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六話 奴隷って扱い酷いね


 路地を抜けて更に奥。

 人通りも少なく、歩いている人もゴロツキの様な人相が多くなっている。

 帝国内でも、かなり治安の悪い場所だ。そんな場所を二人で歩く。クリスはさっきから周囲を警戒していて時々俺の方を見て驚いている。


 多分、気にせず歩いているからだろうけれど、こういうのは堂々とする方が良いのだ。

 

「注意してください。ここからは私達でも危ないので」

「分かっているさ」


 全く分かってないけど。

 犯罪組織だとしても、一応顧客予定なので問題ないだろうに。

 顧客を襲ってしまえば、そもそも奴隷売買なんて出来ないからね。


 大きな建物が見える。

 あそこが奴隷売買を行なっている拠点だ。

 そしてオルトロスの今の拠点らしい。


 幹部は此処にいないと聞いているけれど、入口の脇にはガタイのいい屈強な男が二人が辺りを警戒して立っている。近づいてくる俺達を見て訝しげな表情を浮かべて警戒するように睨んできている。

 そんな二人に躊躇なく近づく。ぶっちゃけ少し怖い。


「待て、仮面の。此処になんの用で来た」

「なに、少し買い物にね」


「ここが商店に見えるか?どっかいけ」


 シッシとあしらう男。

 最悪、強行突破も辞さないが、正直この二人かなり強そうである。

 なので、尊大で、尚且つ常連のように振る舞い、俺は首を大袈裟に横に振って「まさか、知らないとはね」と告げる。


「あん?」

「いいのかな?私の様な優良顧客を見逃しても...入荷しているんだろ?」


 奴隷を買いに来ただけの無害な人ですと暗に告げる。

 これで追い返されるなら、しょうがないのでプランB(騎士団にチクる)を発動せねばならない。


「なんで知ってる?」

「それを君に話す理由はあるかい?」


 堂々と告げる。

 ちなみに、クリスは滅茶苦茶警戒して、腰に差してある剣の柄に手を置いて、何時でも抜刀出来るようにしている。

 ジッと値踏みするように見つめる男達。


「ちっ・・・どうする?」

「どうするって・・・知ってるってことは上の連中の知り合いだろ」


 コソコソと話す男達。

 何を話しているのか良く分からない。

 暫く会議をしていたら「わかった。ついてこい」と言って扉を開ける。


 何とかなったか。

 相変わらず警戒しているクリスの先を歩き、男についていく。

 室内は閑散としていて、値踏みするように何人かの男が俺とクリスを見ている。

 階段を下る。


 地下へと続く道を歩き、下に降りると石畳の牢獄の様な場所に案内された。

 牢屋の中には何人もの多種多様な種族の女子供がいて、ビクビクと震えながら俺達を見つめている。


 布切れ一枚。

 碌に食事もしていないのだろう。

 やせ細った奴隷たち。


 それを気にせず、男は奥へと歩く。

 小さく「酷い」と口を漏らすクリス。暗殺組織の人間だったとしても、俺と同じ感想になるのか。実際此処の環境は最悪だし、売られた先が変態野郎とかだと目も当てられないだろう。

 帝国法では奴隷は違法なのだ。ましてや、獣人や、エルフ種までいる・・・どう考えても大問題だ。

 とはいえ、俺の目的はあくまでも、裏切りプレイの仲間集めである・・・オルトロスの様な野蛮な組織と手を組む事は無いけれど、かと言って、今この場の全員を助ける事は俺には出来ない。


「おい。ここだ」

「ん?」


 男が牢屋の前で振り返り俺達に合図する。

 どうやら、俺達におすすめの奴隷を見繕っていたらしい。どうりで、勝手に奥に進んでいくと思ってた。特に希望を言った訳では無いのだが・・・出来る男か、まぁ犯罪者なので正直仲間にはしたくないけどね。

 ツカツカと牢獄の前に移動して中に居る女性を見つめる。

 手首に鉄の腕輪。

 首元に魔道具と思われる首輪を付けられ、グッタリとしている女性が居た。


(どこかで見たなコイツ)


 ボサボサの水色の髪。

 死んだような眼をした女性は、それでも男と俺達を必死に睨んでいる。


 隣で息を呑む音がする。

 クリスは、目の前の女性が誰か気付いているみたい。

 やっぱり有名人だよな?本当に何処で会ったんだっけ?

 それに、こうも敵対的な目をされると反撃が怖い。


「随分反抗的な様子だが?」

「はっ!そりゃそうだろ。あぁ安心しろよ・・・その女にはちゃんと封印の首輪を付けてある」


 封印の首輪か。

 確か、魔法と身体弱化を施す違法魔道具だったな。

 でも、俺みたいな力の無い男じゃ、普通に殺されそうだけども。

 

 まぁそれを言って変な風に舐められても困るので、此処は尊大な態度を意識する。

 

「だが、こうも弱っているとな」

「関係ないだろこの女は。首輪が無ければ今頃お前さんも死んでるぞ」


 そんなに強いのか・・・あ!!

