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八話 オルトロス攻防戦―2


 どうしてこうなった!

 いや、かなりマズい状況だよなこれ。

 クリスの意味深な発言の直ぐ後に上から何やら騒がしい声が響いて焦る。多分だけど騎士団が突撃してきて・・・しかも、この激しい戦闘の音から察するに全員いやがる。


 仮面の下で冷や汗を垂らしながら、一応冷静さは保っているが・・・こんな所を見られたら終わりである。奴隷を買いに来た時点で牢獄行き確定じゃないか。

 いや、まて、此処には一応ノエル嬢が居る。

 なら、単独でノエル嬢を助けに来たと・・・いや、金額聞いてたわ。

 いや、あれは演技と言う事にしよう。結果的には助けたんだし。


「この音、もしやアダ・・・じゃなかった。ギール様の差し金ですか?」

「え?あ、あぁそうだ」

「やはりそうでしたか」


 感心した様子のノエルに適当に話を合わせているけれど、そんな訳ない。

 あ、まさか!

 朝から騎士団の人たちが揃って訓練していたのはこの為?

 だとすると・・・大失敗じゃないか。


「ギール様。一つお願いがあります」

「なんだい?ノエル嬢の頼みであれば何なりと」


 辺りを警戒しているクリスを後目に告げると「では、剣をお貸し頂けないでしょうか」とお願いしてくるノエル。別に、それくらいなら・・・それに俺が持っていても仕方ないから良いかと思い、腰に差してある剣を抜き取り、ノエルに手渡す。ついでに布切れ一枚と言うのもかわいそうなので、羽織っているローブも一緒に渡してあげる。


受け取った彼女は「ありがとうございます」と告げてローブを羽織り、剣を持つ。

やはり、戦姫と言うだけあって様になっている。俺とは段違いだ。

でも、何故か、クリスが信じられないみたいな顔をして俺とノエル嬢を見ていた。


(君はアレか?男が着ていた服を貰いたくない派閥の人間か?泣くぞ)


「クリス。依頼は続行しても?」

「はい。なんなりと命じてください」


もう許さん。

彼女はこき使う。絶対、いや、報復が怖いな。

ペコリと臣下の礼をする。カルマに似ているから怖いんだよな、この子。

まぁ良いか依頼を続行してくれるみたいだし。


「先ずは此処に居る囚われた子達の救助をしようか。多分もうそろそろ騎士団が来るだろうから、来たら事情を説明して保護してもらうようお願いしよう」


「畏まりました。ギール様はどうされますか?」

「俺は、ノエル嬢と一緒に上に行こう」


 うん。ついでに逃げます。

 頷いてくれるノエル、分かってくれたみたいだ。


「危険では無いですか?」とチラリとノエルを見ながら告げるクリス。いや、危険だよ?主に逮捕されると言う意味で。と言うか、俺の剣と服を渡してから、心なしかクリスが彼女を警戒している。

 彼女みたいな優しい子を警戒しても意味なんて無いのに。

 それにいざとなったら、ノエル嬢を騎士に押し付けて謎の男ムーブをかまして逃げるつもりなので、彼女とは一緒に行動する必要があるのだ。


「問題ないだろう。さて、行きましょうか」

「はいっ」


 礼をするノエルに冷静さを演出しながら牢獄を抜ける。

 他の牢屋に閉じ込められている子達は何が起きているのか分からない様で、かなり怯えている様子。

 うん。俺も何が起きてるのか良く分かってないから、気持ちは分かる。


「君達。もう少ししたら騎士団が救助に来るから、此処に残る彼女の指示に従うように・・・頼んだよ」

「お任せください。ギール様もくれぐれもご注意を」


 ペコリとお辞儀するクリスを置いて、俺は元来た道を戻っていく。

 階段の上からは血の匂いと怒号が聞こえてくる。

 多分、大立ち回りしているな。

 案の定、上の階には夥しい数の男の死体と、血で汚れている甲冑を身に纏った騎士団の面々がオルトロスのメンバーと戦っていた。


 カメリアは居ないのか。

 これなら上手く逃げられるかもしれん・・・と考えていたけれど、当然そんな事は無く、騎士団の一人が俺に気づいて、隣にいるローブを被ったノエルを見て驚愕した様子で俺達を見ていた。


「な、え?せ、戦姫!?」

「助太刀します」


 剣を構え駆けだすノエル。

 騎士に近づいていた敵の一人の顎を剣の柄で打ち抜く。真上に吹っ飛んだ男を横なぎに剣を振り真っ二つにする。俺が持ってた剣ってあんなに切れ味鋭いのか・・・いや、多分あれは魔剣てきなあれだ。持つ人によって切れ味が、変わる的な。

 ノエル嬢も剣を見て何か考え込んでいるみたいだし、きっと彼女も『な、なんだ!?この素晴らしい切れ味は!』と驚愕しているに違いない。



「そこの騎士」

「へ?」


 ブンっと剣に付着した血を振り落しながらノエルが近くで呆けている騎士に近寄る。


「彼はギ(・)ー(・)ル(・)卿(・)だ(・)。(・)間(・)違(・)え(・)な(・)い(・)様(・)に(・)私を救ってくれた恩人だ。保護を頼みたい」

「かしこまりました」


 バッとお辞儀する騎士。

 おお。俺の事を誤魔化してくれた・・・やはり彼女を仲間にすれば・・・そうなるとクレバス王国は属国にしたいな。彼女に実権を握らせて、でも裏では俺と繋がっている。

 なんて、現実逃避しても仕方ないのでノエルの近くに移動する。


「ノエル嬢すまないね。という訳で頼んでいいかな?私の剣は彼女に預けているんでね」

「畏まりましたアダ・・・じゃなくてギール様」


 アダ?何を言いかけたんだこの騎士は。

 まぁ良いか。


「所でカメリア騎士団長は?来ていないのかな?」


 来てないと良いなぁ。


「団長は今上の階で敵の殲滅に向かっております」


 だよねぇ。

 敬礼しながら告げる騎士。

 こうなったら・・・ジッとノエルに視線を向ける。


「すまないが、ノエル、.此処は私達に任せて上に向かってくれるかい?」

「えぇ。助かります」


 まぁ元々上に行くつもりだったのだろうし、丁度良い。

 彼女を団長に押し付けておけば取り合えずこの場は逃げられるだろう・・・そして後で二人きりで話す。

 うん。これで行こう。

 なんか、ノエル嬢もカメリアの事を聞いて張り切ってるみたいだし。


「では、騎士も何名か彼女の護衛に」

「ダメだよ」


 俺の護衛が減るじゃん。

 俺死にたくないもん。


「何故ですか?」

「邪魔になるだろうからね」


 適当にはぐらかす。

 だって、君が行ったら俺を護衛する人が居なくなるだろ。

 今俺は剣も持ってないし。

 何より、見つかる前に帰りたいのである。


 「ノエル嬢」


 上の階へ向かおうとした彼女に声を掛ける。

 振りかえりつつ、敵を切り飛ばした彼女に少し怖く感じつつ「頑張ってくれ」と告げる。


 本当に頑張って欲しい。

 何とかあのカメリアを足止めして欲しい、出来れば俺が帰るまで。


 そんな俺の願いに、何とも言えない表情を浮かべた彼女は「すみません」と言って礼をして駆けだしていった。


 なんで謝られたんだろうか?

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