16 見上げた先には・・・
「まだ、生きてますよ!」
「うん。そうだね。でも、・・・」
目の前で呼吸が弱々しくなり、今にもとまりそうな浅い呼吸。
その姿からして商人だろうか?20代くらいの男性と女性が倒れている。とても、その見た目から雪山に来るような人間には思えない。この2人に何があったんだろう・・・?。
男性が女性を抱きしめて、少しでも体温が逃げないようにしている姿を見ると、人間の脆さと優しさが垣間見える気がする。
「死神さん、こういう時はどうするんですか!?」
「こんな時、僕らにできることは・・・ない!」
死神さんはそっと、2人の頭上に立ち、そっと男性の頭に手を乗せた。
男性の胸から、白い球体がふわっと浮かんでくる。
「何してるんですか?死神さん。」
「アカシックレコードの確認だよ。僕たち死神の仕事、昨日少し教えたよね?魂の選定だって」
黙々と作業を続ける死神さん。
男性のモノを見終わると、今度は女性の方に手を伸ばす。
再び、女性の胸から白く輝く球体が浮かんでくる。
「助け、られませんか?」
「むりっ!」
「な、、どうしてですか?まだ、その、生きてるし、若いのに」
「これが運命なんだよ。このふたりの。
いいかい?奴隷商人を裏切った男。この女は売春婦だ。奴隷商人の男は、彼女に一目惚れ。遊びのはずが本気になって、お金を持って仲間を裏切ったんだよ。
仲間の馬車から飛び出し、ここまで来たけど、道に迷って死ぬ。これがこの2人の運命なんだ。
運命は君も知っているけど、運命の女神アテネが司っている。僕ら死神もアテネにはホイホイ逆らえないし、運命を変えることはなかなかできない。どうしても、魂を揺さぶられる想いがあれば生き返らせることができる。それが僕らの特権。誰彼構わず生き返らせたら人間界がパンクしちゃうでしょ?」
言い終わると、死神さんは女性のアカシックレコードを体内に戻す。
レアも、死神さんの言ってることが正論だとわかるし、納得出来るけど、これから幸せになろうとしている2人を殺しちゃうなんて・・・。
「それにね。多分、生き返らせても死ぬんじゃないかな・・・。」
「な、なんでですか?」
「生き返らせるのは死神1人で人間1人まで。僕しかいないんだから、どっちを生き返らせるの?残された方は、どうする?男は、全部捨ててこの女の人と逃げたのに、・・・一生後悔して生きるのかい?」
「それは・・。その。」
「生きることと、死ぬこと。助けることと、殺すこと。これはすごく難しいんだよ。だから、死神には自分の気持ちに正直に、相手の立場になって考えることが大切。これから君は死神の能力の限界も知って、人間を助けるのか、殺すのか?それを選んでいかないといけない。天界でも汚れ役として名高い死神は、優しく、冷たい神でいる必要があるんだ」
死神さんは大きくため息をついて、空を見上げた。
レアは、何も言えなかった。
もう、死神さんって人間の生死を勝手に決めてるんだと思ったけど、すごいモヤモヤする。
「ほら、君の仲間がきたよ。いいかい?今のことは忘れるんだ」
死神さんがレアに向かって、口元に人差し指を運び『内緒』のポーズをした。
レアは黙ってそれを見ると、静かに頷いた。
「どもっ!」
「こんばんは、死神様、・・あら?レアじゃない。こんなところで何してるの?」
「知り合いかい?この子は僕ら死神協会にきた研修生で。期間限定で死神の仕事を経験してるんだ。いいスキルUPになるだろ?」
「ほんとなのっ!?レア!さすが豊穣の女神の末っ子ね。待遇が私らとはちがうわぁ。」
空から来たのは、私と同じ女神様。ただ、その女神は社もない、小さな存在だった。
「えへへ・・・」
なんて言っていいのかわからず、その場は笑ってごまかすことしかできない。
死神さんとなんの打ち合わせもしていなかったから、いきなり何を言い出すことやら。
「よし、一生上がりっ!」
死神さんは2人の頭上に浮かんだ光る球体をハサミで肉体と繋がる紐のようなモノを切り離した。
その球体はゆっくりと天に浮かび、人間たちの呼吸は静かにとまった。
「はい、確かに受け取りました。死神様、ご苦労様です。」
「うん、2人を頼んだよ」
女神は浮かび上がる魂を抱き抱えると、レアたちにほほ笑みかけ天に向かって羽ばたいてく。
その後ろ姿に手を振って別れを告げる。
「死神さんも、いつもこうやってレアのこと見送ってくれてました?」
「ま、まぁ。見送ることもあったよ?」
「じゃあ・・・パンツ、見えてましたよね?」
「ギクッ!」
今女神を見送って思ったこと。
この下から見上げるとパンツが見えてるってことがよくわかりました。
死神さん、まさかとは思ったけど・・・。
「今の、ギクッってなんですか?」
「いや、見てないよ?パンツなんて、そんな見えなるわけないじゃないか」
「そうですか・・。でも、今見てましたよね?」
「見てない見てない!!今、刈り取った魂を見送っただけで、・・・ほら!帰るよ!」
月明かりでできた木の陰に向かって歩き出す死神さん。
でも、あの感じは、絶対に見てる!レアも見られたと思う。
よくよく考えれば、短いスカートで天を羽ばたくなんて無防備すぎなのかもしれない。
まぁ、今回はレアもご迷惑かけましたから?この件は無仕方ないしレアも悪いから忘れますけどっ!
死神さんの手を掴んで、影の中に沈む中、最後まで雪の上に横たわる2人の姿から目が離せなかった。




