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第22話:流星の兆し


部屋の中に灯った、温かく、そして力強い光。それは、私とカインさん、二人の魂が繋がった証のようだった。

彼と苦痛を「分かち合う」という、信じられないような奇跡。それは、私の心を覆っていた最後の絶望さえも、きれいに洗い流してくれた。

翌朝、壊れた扉の修理代を大家さんに謝り倒すカインさんの姿を見て、私はようやく、くすりと笑うことができた。この世界に来て初めて、心の底から笑えた気がする。

そんな私を見て、事情を知らないゴードンさんとリーシャさんは、不思議そうな顔をしていたけれど。

「よし、ルシ。行くぞ」

カインさんに声をかけられ、私は頷いた。

その日、私たちはギルドの掲示板の前に立っていた。カインさんの提案で、新たな力を試すために、少しだけ格上の依頼に挑戦することになったのだ。

「うおっ、おいリーダー、本気かよ!?」

カインさんが掲示板から剥がしてきた依頼票を見て、ゴードンさんが素っ頓狂な声を上げた。

『緊急討伐依頼:オーガ・リーダー(推奨ランク:C)』

Cランク。今までの私たちが、逆立ちしたって受けられるはずのない依頼だった。

「だ、大丈夫なの、カイン?」

リーシャさんも、不安そうに私とカインさんを交互に見る。

「ああ。今の俺たちなら、やれる」

カインさんの声には、揺るぎない自信が満ちていた。その自信は、彼の強さだけから来るものではない。隣に立つ私、そしてゴードンさん、リーシャさんへの、絶対的な信頼から来るものだと、私には分かった。

「ルシアーナ。無理だと思ったら、いつでも言え。俺がいる」

そう言って、カインさんは私の頭を、大きな手で、少しだけ不器用にくしゃりと撫でた。その温もりに、私の胸がまた、トクンと鳴る。

オーガ・リーダーが根城にしているという洞窟は、不気味な静けさに包まれていた。

奥へ進むと、開けた空間に、棍棒を持った巨大な人型の魔物が数体と、その中心に一回りも二回りも大きな個体が鎮座していた。オーガ・リーダーだ。

「――行くぞ!」

カインさんの号令と同時に、戦闘が始まった。

私は、カインさんとそっと手を取り合う。ぎこちないけれど、彼の温かい体温が、私の不安を溶かしてくれた。

「【サンクチュアリ・フィールド】!」

私がスキルを発動すると、今までとは比べ物にならないほど安定した、強い光の奔流が仲間たちに流れ込む。

そして、その力を最初に体現したのは、ゴードンさんだった。

「うおおおおおおっ!!」

先陣を切って突っ込んだ彼は、もはや以前のような迷いを見せることはなかった。迫るオーガの棍棒を、彼が「お守り」として携えていた小さな盾で受け流す。盾に込められた私の想いが、彼の覚悟と共鳴し、凄まじい守護の力を発揮していた。

彼は棍棒の軌道を逸らすと、隙だらけになったオーガの脇腹に、持てる限りの力で巨大な斧を叩き込む!

その背後から、リーシャさんの矢が雨のように降り注ぐ。

彼女の矢は、もはや躊躇わない。彼女が放つのは、過去への贖罪の矢ではなく、仲間を守り、未来を切り開くための祈りの矢。オーガたちの急所を、正確無比に射抜いていく。

そして、カインさん。

私と精神をリンクさせた彼の剣技は、もはや神業の域に達していた。

彼には見えているのだ。オーガたちの次の一手も、仲間たちの次の一歩も、その全てが。私の支援によって強化された彼の力は、まるで舞うように戦場を駆け抜け、オーガ・リーダーへと肉薄していく。

その戦いぶりは、もう、燻っていた『赤錆の剣』のものではなかった。

ゴードンさんが盾となり、リーシャさんが希望を射抜き、そしてカインさんが刃となって、敵を貫く。

個々の星が、一つの星座となって輝いているようだった。

Cランクの魔物たちを圧倒する、完璧な連携。

それは、ギルドに偶然居合わせた、他の冒険者たちも目撃していた。彼らが、緊急依頼の進捗を心配して、こっそりと様子を見に来ていたのだ。

「おい……あれ、本当に『赤錆の剣』かよ……?」

「嘘だろ……あの万年Eランクが、Cランクのオーガを圧倒してるぞ……」

「なんだあの戦い方は……。まるで、一つの生き物みたいだ」

カインさんの一閃が、オーガ・リーダーの首を跳ね飛ばし、戦闘が終わった時。

洞窟に響いていたのは、私たち四人の荒い呼吸と、そして、呆然と立ち尽くす他の冒険者たちの息を呑む音だけだった。

やがて、誰かが、畏敬を込めて呟いた。

「あのパーティーは……まるで、流星のようだ」

その言葉は、私たちの新しい始まりを告げる、最初のファンファーレだった。

しかし、私たちはまだ知らない。

この先に、私たちが捨ててきたはずの王国の、巨大な陰謀が渦巻いていることを。

偽りの聖女と、真実の敵が、私たちを待ち受けていることを。



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