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第二話 夜に馴染む影

深夜の繁華街を、一本奥に入った暗く人気のない裏路地。

そこに、全身を黒に包み、首に白蛇を巻き付けた人がいた。

白蛇は器用にその人の体を伝い、地面に降りた。

その人は、頭の黒いバンダナを取り、肩に掛かる位のセミロングの青い髪を揺らした。

青い髪は月夜に照らされ、童顔な横顔が映し出された。

青い髪の人は軽くバンダナを畳み、地面にいる肩に乗るくらい小さな使い魔のモモンガに、屈んで渡した。

モモンガは浮遊魔法を活用しながら、自分より大きな物を器用に袋に詰めた。

黒装束を脱ぐと、黒いインナー姿になった。

布に無駄がなく、ぴっちりしていて、身体のラインがシルエットのように浮き出た。

肩幅は狭く、胸板も薄め、腹部は余計な脂肪がなく、引き締まった身体をしていた。

男性の身体付きをしているのに、黒装束を畳む手や腕が細く、全体的に華奢な体つきを感じさせた。

モモンガから着替えを受け取り、袖を通す。

黒かった影は、この街のどこにでもいそうな庶民の青年の姿になった。

青年は、肩を降ろして深く息を吐き、目を伏せた。

次に息を吸う時、ゆっくりと目を開けた。

「先に帰ってろ」

青年は使い魔の白蛇とモモンガに、服の入った荷物を任せた。

「お気を付けて」

モモンガは、丁寧にお辞儀をして答えると、白蛇と共に裏路地を後にし、闇に消えた。

それを見届けると青年は、裏路地を出て、深夜の繁華街に馴染んだ。

店々の灯りに照らされ、人々を交わしながら、人波に乗った。

店や点々と並ぶ屋台からは、香ばしい炭火焼きの匂いが多く漂う。

青年も、一度夕飯は軽く食べていたが、一仕事終え、軽く腹を空かせていた。

どの店に入るか考えていた所に、「ギン〜!」と呼び掛ける女性の声が耳に入った。

足を止め、声の方を向くと、綺麗な服を着た女性が、お店の入口に立ち、

笑顔で手を振っている。

「久し振りに寄っててよ〜」

女性は甘えた声で、ギンに話し掛ける。

「ありがとう、また今度」

ギンは少し離れた所から微笑み、軽く手を上げた。

「えー、次は絶対よー」

女性は不満そうに、少し頬を膨らませた。

「……ああ」

ギンは軽く返事をし、その場を後にした。

ギンの後ろでは、女性達の落胆しつつも騒ぐ声が聞こえた。


ギンは再び繁華街の中を進んだ。

一つの屋台の前を通ると、店主のおじさんのロブが声をかけた。

「よう!ギン。食ってかねぇか?」

ロブは、焼きかけの串焼きを見せた。

肉汁が滴り、炭がジュウと音を立てた。

「今日は上質なエイルの肉が入ったんだ。滅多にないぞぉ」

ロブは嬉々として、串焼きを見せつけた。

飯処を探していたギンは、串焼きに釘付けになった。

「ありがとう。丁度、腹が空いてたんだ」

ギンは微笑み、屋台の椅子に腰掛けた。

「飲み物はいつものでいいな」

ロブは嬉しそうに泡立つ酒をギンの前に置いた。

「頂くよ」

ギンはコップを軽く上げながら言い、一口飲んだ。

アルコールが体に染み渡る感覚が気持ち良かった。

ロブは、頼まれるより早く、皿に数種類の串焼きを何本か乗せ、ギンの前に置いた。

ギンは熱い内にそれを頬張った。

口の中に炭火の匂いが広がり、肉汁が喉を潤した。

「今日は夜遊びかい?」

ロブは串を焼きながら聞いた。

「まぁ、そんなとこ」

ギンはクスッと笑って答えた。

「いつものねぇちゃん達の所の帰りかい?」

「違うよ。今日は誘われたけど、断った」

ギンは更に串焼きを頬張った。

「ありゃ、ねぇちゃん達はフラれたのか~可哀想にな。そろそろ顔出してやんなよ」

ロブは他の客の皿に串焼きを届けつつ言った。

「ロブが相手してあげたら?」

ギンは煽るような目をした。

「無理無理。こんな煤臭いおじさんなんか相手にされねぇって」

ロブは首を大きく振り、笑った。

「それに、ねぇちゃん達のお気に入りはギンだろ?この前も、最近来てくれないって泣いてたぞ」

ロブはギンの皿に追加の串焼きを置いた。

「そうか。最近忙しくてな」

ギンは淡々と答えた。

「あんまり女の子を泣かすもんじゃねぇぜ?ただでさえギンは、危ない橋渡って、周りから心配されてんだからよ」

ロブは心配しつつも呆れた顔をした。

「そうかな?」

ギンは少し困った顔をした。

「そうだろ。あの裏社会の殺し屋組織VOIDと唯一連絡が取れる仲介人をやってるんだからさぁ」

ロブはため息を吐いた。

「店主、この街にもVOIDの組織があるのかい?」

ギンの隣の客が話に割って入った。

「観光客かい?ここテセオにあるVOIDは各地に点在するVOIDを纏める本部なんだとよ」

ロブは短く答えた。

「マジかよ。俺のいたラグナスにもVOIDはあったが、あれが支部!?」

観光客の男は顔を引き攣らせた。

「末恐ろしいよな」

ロブはうんうんと頷いた。

ギンは涼しい顔で串焼きを頬張り、酒を流し込んだ。

「で、仲介人ってのは?」

観光客の男は、恐る恐る尋ねた。

「ラグナスにはないのかい?相談事務所」

ロブは首を傾げた。

聞きなじみのない言葉に、観光客の男は首を振った。

ロブは観光客に言って聞かせた。

テセオには、酒場の二階に相談事務所があり、そこにVOIDへの依頼を持って行くと、ギンが対応にあたる。

ギンからVOIDへ連絡を取り、受領から報告、報酬の受け渡しなど、全てのVOIDとのやり取りをギンが仲介してくれるという。

「それを、この坊主が…?」

観光客の男は信じられないという顔で、ギンを見つめ、指を差した。

「な、危ない橋だろ~こんな若造が」

ロブは呆れて笑った。

「もう昔ほど若くないさ」

ギンはボソッと呟いた。

「嘘つけ、お前まだ十八歳だろ」

ロブはニヤッとした。

「二十五。いつもわざと間違えて何がしたいの?」

ギンは机にお金を置きながら、立ち上がった。

「えっ!?それで二十五?」

観光客の男は戸惑った。

「ほら見ろ。童顔だから二十五になんか見えねぇんだよ。十八ってことにしとけ」

ロブは腕を組んで、ふんっと鼻を鳴らした。

「また来るよ。ご馳走様」

ギンはロブの言葉には答えず、屋台を後にした。

夜風に、ギンの青い髪が揺れた。

容姿には特段興味がなかった。

童顔だろうと、髪の長さで女っぽく見られようと、どうでもよかった。

夜風に揺蕩うセミロングが視界に入った。


ー中々会えないから、少しでも近くに感じたくてー


ギンの頭に、優しく微笑む女性の声が反芻する。

唯一、その女性の髪と同じ長さだけが大切だった。


ギンはまだまだ明るい繁華街に背を向け、夜の闇に消えていった。

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