五話 俺はもしかして強いのかもしれない(そんなわけない)
自由の身である。
そう、自由・・・なんと良い響きなのか。
ここ数日はずっとカルマが張り付いていたし、何だったら少しウザかった。
だけど、そのカルマも今はカメリア団長の傍に居るのだ。
―― 翼の生えた鳥の様に空を羽ばたく、なんちゃって。
一応暗殺組織の存在もあるし剣は帯刀していく。
執務室に置いてあった二振りある剣の内一本だ。
なんか豪華な装飾が着いた方の剣は観賞用みたいな感じだったから置いてきた。
正直、こう中世で使われている様な直剣では無く、刀の方が俺としては好きなんだけれど。
そんな物は存在していないので諦めている。
城を出て、大通りを抜け路地に入って直ぐ、俺は仮面を付けて身分を隠す。
相変わらず大通りは賑わっているが、一本路地を抜けると、途端に寂しくなるのは心に来るものがあるのだけれどまぁ関係ないから良いか。だって俺は帝国を裏切るんだし。
薄暗い路地を歩く。
犯罪組織『オルトロス』
正直、此処に関しては裏切りプレイの表の黒幕としては弱い。
なので、邪魔なら消そうと思っているが、今日に関しては見逃すつもりである。
優秀な奴隷を手に入れて裏切り者プレイを手伝ってくれる戦士を手に入れる為に。
カツンっと俺の足音とは別の音が響く。
風が後ろから聞こえ、咄嗟に俺は剣を抜き振り返る。
激しい金属音と、手に伝わる重い感触。
訓練しててよかったぁ。
目の前には、黒いローブを羽織り、口元を隠した何者かが、剣を振り下ろしていて、一瞬俺が抜刀するのが遅れていたら多分斬られていたと思う
つばぜり合いをしながら、至って冷静に襲撃者を見つめる。
「何者だい?」
「・・・・・・」
バッと飛びのく襲撃者。
俺に話す事は無いと言いたげにジリジリと間合いを調整している。
随分と小柄な襲撃者だな。それに、なんか弱そう。
「話せないのかな?」
「・・・」
ジッとローブの奥から漆黒の瞳を覗かせて俺を見つめる。
暗殺組織の人間だろう。
だけど、そうなると俺を狙う意味はあるのか?
一応依頼主なんだけれど。
内心バクバクしているが、冷静な演技をしつつ「もしかして暗殺組織かな?」と尋ねた。
「・・・そうだ」
「ふむ。女性か」
声の感じから女性だと分かった。
だけど、やっぱり暗殺組織、なんでだ?
俺の暗殺依頼ではあるけれど、一応依頼主の恰好をしているし。
そうこうしている内に駆けだす襲撃者。
周囲の壁を使いながらジグザグと的を絞らせない様に駆けてきて、バッと跳躍すると、俺の背後を取って斬りつけてくる。
―― それにしても、遅い?
余裕を持って、俺は剣で受け止める。
身体強化を施して、ずいッと押すと金属音を響かせながら大きく後ろに飛びのいていく。
もしかしたら、俺って強いのかもしれない。
何度も攻撃を繰り返す襲撃者。
だけど、その全てをいなしていく。
彼女との打ち合いは練習になるので丁度良いかもしれない。
でも時間が無いんだよな・・・あ!そうだ。
大きく距離を取る。
距離を取った事で、警戒して近づいてこない襲撃者。
「暗殺組織への依頼はアダムの暗殺だった筈だよ」
「そうだ」
「なら、間違えているよ。俺は今・・・そう、今はギールだ」
裏切るからギール。
適当に考えた名前だけれども。
俺の様子を見ていた暗殺者は、暫く間を取ってから剣を仕舞う。
「そう。勘違い・・・じゃあ帰る」
え?そんなんで良いのか暗殺者?
目撃者は殺す的なアレは?...あ、そうか依頼主だから殺せないか。
いや、だとしたら謝罪くらいするべきだろうに。
「待て」
「何か?」
クルリと振り返り俺を見つめる。
「君に追加の依頼をしても良いかな?」
「お金は?」
「依頼主を襲ったんだ・・・サービスだろう?」
ニヤっと仮面越しに笑いながら話す。
こういうのは雰囲気が大事なのだ。
「まぁそういう事にしてあげるよ」
そういう事も何もそのままなのだけれど。
まぁ奴隷を買うのにお金が必要なのでサービスで依頼を受けてくれるならありがたい。
「で?何を依頼するの?」
「何、これから少し行く所があってね。用心棒としてついて来てくれないか?」
俺より弱い子だけど、暗殺者として培ってきた感とか、後は純粋に一人だと怖いので着いて来てほしいのだ。
そんな、俺の様子を見た彼女は暫く考えた後「はぁ」と大きなため息を吐きながらローブを脱ぐ。
鬱陶しそうに自身の黒い髪を手で払いながら「まぁ良いけど」と言って依頼を受けてくれる。
そんなカッコつけなくても、俺より弱いのにな。
「で?もしかしてだけど、行くところってオルトロスじゃないの?」
「?あぁ知ってたか。そうだオルトロスに用があってね」
暗殺組織のリーダーに聞いていたから、彼女もどうやら知っていたらしい。
「でも、なんで今さら?」
今さら?
何を聞いているのか良く分からないけれど、まぁ適当に流しておくか。
「何、少し気になる情報を耳にしてね」
「気になる情報?一体何?」
「行けば分かるよ」
行けば俺が奴隷を買うから分かるだろう。
一応犯罪だけど、彼女も暗殺組織に居るのだから・・・きっと見逃してくれる。
そう言えば。
「そう言えば、君の名前は何て呼べばいいかな?」
「クリス」
クリスってなんか男みたいな名前だなぁ。
見た目、完全に女の子だし・・・まぁ人の名前にケチをつけるのは裏切り者として悪であるから、気にしないのだけれど、それよりも時間も時間だ。
「なら、一緒に行こうか」
「わかった。依頼主は必ず守る」
無感情で告げるクリス。
可愛い顔をしているのに、なんだかカルマみたいである。
スタスタと俺の隣に来ると「案内する」と言って手を引くクリス。
案内してくれるなら、助かる。
ぶっちゃけ、場所は聞いていたけれど、イマイチ良く分かっていなかったから。
一緒に路地を歩く。
「それにしても、クリスは隠密なのかな?」
彼女は忍者の末裔かもしれない。
先ほどから彼女の足音が聞こえないのだ。
一瞬ビクッと体を震えさせた彼女は「違います」と言ってはぐらかす。
嘘だな。
俺を騙そうとしても無駄である。彼女はきっと凄腕の忍者だ。
でも、忍者ってこの世界に居たっけ?というか、忍者が居るなら刀とかもあるのでは?
「そうかい?まぁそういう事にしておこうか」
忍者ってバレたらマズい的なアレかもしれないしな。
でも、なんでさっきから彼女は額から汗を垂れ流しているのか。
暑いのかな?そんなに気温も高く無いので涼しい筈だけれど。
だけど、忍者なら欲しい人材かもしれん。
暗殺組織から何とかヘッドハンティングしたいなぁ。
まぁ、今の俺はギールなので、引き抜きは無理だけど、何時かアダムとして引き抜こう。