 思い出した!!


 この人、戦姫じゃない?

 クレバス王国の戦姫『ノエル・ローズマリー』だわ。

 クレバス平原の戦いでクレバス王国とダイス国が戦争していた時に見た事があるぞ。

 カメリアには及ばないにしても、かなり強かった筈。

 しかも・・・彼女は確か、今のクレバス王国では二番目の権力者じゃなかったか?


 い、行ける!!

 ノエルを使えばクレバス王国も手に入る・・・最高の人選じゃないか!!

 というか、何でこの人犯罪組織に捕まってるんだ?いや、今はそこはどうでも良いか。

 どうせ、彼女を助ける(買う)ので後で聞けば良い。


「いくらだい?」

「聞いてないのか?大金貨2000枚だ」


(何言ってんだこの男は)

 大金貨1枚で一般人の年収である。

 そして、俺の全財産は今の所大金貨10枚である。

 足りねぇ。と言うか、売る気無いだろコイツ。

 チラリと辺りを見回す。

 どうやら、この男以外は居ないようである。

 俺は、覚悟を決める。

 予定変更、そもそも何で俺の全財産をこの犯罪野郎に渡さなければならんのだ。

 チラッとクリスを見ると、俺を見て覚悟の籠った目をしている。


「クリス」

 クリス、やっておしまい!!

「かしこまりました」


 ペコリとお辞儀するクリス。

 なんか、本当にカルマに似ているな、この子。

 呑気にそんな事を考えていると、クリスが動き出す。


「お、おい何をっ....ぐあああっ」


 バタンとその場で倒れ伏す男。

 一瞬のうちに俺の真横から男の背後に移動したクリスが一撃で男を仕留める。


―― 見えなかったんだけど。


(え?もしかしてクリスって強いのか?)


「あだ・・・じゃなかった。ギール様、彼女を」

「ん? あぁそうだね」


 カチャンっと簡単に鍵を開けたクリスに促されて、俺は牢獄の中に居るノエルに向けて歩く。

 今の一連の流れを見て、動揺している彼女だったが、俺が近づくと、キッと睨みつけて警戒している。

 普通は奴隷市場に来る人間なんて信用できないよねぇ。


「すまないね。今、解放する・・・ふむ」


 喋りも封じられているのか。

 口をパクパクと開いているが、一切聞こえない。魔法を詠唱させない様にする為だろうか?でも、彼女の場合は魔法得意だったっけ?


「クリス。この首輪は外せるかな?」

「問題ないです」


 しゅっと一瞬で俺の隣に来る。

 やっぱり、この子俺より強くないか?

 そもそも、この首輪の解除ってかなり難しかった筈。

 でも、当然の様にクリスは首輪を弄る、まるで何度も解除した事があるみたいに。

 カチャカチャと首輪を弄ると、しばらくして首輪が外れる。

 ガチャンと音を立ててその場に落ちる首輪。


「大丈夫かな?」

「・・・げほっげほっ、あ、あなた達は?なんで、私を助けたんですか?」


 警戒しながら、自身の体の調子を確かめるノエル嬢に俺は出来るだけ安心させるように両手を上げる。

 それでも警戒を解かない彼女。


(あぁ仮面が問題なのかな?)

「あぁ。すまないね」


 かちゃっと少しだけ仮面をずらす。

 クリスに見えない、でもノエルには見える様に。

 一瞬息を呑んだノエルは、何とも言えない顔をして俺とクリスを交互に見つめてる。

 なんだろうか?余計に警戒しているみたいなんだけれど。


「今はギールと名乗っているのでね」

「そ、そうですか。でも、何で貴方が此処に?」


 どうやら俺の事は知っているみたいだ。だからこそ、俺が此処に居るのが不思議なのだろう。

 ならば、此処は適当な事を言って信用させよう。うん。彼女は何としてでも堕としたいのだ。


「風の便りでね。君を助けに来たんだ」

「そうですか。風の便りで・・・そうです。ここに居る子達の救助を!」

 

 救助ですか、いや、そうなるよね。

 彼女の性格は知っている。優しい性格だと・・・でも、正直三人ではどうやっても助けられないのだけれど。

 彼女の信頼を勝ち取るには、此処に居る子達を助ける必要がある。でも、俺の実力じゃ助けられないし、困ったな。


「問題ないです」


 おや?

 クリスがなんか自信満々な様子だけれど一体どういう事だろうか?もしかしたら、暗殺組織の増援でも来るのだろうか?


―― そう考えていた時期が俺にもありました。




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