第27話:ルシアーナ抹殺計画
宰相がルシアーナの抹殺を決断した、その翌日。
アールクヴィスト王城の謁見の間では、アルフレッド王子が宰相からの報告を受けていた。
「――以上の理由により、国境付近で頻発する騎士団の敗走、及び魔物討伐の失敗は、追放したはずのルシアーナ・フォン・ヴァインベルクが、辺境の地で禁術を用いて我が国の力を削いでいるものと考えられます」
宰相は、さも痛ましげな表情で、次々と捏造された報告書を読み上げていく。
「彼女の力……他者の気力を奪うあの呪われた力は、我々の想像以上に厄介なもののようです。距離が離れていても、王国の騎士たちの魂に干渉し、力を奪っているとしか考えられません」
「……馬鹿な! そのようなことが……」
アルフレッドは、思わず声を荒らげる。だが、宰相は間髪入れずに言葉を続けた。
「にわかには信じがたいのも無理はございません。ですが、この報告をご覧ください」
彼が差し出したのは、『流星の剣』というパーティーが、クロスロード周辺で異常な戦果を上げているという報告書だった。
「ルシアーナは、クロスロードで出会ったごろつき共を仲間とし、彼らに力を分け与えているようです。王国の騎士から奪った力を、自らの手駒に横流ししているのです。彼女こそが、国を乱す真の国賊。禁術を弄ぶ、本物の悪女でありましょう」
宰相の言葉の一つ一つが、アルフレッドの焦りとプライドを的確に刺し貫いていく。
ルシアーナがいなくなってから、国力が落ちている。これは、彼が目を背けたくても背けられない事実だった。
自分の判断は、間違っていたのではないか。
その心の弱みに、宰相は完璧な「言い訳」を与えたのだ。
国が乱れているのは、私のせいではない。全て、ルシアーナという悪女のせいなのだ、と。
そう思えば、楽になれる。自分の正しさを、保つことができる。
「王子殿下」
宰相が、追い打ちをかけるように、アルフレッドの前に跪く。
「もはや、一刻の猶予もございません。今こそ、殿下が真の英雄として立たれる時です。聖女ミリア様と、その聖なる武具で強化された精鋭たちを率い、クロスロードへ向かうのです」
「……私が、クロスロードへ?」
「はい。偽りの聖女ルシアーナを討ち滅ぼし、国の呪いを断ち切るのです。それこそが、真の聖女ミリア様と、彼女を見出された王子殿下の正当性を示す、何よりの証となりましょう。民衆も、殿下の英雄的なご決断を、熱狂的に支持するはずです」
宰相が描いたシナリオは完璧だった。
アルフレッドは、震える手で拳を握りしめた。
脳裏に、かつての婚約者の姿が浮かぶ。いつも凛として、自分の前を歩いていた、あの気高い横顔。その姿が、今は自分を嘲笑う悪女の顔に見えてくる。
そうだ、彼女を討たなければならない。
彼女を、この手で断罪することでしか、私が私でいられる道はないのだ。
後戻りのできない思考の迷路に、彼は完全にはまり込んでいた。
「……分かった。直ちに、出陣の準備をせよ」
アルフレッドが、低い声でそう告げた。
彼の瞳には、もはや迷いはない。そこにあるのは、自らを正当化するためだけの、歪んだ正義の炎だった。
宰相は、その様子に満足げに頷くと、心の中でほくそ笑んだ。
(かかったな、愚かな王子よ)
彼の本当の目的は、王子をクロスロードへ向かわせ、ルシアーナと激突させること。
そして、その混乱の裏で、自らが用意した「別の駒」を動かすことだった。
ルシアーナの力を、過小評価しているわけではない。
万が一にも、王子が敗れるようなことがあってはならない。
だからこそ、宰相は、自らの息がかかった暗殺部隊にも、商人に扮してクロスロードへ向かうよう、すでに命令を下していた。
王子の出陣は、表向きは国を救うための遠征。
だがその実態は、かつての婚約者を確実に葬り去るための、二重三重に罠が仕掛けられた、非情な処刑執行に他ならなかった。




