界が崩れていくような感覚。彼は、支えを失った操り人形のように、その場に崩れ落ちた。
自分の愚かさが、取り返しのつかない事態を招いた。その罪の重さに、彼の精神は完全に打ち砕かれていた。
「さあ、最終楽章だ」
宰相は、もはや王子に見向きもせず、暴走するミリアに近づく。
「ミリア、君の役目は終わった。その魂、我が計画の礎となるがいい」
彼はミリアの胸元に手を突き入れると、そこから眩い光を放つ魔石――魔道具のコアを、何の躊躇もなく抜き取った。
「ぎゃっ……!」
ミリアは短い悲鳴を上げ、糸が切れたように気を失い、倒れる。
その光景に、私はもちろん、ゴードンもリーシャも、怒りに目を剥いた。
カインは、ただ静かに、しかし燃えるような殺意を込めて、宰相を睨みつけていた。
宰相は、自らの計画の成就を確信し、勝利の笑みを浮かべていた。
彼にとって、私たちの怒りなど、取るに足らない最後の抵抗に過ぎなかったのだから。




